■サントリーの緑茶、それは伝統と革新のジレンマ
缶入り緑茶飲料は、1985年に伊藤園と日本サンガリアから発売されたのが始まりです。お茶自体は大昔から飲まれているわけですが、炭酸飲料や果汁飲料の有名ブランドと比べると、緑茶飲料の歴史は意外に短いわけです。
そのなかで、サントリーの緑茶は後発ながら印象に残る宣伝活動も相まって、認知度は高いのではないかと思います。しかし、伝統的な茶飲料を、革新的なイメージを持つサントリーがどのようにアレンジするかは大きな課題だったのではないかと思います。そこで今回は、サントリーの緑茶飲料の歴史をたどってみたいと思います。
■「サントリーの緑茶=京都のお茶」の強烈な印象
1991年当時のサントリー緑茶は、他社でも見かけるようなオーソドックスなデザインでした。1993年に発売された「サントリーの銘茶」は、京都の老舗のお茶屋さんのお茶というコンセプトで、パッケージは京都のお茶屋さんの店頭にかかっている日除けのれんのイメージでした。CMタレントとして登場した服飾評論家の市田ひろみさんのキャラクターも印象に残りました。
■伝統からポップへ、ポップから伝統へ
伝統をアピールした京緑茶から一転して、2000年発売の「しみじみ緑茶」はポップなパッケージとなりました。「縁側で日向ぼっこをしながらお茶を飲む」というコンセプトで、座布団の上で湯呑みを持った招き猫が登場しました。ほっこりしたイメージではありましたが、他社の「いかにも日本茶」というパッケージと比較すればちょっと違和感はあったのではないかと思います。
その後、再びの路線変更となったのが、2002年の「緑水(りょくすい)」です。天然水を使用しフレッシュ凍結茶葉ブレンドという凝った製法、CMタレントには宮﨑あおいさん(!)を起用し、フレッシュなイメージで売り出しました。しかし、消費者には受け入れられず、この年限りの商品に。
■そして究極の定番緑茶ブランドへ
そして、2003年発売の「和茶」となります。こちらも緑茶としてはモダンな和風といった感じのパッケージでしたが、現代風でもなく、伝統的でもない中途半端さがあり、この品も2003年限りの商品となりました。
2004年には現在も販売されている「伊右衛門」が登場します。京都の老舗茶舗「福寿園」の茶葉とウィスキーでおなじみの京都・山崎の天然水を使用しており、パッケージは竹のイメージのパッケージと、細部まで「伝統」にこだわった商品になりました。
「福寿園」は伝統のある製茶メーカーですが、製造や販売に新しいアイデアを取り入れていることでも知られています。そこがサントリーの革新的な社風とマッチしたのではないでしょうか。それが「伊右衛門」という緑茶飲料として実を結んだのだと思います。