手塚治虫氏原作の「ブラック・ジャック」といえば、ブラック・ジャック(BJ)の天才的なテクニックが光る医療漫画・アニメ。作中、彼は様々な患者を救ってきましたが、実はほかにも名医はたくさん存在し、その癖も強いのです。今回はそんな名医たちを3人解説。
■本間丈太郎/幼少期のBJを救った天才外科医
BJが医師を目指すきっかけとなった本間丈太郎。彼はBJ、もとい本名・間黒男が幼少期に不発弾の事故で重傷を負った際に、手術し命を救った大恩人です。当時の黒男は身体がバラバラになってしまいましたが、本間は天才的なメス捌きで彼を救ったのでした。
不可能と思われた手術を成功させたニュースは、瞬く間に広まり、彼の名声を確かなものにしました。ですが、本間は黒男の手術であってはならないミスをしてしまいます。なんと体内にメスを置きっぱなしにしてしまったのでした! 幸いメスは生成されたカルシウムによってカバーされており、摘出もできましたが、手術前まで本間はメスが臓器を破る悪夢でうなされていたのです。
このように天才的なテクニックがありながらも、常識じゃ考えられないようなミスをする本間。その際、「黒男が無事じゃすまなくなる」という心配よりも、ミスがばれることによって自分の名声が台無しになってしまうことを恐れているという小心者な一面も。完全無欠ではない人間臭さを感じさせるキャラクターとして描かれていると言えるでしょう。
とはいえ、黒男の命を救った恩人であることは間違いないですし、彼の生きる指針となった人物であることには変わりありません。その後、老衰によってBJの前で亡くなってしまいますが、BJに大きな影響を与えたことから名医とカウントしても遜色ないでしょう。
■琵琶丸/人間離れな針術で奇跡を起こす盲目針師
人体に針を刺し、治療する「針術」によって患者の命を救う琵琶丸。彼は盲目なのですが、その針術の腕は確かなもの。患者ごとに針を使い分け、手ごたえのあるところを刺し、病気を治すのです。実際にTVアニメ51話でも食欲のなかった病人を食欲旺盛にしたり、手に異常を抱えていた人を難なく治したりと、その治療力は症状問わず、対処しきれる模様。それも無料で施術を行っているのですから驚き。患者としては嬉しいですが、一体どうやって生計を立てているのか気になるところです。
そんな琵琶丸は、現代医学を敵視しており、BJとも思想的には相容れていません。琵琶丸の針術は、職人の勘を頼りに施術しているようにも見えるので、患者のカルテを作り、治療法を探す現代医学のやり方とは真逆なのでしょう。
ただそんな琵琶丸のやり方にも弱点が……。大病を抱えたある女の子に針を刺し、治療しようとしたのですが、なんとその子は「先端恐怖症」で針が苦手であり、ハリで刺されるや否や発作を起こしてしまいました。事前に患者の特徴を掴み治療を施すBJのやり方であれば、このようなミスは発生しなかったと思われますが、職人の勘を頼るような琵琶丸のやり方では見落とすのは必然だったのかもしれません。熟練の技術のみを頼りに行う、自慢の針術の限界が露見したシーンと言えますね。
ただBJ自身も「腕はすごい」と太鼓判を押す存在ではあります。その針術は万能ではないかもしれませんが、針を刺されるだけで治るのならば怖いもの見たさで一度は治療を受けてみたいかも?
■ハリ・アドラ/前代未聞…超能力で患者を治す
「ブラック・ジャック」は医療漫画ですが、なんと超能力という漫画のテーマから離れた力で患者を治す医者もいます。その名は、ハリ・アドラ。心霊医師と銘打たれる彼は、患者の身体に直接触れ、傷ひとつ付けず患部のみ摘出するという、神の思し召しとしか考えられない方法で患者を救うのです!
BJがいかに人並外れたメス捌きを持っていたとしても、患者に負担をかけずに手術することは不可能。反面、ハリは患者に身体的な負担をかけず、いとも簡単に手術を終わらせてしまうので、さすがのBJもお手上げかと思わせるほどの最強医師として描かれているのです。
しかし、そんな完璧に見える彼の神業にも対処しきれない問題があります。BJが担当した子宮外中絶手術において、ハリはBJの制止を振り切り、胎児を救おうとするのですが、妊婦のお腹の中から出てきたのは、なんと脳がない無頭症の子どもだったのです……。
無頭症のせいで余命いくばくもない胎児に対して、無理に延命させるのは苦しみを与えるだけだとしてBJはあえて中絶という方法を選んだのですが、ハリのやり方では当然知る由もありません。ハリは自分でも救えない患者がいると諦め、病院を去るのでした。
神の所業とも言える力によって、作中トップクラスの救命力を持つハリ。しかし、そんな彼でも成すすべなき命にはどうしようもできません。ある意味、救う事の残酷さを自身の強大な力をもって証明してしまった、稀有なキャラクターと言えるでしょう。