『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『永遠の0』を世に送り出し、ノスタルジー溢れる世界観にVFXの技術を織り交ぜた独特の表現で、世界を魅了し続ける日本映画界の至宝、山崎貴監督。2016年12月に『海賊とよばれた男』が公開されてから約1年が経ち、待望の最新作『DESTINY 鎌倉ものがたり』が12/9(土)より公開を迎える。
鎌倉を舞台としたどこかノスタルジックな世界で営まれる、堺雅人、高畑充希演じる一色夫妻の、愛に溢れたほのぼのとした日常。少し普通の街と違うのは、魔物や幽霊、死神が一緒に生活していること。
ある日、病に倒れた正和(堺雅人)が目を覚ますと、妻の姿が消えていた。夫への愛にあふれた手紙を残して──。なんと亜紀子(高畑充希)は不慮の事故で亡くなっており、黄泉の国(あの世)に旅立っていたのだった。正和は亜紀子の命を取り戻すため、一人黄泉の国へ向かう決意をする……。
未だ誰も観たことがないファンタジー映画を制作した山崎監督のユニークな死生観や、作品に通底するどこか懐かしい世界観について話を聞いた。
【プロフィール】
監督・脚本・VFX:山崎貴 2005年公開の『ALWAYS 三丁目の夕日』で第29回日本アカデミー賞において、計12部門の最優秀賞を受賞し、のちにシリーズ化され3作総興行収入112億超の大ヒット記録を樹立。その後も、『永遠の0』(13)と『STAND BY ME ドラえもん』(14/八木竜一との共同監督)で第38回日本アカデミー賞最優秀作品賞と最優秀アニメーション作品賞の史上初、実写&アニメ部門のW受賞に輝き、昨年末には、骨太な原作小説の映画化『海賊とよばれた男』を大ヒットに導いた。(映画公式ページより一部抜粋)
12/9(土)公開 映画『DESTINY鎌倉ものがたり』
山崎貴監督インタビュー
■「死」をもっとカジュアルなものにしたかった
──「死者を救いに行く」ストーリーの最初の着想はどこにあったのでしょうか?
山崎貴監督(以下、山崎):映画を制作するにあたり、原作『鎌倉ものがたり』を読んで自分の気持ちに迫った話をたくさんメモしていったんです。その中で、この物語が持つ1つの大きな魅力は「死者との距離」だと感じました。
『死』って日本ではタブーというか厳粛なものじゃないですか。でも、この原作では死というものはみんなが泣き叫ぶような大きな出来事ではなくて、亡くなった方も普通に暮らしているし、「死んでこうなっちゃったんですよ」という話が多い。死というのはもうちょっとカジュアルでも良いのではないかと思って。そういった独特な死との距離感をテーマに映画を作りたいと思ったんです。
──映画に出てくる死者の世界「黄泉の国」は、入り組んだ温泉街のような風景や、先に死んでしまった家族との再会を喜ぶ人の姿が印象的でした。
山崎:死んだあとの世界って、だいたい花畑みたいな世界が描かれることが多いじゃないですか。持論なんですが、いざ自分が死んだ時、自分が思い描いていた通りの場所に行ける気がしているんですよ。でも普段からはっきりと黄泉の国のビジョンってうまく描けないと思うんです。そうすると、ついつい花畑の世界に行っちゃって、(輪廻転生するとしたら)20年も30年も暮らすには退屈じゃないですか。
だから今回描いた黄泉の国は、“花畑”に代わる1つの世界。今までに死後の世界を描いた映画はたくさんありますが、僕はそのどれにも満足していないんです。もしこの映画を観て同じ黄泉の国に行きたいなって思ってくれた方がいたら、いざ死ぬ時が来た時に思い出して、「ああ、あの世界に行けるんだ」って思ってほしい。黄泉の国で暮らしていて、偶然友人にばったり出会ったり、そんな楽しくて幸せな世界が待っているとしたら、と想像すると、少しだけ死ぬことへの恐怖心が和らぐような気もします。
でもよく考えたら、黄泉の国で暮らしていざ生まれ変わる時、その時こそ今までの記憶も全てリセットされてしまうので、現世の死よりも黄泉の国での死(生まれ変わるとき)の方がもしかしたら悲劇的かもしれないですね(笑)。
■完成してしまうと面白くない、「途中」を楽しみたい
──黄泉の国もそうでしたが、山崎監督の作品にはどこか懐かしさを感じます。
山崎:現代を描くより、少し昔だったり未来だったり、こんな世界があるのかないのか、という作品を描きたいんです。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズはもちろんですが、今回の黄泉の国も、初めて行ったのに懐かしさを感じる世界を目指しています。1分の1の模型を作りたいという話をよくするんですが、過去の世界の一部を切り取って持ってきたような、箱庭のような世界を作りたいんです。
子どものころから博物誌的な世界に対して「ワクワクするけど懐かしい」という感覚を持っていました。まだ全部のことを知らない、世界が全部解明されていないことの楽しさみたいなものが好きなのかもしれません。
──完成形よりは余白があるものがお好きなんでしょうか?
山崎:そうそう、途中が好きなんですよ。映画にしても、本編も好きだけど、メイキングが大好きです。途中の、「あ、こうやってやってたんだ」みたいな感覚がすごく好きで。
子供の時に、怪獣映画は大人が作っているということを知った時に生まれた感情なのかもしれない。完成形よりは最中がすき。そういうのは(作品の世界観に)影響しているかもしれないですね。途中のほうがのびしろがあるじゃないですか。完成しちゃったら終わりですし。そもそも誰がそれを完成だと決めるのかという感じもする。
少し前の時代の持っている未来に向かって色々なことが良くなっていくエネルギーとか、世界が全部解明されていないことの楽しさが好きということが、ノスタルジーを描く原点になのかもしれません。
■撮影中に知った、堺雅人さんの意外な一面
──今回、一色夫妻演じる堺雅人さんと高畑充希さんと初めてタッグを組まれたましたが、特に印象に残っているのはどんなシーンでしょうか。
山崎:2人の別れのシーンが好きですね。見ていて心が締めつけられる思いがしました。このシーンは、2人がそれまで可愛らしい仲の良い日常をしっかりと演じてくれたからこそ、その2人が別れなきゃいけないことに対して、感情が動いたんだと思います。
堺雅人さん演じる正和も、普段はふにゃふにゃしていて可愛いところがあるけど、ピシッとする時もある。高畑充希さん演じる亜紀子は、いつもは可愛らしいけど、ふとした瞬間に奥さんの母性も垣間見える。そんな幅広い表情を見せてくださる方たちと一緒に作り上げることができました。
シーンの話ではないですが、堺雅人さんは長ゼリフがとても得意だと思っていたので、早口でものすごく長い文章を書いたんです。ところが、実はとても苦手だったらしくて。前の日にかなり勉強して暗記してきてくれたそうです。
人って、ピンチだと思った時の方が底力出ますからね。またご一緒する時は、もっと長い文章を書こうと思っています(笑)。
──最後に、citrusの読者にメッセージをお願いします。
山崎:「死を想いながら生きること」は大事だと思います。いつか死ぬという想いが、逆に日常を輝かせ、普段の暮らしに潜んでいる幸せを見つめられると思うんですよ。
今回正和さんは幸せな日常を知ってしまったからこそ、日常を取り戻すために命をかけた訳ですが、同じようにくだらないと思っていた当たり前がいつ壊れてしまうのかもわからないですしね。
死によって全てが一旦終わってしまうかもしれないけど、映画を見て、死んでしまっても違う世界があるんだと、思ってもらえればと思います。
文=木下花呼
■映画情報
『DESTINY 鎌倉ものがたり』
12月9日(土)全国ロードショー
【出演】
堺雅人 高畑充希
堤真一 安藤サクラ 田中泯 中村玉緒
【監督・脚本・VFX】
山崎貴
【主題歌】
宇多田ヒカル「あなた」(EPICレコードジャパン)
公式HP:kamakura-movie.jp/