なぜ、80~90年代の「ちょっと古い日本車」にアメリカの若者が熱狂するのか?

■ちょっと古い日本車が今、アメリカで大人気

 

2代目トヨタMR2 撮影:Hiroto KATO

 

80年代後半から90年代に北米で発売された日本車はその当時から若者たちに人気があった。日本がRV(現在のSUV)ブームに沸いていた頃、とくにアメリカ西海岸周辺ではホンダ・シビック、トヨタ・スープラ、日産 240SX、三菱エクリプスなどのスポコン車が大人気を博していた。その人気を確実にしたのが映画『FAST AND FURIOUS』(邦題『ワイルドスピード』)シリーズ(以下FFシリーズ)である。2001年に公開された1作目に出てくる車はほとんどが90年代の日本車で、シビック・クーペ、トヨタ・スープラ(1994タルガトップ仕様)、スカイラインGT-R、240SX、マキシマ、ホンダ・インテグラ、S2000、アコード、シビック・クーペ、RX-7、三菱エクリプスなどなど。これでもか!とカッコいい日本車が続々と登場していた。

 

また、90年代半ばから2000年代初頭にかけてTEIN、TAKATA、トラスト(GReddy)など日本の著名なアフターパーツメーカーがアメリカに進出したことで、日本車のカスタム、チューニングを楽しむ若者が爆発的に増えてきたという背景もある。やがて、それらのチューニングスタイルや日本仕様の車をJDM(Japanese Domestic Market)と呼ぶようになり、近年は日本車そのものから、日本独特の車検制度や車庫証明ステッカー、日本のナンバー、痛車や暴走族、VIPカーなど、他の国にはない日本車独特のカスタムスタイルまでが「JDM」と呼ばれるようになっている。

 

 

■右ハンドルの日本車は、北米では「神」的存在

 

FC(RX-7)もJDMフリークに人気 撮影:Hiroto KATO

 

JDMに熱狂する若者たちにとって、最高にクールなのが、本物の日本仕様車=右ハンドル車なのである。昨年秋、SEMAショウの取材でアメリカを訪れた際、日本車をカスタムして乗っている若者たち数名に話を聞くことができた。JDMフリークにとって目指すべき至高の存在、カリスマともいえるのがアメリカでは「右ハンドルの日本車」なのだという。確かに右ハンドルの日本車こそ、究極のJDMと言えるものだ。しかし、北米では自動車メーカーがテスト走行用に輸入・登録するような特例を除いては右ハンドル車の登録は不可能だ。

 

ではどうやって、右ハンドル日本車を入手するのかというと……。実は北米には古い車に対する特別なルールが存在する。カナダでは製造から15年、アメリカでは同25年経過した車がその特別ルールの対象になる。俗にいう「25年ルール」と呼ばれるもので、右ハンドル車(日本車に限らず、英国車なども対象)の輸入や登録、使用が北米で可能になるというもの。カナダでは15年でOKなので、カナダに住所がある人はカナダでいち早く登録が可能というわけだ。ちなみにカナダの15年ルールで登録した右ハンドル車をアメリカで登録するのは不可。カナダのナンバーのままで乗ることになる。

 

 

■R32 スカイラインGT-Rの価格高騰の一因にも

 

R32 GT-Rの価格高騰の原因は海外にあった!? 撮影:Hiroto KATO

 

近年、R32スカイラインの中古車価格が高騰しているという話を聞いたことがあるという人もいるだろう。R32以外にも、90年代前半に製造された80スープラやスポコン系の日本車、R33、R34の値段も高騰しつつある。これぞまさに25年ルールの影響である。2014 年にはR32 スカイラインGT-R(1989年~)、2018年にはA80系スープラ(1993年~)が解禁となり、2019年には以下の車がルール適用となる。多くのJDMフリークが解禁を心待ちにしていることは言うまでもない。

 

三菱ランサーエボリューションII

三菱FTO

日産シルビアニスモ270R

日産スカイラインGT-R V-Spec II

スバル・インプレッサWRX STI

トヨタ・セリカGT-Four

などなど。

 

 

■日本車のどこが評価されているのか?

 

JDMフリークのアメリカの若者に話を聞いた 撮影:Hiroto KATO

 

私たち日本人は、日本車が海外で高く評価されている理由を、「品質がいい」「故障が少ない」「燃費がいい」「ディーラーの対応がいい」「修理の部品が早く届く」などと想像するだろう。しかし、カスタムやチューニングの世界になると少し違ってくる。自らも日本車を所有し(インテグラ、スープラ、フェアレディZ、シビックなど)JDMをこよなく愛するアメリカの若者たちが口をそろえて言うことは、

 

「JDMのカスタムスタイルはとても個性的。他の国の車にはないアイデンティティがある。だから大好き!」

 

「チューニングやカスタムをする際のパーツの豊富さ、選択肢の多さが素晴らしい。車高調一つとっても、単に車高を下げるだけのものではない。車高を下げても性能や乗り心地をスポイルするものではないし、非常に細かい調整ができる。運転しながら車内で調整できるものもある。そして対応していない車種はない、というくらい幅広い」

 

「ボディキット(エアロパーツ)が日本らしくてカッコいい。ちょっと高いからなかなか手が出ないけど。ロケットバニー、リバティウォーク、ヴェイルサイド…どうしたらあんなにカッコいいボディキットが作れるんだろう」

 

カスタム&チューニングの世界でも日本車、日本ブランドのパーツがここまで高評価だったとは!少々意外。でもなんだか誇らしい気もする。先週終了した2019年の東京オートサロンにも海外からの来場者が昨年にも増して多かった印象だ。彼らは日本人よりも、はるかに日本のカスタムカーやデザイナーについて詳しく、その情報量やJDMへの情熱にまた感動させられた。

 

※情報は2019年1月23日時点のものです