【SNSで話題】え、「タンメン」は東日本にしかない? 意外に知らない日本の大衆食の奥深さ

コラム

citrus 編集部

 

 

 

SNSで話題になっている「タンメン」。東日本限定の料理だというのは本当なのでしょうか? 日本の食文化に詳しいフードアクティビストの松浦達也さんにお話を聞いてみました。

 

現行のタンメンは中国由来で、日本で独自に発展した料理なのは間違いありませんが、国内に定着した時期には、主に戦前説と戦後説があります。


戦後説としては、昭和30年代に「タンメンと餃子の店として創業した」と言われる「横浜一品香」の存在が一説。「流行るとすぐ取り入れてアレンジする 」というある意味「日式」を象徴する外国由来の料理と言えるかもしれません。とはいえ、その他説も入り乱れており、いまだきちんと整理がなされていないというのが現状です。

 

松浦さんによると、戦前に作られた原型が戦後に「野菜+塩味」に収れん。昭和30年代以降、タンメンを売りにする店舗やチェーンが増えて、広範囲に展開・定着していったというのが大きな流れになるようです。それでも関西にタンメンは伝わらなかったのでしょうか?

 

関西にも入ったものの、「あまり定着しなかった」と考えられます。次長課長の河本さん(岡山出身→大阪NSC)の「お前に食わせるタンメンはねえ」というギャグからもわかるように、まったく関西圏で展開されなかったというわけではなさそうです。

 

かの開高健も『青い月曜日』のなかで「難波でおりて、『北極』へタンメンとブタ饅を食べにいった」と書いています。なんばの『北極』はいまはアイスキャンデーが名物ですが、昭和30年には喫茶や軽食営業をしていた時期があるので、この時期のことかと思われます(時期としても一致)。

 

西日本で一般的でないことは分かりましたが、では境界線はどのあたりになるのでしょうか?

 


他の食べ物(ヤキメシとチャーハン/納豆食など)でもそうですが、岐阜県と滋賀県の県境、もしくは琵琶湖東岸(関ヶ原)あたりになるかと思います。名古屋や岐阜まではタンメン系のチェーンがあり、なじみがある人も多いようですが、琵琶湖を超えた途端、知る人が少なくなるという傾向はあるかもしれません。


では、そもそもタンメンの正確な定義はあるのでしょうか?
 

中国や台湾など大陸文化圏での「湯麺」とは「広義の温かいスープ麺」を指します。湯麺とだけ書いてある場合は具なしの麺だったりもしますし、たいてい「牛肉湯麺」などのように説明がつきます。

日本国語大辞典を引いてみると
「タン‐メン 【湯麺】
解説・用例
〔名〕(中国語から)
中華料理の一つ。ゆでた中華そばにいためた肉や野菜などをのせ、塩味のスープを注いだもの。また一般に、汁麺のこと。

とあるように、日本の辞典の権威でも本来の意味ではなく、日本における一般的な意味をとらえています。

中国や台湾など大陸文化圏での「湯麺」(たんめん)は「広義の温かいスープ麺」を指す。湯麺とだけ書いてある場合は具なしの麺だったりする。写真は台湾のとある店の「湯麺」(松浦達也氏撮影)

歴史の浅い料理であることを考えると、タンメンそのものに「正しい」定義を求めるのは難しそうです。そんな外国由来で、日本で独自の進化を遂げ、戦後、冷蔵庫の普及とともに全国的に展開していくことになる大衆食について松浦さんは、

 


全国的に同一の料理に触れるようになったのは外食元年と言われる1970年以降で、1980年代以降のバブル&情報化でようやくさまざまな食べ物に光が当たるようになりました。食文化が全体として均質化、均一化してしまう流れは止められないとはいえ、西と東でもっともっと違っていてもいいのにとも思います。

…ととらえているよう。タンメンだけでなく、まだまだ隠れた地域限定のグルメは存在しそう。全国どこでも同じような料理が食べられる便利な時代だからこそ、ときには食文化の違いを楽しみたいですね。