リオを駆け抜けた侍たち──銀メダルは、奇跡ではない

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GQ JAPAN

2016年、最も輝いた男たちを称えるアワード「GQ Men of the Year 2016」。ベスト・オリンピア賞に輝いたのは、リオ五輪陸上男子4×100メートルリレー銀メダリストの山縣亮太、飯塚翔太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥の4人だ。

 

文・川上康介   Photos: Maciej Kucia @ AVGVST
Styling: Masayuki Sakurai
Hair & Make-up: Go Utsugi @ SIGNO

 

スポーツはときに信じられない光景を見せてくれる。リオ五輪でもっとも奇跡的だったのは4×100mリレーの銀メダル。絶対的な強者たちに立ち向かった4人の侍の武器は「信頼」。仲間を信じる気持ちが彼らを表彰台へと導いた。

 

(左から)山縣選手◯スーツ ¥421,000〈LOUIS VUITTON/ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854〉 その他スタイリスト私物 飯塚選手◯スーツ ¥365,000、シャツ ¥46,000、タイ、靴 ともに参考商品〈すべてDOLCE&GABBANA/ドルチェ&ガッバーナ ジャパン Tel.03-6419-2220〉 桐生選手◯スーツ ¥168,000、シャツ ¥43,000〈ともにDSQUARED2/ディースクエアード 東京 Tel.03-3573-5731〉 その他スタイリスト私物 ケンブリッジ選手◯スーツ ¥460,000、シャツ ¥90,000、タイ ¥30,000、ポケットチーフ ¥22,000、靴 ¥195,000〈すべてTOM FORD/トム フォード ジャパン Tel.03-5466-1123〉

 

 

■カタナを抜いた

 

4×100mリレー決勝直前、日本がコールされ、4人が並んで走ってきた。彼らは突然カメラの前で立ち止まり、刀を抜くパフォーマンスをした。そのときテレビを見ながら、バツの悪いような、なんともいえない気持ちになったのを覚えている。

 

「確かにいま考えると、あんなことしてメダルを取れなかったらカッコ悪いですよね(笑)。でもあのとき僕は第1走者であまりいろいろ考える余裕がなかった。とりあえずみんなやるっていうからやっておこうと。そのせいでちょっとタイミングがずれました」(山縣亮太)

 

侍ポーズの発案者である飯塚翔太が裏話を語ってくれた。

 

「運営サイドから、呼び込みのときにパフォーマンスをしてくれと言われていたんです。それで僕がいくつか考えて、あの刀を抜くパフォーマンスになった。集中したい場面なので、あまり考える必要がなくて簡単にできるものを選びました。刀で斬るところまでやろうとも思ったんですが、走る前に相手を斬るのは挑発的すぎるかなと(笑)。あの瞬間、緊張はしていましたが、それを楽しめていました。みんな調子が良かったし、やれる自信があったから、あのパフォーマンスができたんだと思います。あとで気づいたんですが、実は6チームのうち、言われたとおりにパフォーマンスをしたのは3チームだけでした。でもその3チームが表彰台に立ったんですよ」

 

日本が陸上のスプリント競技で銀メダルを獲得するなんてことは、単純にタイムだけを計算すると、ありえない出来事だった。日本人選手はいまだ誰も100m10秒の壁を突破できていない。ウサイン・ボルト率いるジャマイカはもちろん、9秒台の選手を揃えるアメリカにも敵いっこない、と思われていた。そして4人は4人とも口を揃えてこう言う。

 

「銀メダルを取ったのは奇跡ではない」と。

 

©朝日新聞, ©(Left)Jiji, (Right)Photoshot / Jiji Press Photo

 

©朝日新聞, ©(Left)Jiji, (Right)Photoshot / Jiji Press Photo

 

©朝日新聞, ©(Left)Jiji, (Right)Photoshot / Jiji Press Photo

 

「僕の中では、メダルを狙って、思い通りの結果になったという感じです。決勝のときも緊張はしませんでした。自信があったし、雰囲気を楽しめていました。ミスさえなければ絶対にメダルを取れると信じていました」(ケンブリッジ飛鳥)

 

「3月に初めて4人でリレーの練習をしたときから、このメンバーならメダルを狙えるなと思っていました。予選でもいいタイムが出ていたんですが、決勝でさらにタイムを上げるために、スタートを7センチ後ろに下げたんです。練習でもそんなことをやったことない、ぶっつけ本番だったんですが、バトンミスをするとは思いませんでした」(桐生祥秀)

 

桐生が語るように、日本チームは決勝のときに、バトンを受け取る側の走者のスタート地点を予選時よりも7センチずつ後ろに下げていた。受け取る側は、助走が長いぶん、より加速に弾みをつけられる。ただし渡す側はその加速に追いつかなければならない。そして、0.01秒を争う世界においては、ほんのわずかな呼吸のズレがミス、つまりタイム・ロスにつながる。練習を重ねてきたバトンパスの距離を、決勝の大舞台で変えるというのは、メダルを取るための大きな賭けだった。

 

「じつは前回のロンドン五輪のときは、決勝のときに予選のときより15センチぶん、スタートを下げたんです。ところが本番では、この15センチの長さがスタートの躊躇につながった。後ろが追いつけるかなと不安になって、思い切り走り出せなかったんです(結果は4位)。攻めなければメダルに届かないし、攻めすぎると失敗する。そこで出てきたのが15センチの半分、7センチだったんです。それがいい結果につながった。もし今回も15センチでやっていたら、受け取る側のスピードが乗りすぎて、リレーゾーンをはみ出す失格になっていた気がします。7センチがギリギリのチャレンジでした」(山縣)

 

オリンピックでメダルを取るために、バトンパスのタイミングを本番で変えるという賭けが成功したのは、「おたがいを信じて走ることができたから」(飯塚)。4人の間には絶対的な信頼関係があった。

 

(左から)飯塚選手◯ブルゾン ¥179,000、パンツ ¥104,000〈ともにJIL SANDER/オンワードグローバルファッション Tel.0120-919-256〉 ケンブリッジ選手◯ブルゾン ¥276,000、パンツ 参考商品〈ともにLOUIS VUITTON/ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854〉 山縣選手◯ニット ¥160,000、腰に巻いたブルゾン ¥230,000、パンツ(参考価格) ¥111,000〈すべてVALENTINO〉、サンダル(参考色) ¥102,000〈VALENTINO GARAVANI/以上すべてヴァレンティノ インフォメーションデスク Tel.03-6384-3512〉 桐生選手◯ジャケット(予定価格) ¥154,000、ブルゾン(予定価格) ¥259,000、パンツ 参考商品〈すべてFENDI/フェンディ ジャパン Tel.03-3514-6187〉

 

 

 

■このメンバーが揃ったのが奇跡

 

駒沢陸上競技場で行われた撮影のときも、4人の仲の良さが伝わってきた。控室はまるで部室。他愛のない話を4人で繰り広げていた。最年長の飯塚が語る。

 

「最年長でもあるし、僕と山縣君はロンドンの経験もある。ロンドンでの”借り”を返すためにも、年下の2人が力を発揮できるようサポートしていこうと思っていました。でも実際は、僕が何かをすることはほとんどありませんでした。みんな自分のやるべきことをしっかりと分かっていて、とても頼もしかったです」

 

山縣、桐生、ケンブリッジは、100mの個人種目を争うライバル同士でもある。そのことはリレーにいい効果をもたらしたという。

 

「普段戦っているぶん、たがいのいいところを知っている。こいつらならやれるはずだって思える。最高のライバル同士だからこそ、最高のリレーチームになったんです。銀メダルを取ったことは奇跡ではありませんが、これだけのメンバーが揃ったことは奇跡的。これからも競い合いながら記録を伸ばせると思うと、すごく楽しみです」(山縣)

 

 

 

■そして、東京へ

 

彼らの目は、もう4年後を見据えている。

 

「銀メダルを取ったことで、自信がついたし、いい意味で欲も生まれました。僕はまだ、自分のポテンシャルを出しきれていないように思います。東京オリンピックでは個人では100mで決勝進出、リレーでは金メダルが目標です」(桐生)

 

「アンカーとしてボルトと並んで走れたことは大きな経験になりました。『ウワッ、はやいなー!』と思いましたけど(笑)、あれを体験したらもう怖いものはない。9秒台は、来季出したいと思っています。リレーは、またこのメンバーで走りたいですね。まだみんなタイムが伸びると思うし、バトンパスももっと磨ける。金メダルも夢じゃないと思っています」(ケンブリッジ)

 

4年後、彼らが表彰台のいちばん高いところに立っていたとしても、それは奇跡ではない。侍ポーズは自信の証。次はそう信じて、思い切り声援を送りたい。

 

飯塚翔太
1991年生まれ、静岡県出身。ミズノ所属。ロンドン五輪からの2大会連続出場。リオではリレー以外に、個人200mにも出場した。身長185センチの大型スプリンターで「和製ボルト」の異名を持つ。チーム最年長のリーダー。

 

ケンブリッジ飛鳥
1993年、ジャマイカ生まれ、2歳から日本で暮らす。ドーム所属。ジャマイカ人の父と日本人の母を持つ。100mのベストタイムは日本歴代9位の10秒10。2020年の東京では、100m、200m、そしてリレーの3種目で日本代表を目指す。

 

山縣亮太
1992年生まれ、広島県出身。セイコー所属。オリンピック2大会連続出場。リオ五輪の100m個人では準決勝で自己ベストとなる10秒05のタイムを記録。五輪後の9月、さらに10秒03と記録を更新した。

 

桐生祥秀
1995年生まれ、滋賀県出身。東洋大学在学中。高校3年生の競技会で10秒01の日本歴代2位となる記録を樹立し、「10秒の壁に挑む男」として注目を集める。2015年には追い風参考ながらも9秒87の好記録を出している。

 

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