預金は遺産じゃない?

マネー

誰しも、もめ事に巻き込まれたくはありません。

 

しかし、どんな人でも巻き込まれるかもしれない紛争の一つに相続があります。人には最低でも必ず母親がおり、大部分の方には父親がいます。また、配偶者、兄弟、祖父母もいることでしょう。父、母や配偶者が亡くなれば必ず、兄弟、祖父母の場合も事情によっては、自分が相続人になります(さらには、悲しいことですが、自分の子が亡くなった場合に親が相続人になることもあります)。

 

相続人が複数存在すれば、分割しないといけません。遺産分割です。

 

亡くなった方が遺言を書いていてくれば、遺産分割のやりかたを書いておいてくれているのが通常ですが(これを遺産分割方法の指定といいます)、そうでない場合は、相続人同士で話し合って遺産を分け合う必要があるのです。この話合いを遺産分割協議といいます。さらに話合いを家庭裁判所で行うことも可能です。これが遺産分割調停です。調停でも解決しなければ、家庭裁判所が分割方法を決めます。これが遺産分割審判です。

 

前置きが長くなりました。ここからが本題です。

 

このようなニュースに最近接しました。

 

預金の分割、大法廷が判断へ 遺産「対象外」見直しか-日本経済新聞

 

以下引用です。

 

預金を他の財産と合わせて遺産分割の対象にできるかどうかが争われた審判の許可抗 告審で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は23日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。実務では当事者の合意があれば分割の対象とする ケースが主流となっており、「対象外」としてきた判例が見直される可能性がある。弁論期日は未定。

大法廷に回付されたのは、死亡した男性の遺族が、男性名義の預金約3800万円について別の遺族が受けた生前贈与などと合わせて遺産分割するよう求めた審判。

最高裁は2004年の判決などで「預金は相続によって当然に分割されるため遺産分割の対象外」としており、一審・大阪家裁と二審・大阪高裁は判例にしたがって分割を認めなかった。

しかし、遺産分割前に遺族が法定相続分の預金の払い戻しを求めても、銀行は遺族全員の同意が無ければ応じないケースが多い。家裁の調停手続きでも遺族間の合意があれば預金を遺産分割の対象に含めており、判例と実務に差が生じている。

 

要するに、預金は、遺産分割の対象ではないとされてきた判例が、今回いよいよ最高裁で見直される可能性が出てきた、という記事です。

 

先ほど、相続人同士で遺産を分け合う必要があると書きましたが、預金は、その対象ではないとニュースでは言っています。どういうことでしょうか。預金は、遺産ではないということでしょうか?

 

相続では、預金は不思議な扱いになっています。

 

●1.まず、判例では預金は、遺産分割の対象ではありません。しかし、預金債権が相続人に当然に分割(相続分に従って)されると言われています。

 

具体的には、お父さん名義の100万円の預金があります。相続人は子どもだけが2人です。相続分は2分の1ずつです。この場合、判例によると、相続が発生した瞬間(つまり、お父さんが亡くなった瞬間)、子どもが50万円ずつの預金を取得することになります(つまり、相続人Aさんが銀行に50万円の預金を持ち、相続人Bさんが同じく50万円の預金を持っている状態になる)。

 

相続分の通り分割されたので、遺産分割する必要がありません。もう分かれてしまっているから、これ以上分けようもないわけです。上のニュースで、預金が遺産分割の対象云々と言っているのは、このことを意味しています。

 

ちなみに、遺産の代表である(?)土地が相続されるとどうなるかというと、先の例だと、Aさんが土地の2分の1、Bが2分の1の持分を持ちます。これを共有といいます。遺産分割は、この共有状態を解消するための手続です。

 

●2 判例の立場はずーっと一貫しているのですが、実務では次にようになっています。

 

① 遺産分割調停での扱い

預金が遺産分割の対象ではない以上、遺産の分割方法を話し合う遺産分割調停では、預金について話合いの対象にはならないはずです。しかし、実務上、相続人全員が話合いの対象にしていいよと言えば、対象にしています。そして、普通、相続人はみな預金を話合いの対象にしていいと言って調停の対象にしています。私もいくつも遺産分割調停を経験していますが、預金は対象にしちゃ嫌!!という相手方に今のところ出会ったことがありません。でも、この扱いは、最高裁判例とは相容れないわけです。

 

② 金融機関での取扱の実務

最高裁判例の立場だと、先ほどの例でしたら、子どもが一人で銀行に行き、50万円を払い戻したいといえば、銀行は拒否できないことになります。しかし、おそらく全ての金融機関では、このような扱いはしていません。普通は、全員の相続人の署名と捺印(実印で)の同意を取ってきて下さい、と言われるのです。この扱いも最高裁判例と相容れないわけです。ただし、事情により、分割した払い戻しに応じる金融機関もありますし、応じてくれない場合には、訴訟すれば、ほぼ問題なく金融機関に払い戻しを命じる判決が下されます。

 

このように、世間の扱い(実務)と最高裁判例がうまく噛み合っていませんでした。これはひとえに、預金を遺産分割の対象とする必要性が高いことによります。実務は、最高裁判例を前提として、何とかこれと整合性を保ちつつ、工夫しながらやってきたといったところかと思います。

 

しかし、この最高裁判例も見直される日も近いのかもしれません。

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弁護士今西順一

弁護士今西順一

港区新橋にあるリーガルキュレート総合法律事務所に所属する弁護士。 徒然とマイペースにブログを書きながら、世間様にお役に立って貰えるような弁護士になるべく、日々精進してまいる所存です。

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