もはや言いがかりレベル…「餅つき禁止」騒動に見る1億総リテラシー劣化

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唖然とした。例の「餅つき」問題である。ことが大事になったのは、11月29日付の日本農業新聞に「餅つき禁止!? 年末年始恒例なのに 自治体規制に住民反発も」という記事が掲載されたことだった。記事中では都市近郊で「保健所から『食中毒の危険がある』としてやめるよう指導を受けた」「『明文化していないが、集団食中毒発生の恐ろしさを説明し、餅つきをやめるよう、かなり強く伝えている』という自治体もあった」という事例を紹介していた。

 

そもそも餅つきとは、正月に神仏に供えるための鏡餅をつくための行事だ。穀物の神様である、「年神」への供え物を用意する、言わば"神事"である。日本国憲法第20条では信教の自由をこう謳っている。「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」(第1項)、「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない」(第2項)、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」(第3項)。

 

つまり、誰もが宗教自体はもちろん、関連行事への参加・不参加も含めた自由が保障されていると憲法でも規定されている。第3項の「国及びその機関」の定義も、2002年の国会答弁で当時の小泉純一郎首相が「「国及びその機関」には、地方公共団体及びその機関も含まれる」と答弁している。当然保健所もその範疇に入るわけだ。

 

保健所は「疾病の予防、衛生の向上など、地域住民の健康の保持増進に関する業務を行う」(厚生労働省HPより)ための機関である。あくまで「健康増進」を目的とした機関であり、地域の行事自体に対して何かを判断する機関ではない。確かに餅つきを「神事」とするかは個々の催事の性格もあるだろう。だが、保健所がなすべきは衛生管理の徹底にまつわる指導。行事の実行について判断する立場ではない。

 

そもそもは神事から派生した行事に対して、中止勧告を行うということに躊躇がなかったとすれば、組織としてもずいぶんと恐ろしい(もしくは愚かしい)話だ。いわゆる「クサいものにフタ」以外の何物でもない。

 

確かに今年はノロウイルスが大流行している。自主的に餅つきを中止するコミュニティも少なくない。そのこと自体は各コミュニティの判断だから仕方ないだろう。だが「餅つき会」に対して保健所がなすべきは「餅つき危険!」とがなり立てることではなく、「食中毒を起こさないための衛生管理指導」のはずだ。

 

・ノロウイルスは手のシワなどに入り込むので、石鹸を使って手洗いを丹念に行う。

・用具を熱湯で消毒する。

 

ほとんどのケースは上記のというレベルで解決できるはずだし、それでも不安ならば調理用の使い捨てビニール手袋を着用したり、次亜塩素酸水(ドラッグストアなどでも売っている)で必要に応じて消毒をしながら餅をつけばいい。

 

そもそも過去の餅つき会でノロウイルス食中毒が起きた事例を見ると衛生管理がまるでなっていないケースが多い。例えば東京都で過去に起きたケースでは、「餅つきのの全工程が素手で行われており、作業前やトイレ後の手洗いは徹底されていませんでした。また、返しの水は交換されていましたが、容器の洗浄はされておらず、他の器具類も途中段階で十分な洗浄、消毒を行うことなく使用されていました」と明らかに衛生管理に問題がある。

 

冒頭の日本農業新聞の記事でも「厚生労働省監視安全課によると、餅つきを原因とした食中毒発生件数の統計はないが、餅を原因にした食中毒は2013年が4件(1件が桜餅)、14年が桜餅で1件、15年が1件」という程度にしか発生していない。にもかかわらず、「餅つき会を中止せよ」とはもう言いがかりにも等しいレベルだ。

 

今回の話題はテレビの情報番組などでも取り上げられた。例えば「とくダネ!」では司会の小倉智昭が餅つき擁護論を展開したところ、コメンテーターの古市憲寿が「小倉さんみたいな人が勝手に食べて食中毒になる分には別に(いいんじゃないですか)」。ゲストがビニール手袋案を持ち出しても、古市は「こねるところが見えると、気持ち悪くなる」と個人的な感想を述べていらした。すごい。なんと純な方なのだろう。

 

本来、こうした番組のコメンテーターに求められていたのは、司会やその他のゲストにはない知識とこじつけ力である。神事説でも保健所の役割説でもなんでもいいから、論拠めいたものを引っ張ってきて、神の視座から新しい切り口を提示し、話題を着地させるのが役割のはずだが、口にするのは個人としての感想ばかり。こういうやり方もありなのか。ふーむ。

 

お役所は業務の範囲を勘違いし、メディアはまともなツッコミも入れられず、大衆は粛々とお上のお達しに従ってしまう。年の瀬に降ってわいたキュレーションサイト問題なども含め、リテラシーの低下に目を覆いたくなる事案は数え切れないほどあったが、ともあれ来年の餅つきには、余計な横やりが入らないような2017年でありますように。よいお年をお迎えくださいませ。

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松浦達也

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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