人前で薬を飲むのはマナー違反だと言われた女性のツイートが話題になっています。薬を飲む側も、最近では、人前で飲むことに抵抗があったり、外出先で飲むタイミングを逸したりする人もいるようです。この薬とマナーの問題について、医師の山村聡先生にお話を聞いてみたところ…
薬についてマナー違反を指摘されるとは想像もしませんでした。確かに、ランチミーティングや夜の会食などでは、薬を飲むタイミングが難しいこともありそうですが……
……というご回答。幸いにも山村先生の患者さんについては、周囲を気にして飲めなかったというケースはほとんどないそうですが、昼食時、夕食時に飲み忘れてしまう人はいるようです。
特に仕事が忙しい方は、昼は出先で外食だったり、夕方は会食や接待などがあったりして、自宅以外ではきちんと服用できないケースが少なからずあります。
診察の際には薬が余っていないか確認して、たくさん余っている患者さんからは、飲み忘れてしまう事情を聞いています。そうした方の場合、ライフスタイルに合わせて飲み忘れないタイミングで飲めるお薬に切り替えるなど、処方を工夫しています。
山村先生によると、一般人がパッと見で何の薬か判断することは難しいため、たとえば薬を飲んでいるだけで「糖尿病」であることはわからないのだそうです。
たとえば、1型糖尿病で食前にインスリン注射が必要な方は、周囲の目を気にされています。バレるのが嫌というわけではなく、お腹を出して自分で注射する姿を、事情を知らない他人に見られるのは抵抗があります。席を外してトイレなどで打っている方が多いようです。
インスリンの必要ない2型糖尿病の方であれば薬以前に、食事量に気遣っていることのほうが周囲は気になるかもしれませんね。
人の目が気になるということだけが理由ではありませんが、最近は、OD錠(口腔内崩壊錠)という薬であれば、口の中ですぐ溶けるため水なしで飲むことができて便利だという声があると、山村先生。
確かにOD錠であれば、周囲の目が気になる方は、人知れず口に含んで飲むことができるかもしれません。 患者さんのほうから「OD錠にしてほしい」と要望されたことはありませんが、OD錠からそうでない薬に切り替えた際に、「前の薬(OD錠)は外出先でも飲みやすくてよかった」といわれたことはあります。すべての薬にOD錠があるわけではないですが、かかりつけの薬局で相談するとOD錠に変更できる場合があります。
飲む回数、飲む錠数は極力減らしたいというご要望もありますね。治療経過、検査値、薬の内容などにもよりますが、できるだけご本人の要望、ライフスタイルに沿って内服を続けやすいように処方したいと考えています。そして治療が進めば薬の減量、中止をするなど定期的に内服薬を見直しています。
薬への理解やマナー意識は人によってかなり差がありそうですが、世代による薬に対する感覚の違いについて、山村先生は次のように指摘しています。
年齢を重ねるとほとんどの人が何らかの薬を飲むようになります。血圧の薬、血糖値の薬、コレステロールの薬など……。同世代が同じような病気で薬を飲んでいる年代になると、薬を飲むのが当たり前になり、周りの誰かが薬を飲むことも気にならなくなるのではないでしょうか。 そうでない比較的若い世代ほど、薬を飲んでいることに過敏に反応してしまうのかもしれませんね。
若い世代で毎日薬を飲んでいる方には、飲み続けないといけない事情があります。ホルモンの補充やてんかんの予防など日常生活の維持に欠かせないものも少なくありません。体のどこかに痛みを抱えているケースもあるでしょう。 薬は飲みたくて飲むものでもないですから、飲んでいる人の抱えるいろいろな事情を忖度して、そっと見守ってほしいものです。