口腔がんであることを公表した堀ちえみさん。ブログに綴られた内容から、「歯科医の誤診が原因で発見が遅れたのではないか」「歯科ではなく口腔外科か耳鼻科を受診すべきだった」という指摘があるようです。この点について、内科医の山本佳奈先生にお話を伺ってみました。
確かに、堀さんのブログを読めば、「歯科医の誤診」であると理解するのが普通でしょう。
彼女のブログによれば、最初に舌の裏側の口内炎に気づいたのは昨年の夏。「病院で診ていただきまして、その時は塗り薬や貼り薬、ビタミン剤などを処方して貰いました」とのこと。どうして歯科医はこのときに口腔がんを疑い、専門家に紹介しなかったのか、と感じる方も多いかもしれません。
医師を庇うわけではありませんが、歯科医がその時点で口腔がんと診断することは無理だったと思います。というのも、口内炎はありふれた疾患である一方で、舌がんは極めて稀な病気だからです。
さらに、堀ちえみさんの場合は、関節リウマチの治療中だったことも不運だったという山本先生。
標準治療薬はメトトレキサート(商品名リウマトレックス)であり、その添付文書には、服用者の20.1%に何らかの副作用が生じ、副作用のうち、肝機能障害と並んで多いのが口内炎であり、2.2%の患者に生じると記載されています。定期検診の際、リウマチの主治医はよく見かける副作用と考えられたのでしょう。「飲んでいる薬の副作用の1つに口内炎の症状がよくあるので薬を暫くストップして様子を見ましょう」と言われたとのことでした。
舌がんは極めて稀な病気。その上、早期の口腔がんは、普通の口内炎と外見で区別することは極めてむずかしいのです。
専門外の医師に口腔がんの可能性を指摘してもらうのは難しいという山本先生のご指摘。そもそも日本人の「口腔」に対する意識が低いとも言われており、いざというときに何科を受診すればいいか分からない人も多いかもしれません。
日本耳鼻咽喉科学会によると、「国際対がん連合(UICC)で取り決められた国際分類では、頭頸部がんはさらに口唇・口腔がん(舌がんもこのなかに含まれます)、咽頭がん、喉頭がん、鼻・副鼻腔がん、唾液腺がん、および甲状腺がんに分けられています。その他に、耳や頭蓋底のがん、首の位置にある食道がんなどもあります。これらはすべて耳鼻咽喉科の診療領域です。」とあります。
一方で、このような議論もあります。舌がんはじめ、口腔内のがんについては、領域がはっきりしていない現状もあります。大学4年生の時の授業でも、舌がんについては耳鼻咽喉科と歯科口腔外科の両方で触れていた記憶があります。
最後に、単なる口内炎と「もしかして口腔がんかも」と疑うべき口内炎の見分け方について、山本先生に教えていただきました。
口腔がんによる口内炎は進行するまで痛みが出ません。そして、なかなか治癒しません。一方、通常の口内炎は激しい痛みを伴い、1~2週間で自然治癒します。
「痛くない口内炎は要注意」です。早期の口腔がんは普通の口内炎と外見では区別できません。病変が大きくなり、医者が口腔がんを疑うころには病変は進行してしまっています。
口内炎ができたら、まずは「痛み」があるかどうかをチェック。そして心配な症状があれば、耳鼻科か歯科口腔外科を受診してみるとよいかもしれません。