【今週の大人センテンス】差別に対する浦和レッズ・李忠成選手の胸を打つコメント

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巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第39回 神対応が照らし出す日本社会の情けなさ

 

「自分から好きにならないと相手(サポーター)も好きになってはくれない。そう考え方を変えた」by李忠成(サッカーJ1浦和FW)

 

【センテンスの生い立ち】

2014年3月、イングランドのチームからサッカーJ1浦和に加入したFWの李忠成選手を迎えたのは、本拠地に掲げられた「JAPANESE ONLY」という差別意識に満ちた横断幕だった。この出来事が李選手や彼の家族に、どれだけ深い悲しみや苦しみを与えたかは計り知れない。しかし李選手は、昨季の途中からこの言葉のように考え方を変えたという。今季で3年契約が終了したが、来季も浦和サポーターとともにJ1優勝を目指すことを決断した。

 

3つの大人ポイント

・悲しい仕打ちを受けながらも、広い心で冷静に対応している

・まず自分が歩み寄ることによって、相手の変化を願っている

・日本社会を覆っている醜い「差別意識」をあぶりだしている

 

テレビをつけると、「日本はすごい!」「日本人は偉大だ!」と大声で連呼する番組が花盛りです。わざわざ外国人を連れてきて、驚かせたり称賛させたりとかして。ああ、なんてみっともないんでしょう。国にせよ人にせよ、本当にすごくて偉大だったら、自画自賛に熱中したりはしません。そんな番組がウケていることからもわかるように、日本人はすっかり自信を無くし、手近なプライドにしがみついて本当のプライドを捨てようとしています。

 

その表われと言っていいと思いますが、差別意識を隠そうともしない、差別意識を表明することが「強さの証」だと勘違いしているトホホな人たちが、いつの間にか増えました。ヘイト(差別的な憎悪)をまき散らすデモがあちこちで行なわれ、国会議員や有名作家までもが偏見に満ちた差別発言をして恬として恥じない光景が繰り広げられています。

 

国や民族に由来する差別だけでなく、男女差別は相変わらず根強いし、原発事故の被害者に対する卑劣な差別やイジメも話題になりました。報道の自由度ランキングも男女平等度ランキングも、勢いよく下がり続けています。「日本バンザイ」なテレビ番組で描いている姿とは裏腹に、客観的に見て現在の日本は、かなりタガが外れた状況だと言えるでしょう。

 

あと数日で2016年もおしまいですけど、来年はそんな状況に少しでも歯止めがかかりますようにという願いを込めて、浦和レッズ・李忠成選手の崇高で感動的な発言を取り上げてみたいと思います。人さまの差別意識や差別行為を嘆くばかりじゃなく、自分の胸に手を当てて、気が付いていない差別意識が存在していないかも自問しつつ。

 

2014年3月、浦和レッズの本拠地・埼玉スタジアムで「差別横断幕」が掲げられるという事件がありました。「JAPANESE ONLY」(日本人以外お断わり)というフレーズは、イングランド1部サウサンプトンから浦和に加入したばかりの李忠成選手に向けられたもの。調査の結果、Jリーグ側は差別行為が行なわれたと判断し、浦和にJリーグ史上初の無観客試合の処分を科します。

 

悲しいスタートになってしまった李選手ですが、それから3シーズン、浦和レッズのFWとして大いに活躍。とくに今年2016年のシーズンでは、10得点をあげて浦和のリーグ優勝に大きく貢献し、やはり浦和が優勝したJリーグカップ(YBCルヴァンカップ)では、MVPに輝いています。3年契約が今季で満了した李選手は、浦和と新たな契約を締結。12月24日付「朝日新聞」に、その決断に至る李選手の心境や、事件を受けてクラブが差別撲滅に向けてどんな取り組みをしてきたかについての記事が掲載されました。

 

あの横断幕、乗り越えて 李忠成「来季も浦和で」 サッカー(朝日新聞デジタル)

(有料記事なので、全文を読むには会員登録が必要です)

 

記事によると、今季最後のチームミーティングのあと、契約更新について問われた李選手は「浦和とは、JAPANESE ONLYで始まった。自分以上に、家族が苦しんだ」と語ったとか。「あの問題からしばらくは実家の周りに警察がいた。最初は応援に来てくれていた両親も、いろんな声を聞いて、今はスタジアムに来なくなった」とも。在日コリアンの両親にとって、日本代表にも選ばれたことがある自慢の息子が元の国籍を理由に差別されたこと、試合の応援にも行けなくなったことは、さぞ悲しくショックでしょう。

 

李選手自身も、どれだけ傷ついたことか。横断幕はひとつの象徴であり、浦和サポーターの一部が自分に差別的な視線を向けていることは、その後も意識させられたはずです。契約を更新するにあたって、李選手は頭の片隅で事件のことを考えたとか。しかし、昨季の途中から「自分から好きにならないと相手(サポーター)も好きになってはくれない。そう考え方を変えた」という彼は、来季も浦和サポーターとともに戦う道を選んでくれました。

 

悲しい仕打ちを受けながらも、チームやサポーターを見放したりせず、広い心で冷静に対応していること。相手の非を責め立てるのではなく、まず自分が歩み寄ることで相手の変化を願っていること。まさに大人力に満ち満ちた態度です。差別横断幕を掲げたり彼に差別的なヤジを飛ばしたりした人たちは、この言葉をどう聞くでしょうか。

 

在日韓国人4世として日本で生まれ育った李選手は、オリンピックに出場して在日韓国人の可能性をアピールしたいと、2007年に日本に帰化しました。日本名を通名ではなく「李」のままにしたのは「韓国姓を隠す必要がないことを示したい」という思いから。ただ、2004年に韓国代表候補に選ばれて練習に参加したときは、在日韓国人をさげすむ「パン(半)チョッパリ」という悪口を浴びせられるなど、祖国でも差別的な扱いを受けました。

 

差別が蔓延する昨今の日本において、とくにネット上では、こういう記事を書くと「お前はそれでも日本人か」と非難されそうです。「こいつはきっと在日だ」というレッテルを貼ってドヤ顔をする、どうにも理解不能な輩も現われるでしょう。しかし、そんな人はごく一部であり、李選手の言葉に何かを感じてくれる人が大多数だと信じて、勇気を振り絞って火中の栗を拾っています。友達を減らすかもしれませんが、この記事を読んで距離を置いてくるなら、友達でいてもらわなくてもぜんぜんかまいません。

 

事件を反省した浦和レッズは、差別をなくすための取り組みを重ねてきました。職員が観客席の見回りやSNSのチェックを行なって、差別的な言動を監視しています。また、ホームの試合で差別撲滅を訴えるブースを設けたり、高校生に向けた勉強会を行なったりといった啓発活動も精力的に実施。ただ残念ながら、差別横断幕以降もJリーグでの差別事件はなくなってはいません。しかし、リーグ側の意識が変わったことは、ファンの意識にも大きな影響を与えていることでしょう。

 

「差別を試練と捉え、乗り越えようと頑張ってきた」という李選手。その大人な発言は、日本を覆っている醜い「差別意識」をあらためてあぶりだしてくれました。ひとりひとりが差別に敏感になった上で、「差別はみっともない」「差別は愚かな行為だ」という認識を広めることが何よりの抑止になるはず。日本社会がいい方向に変わってくれることを信じて、来たるべき2017年は、目の前で誰かが差別的な発言をしたときには、はっきり注意はできなくてもせめて露骨に不愉快な顔をすることを心がけましょう。

 

 

【今週の大人の教訓】

たとえささやかでも、着実に前進し続けることが大切

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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