少し前まで連日のように報道されていた高齢ドライバーによる交通事故。その際に必ずと言っていいほど目にしたのが、免許取りたての若者のほうが高齢者より事故率が高いという指摘だった。しかしこれ、いわゆる論点のすり替えであり、本質を捉えていない。
■高齢ドライバー事故は間違いなく増えている
警察庁の統計に、原付以上の運転者が第1当事者である死亡事故について、年齢層別に免許保有者10万人当たりの件数を年齢層別にまとめたものがある。それを見ると、たしかにもっとも多いのは16~19歳の若者だが、80歳以上の件数もほぼ同じだ。
しかも多くの年齢層で、2017年から18年にかけて事故件数が減っている中、80歳以上と70~79歳では増加している。この状況が続けば、今年は事故率がもっとも高いドライバーが80歳以上になるだろう。
同じ警察庁の資料には、平成30年末現在の年齢別運転免許保有者数の統計もある。こちらを見ると、事故率がもっとも高かった16~19歳は約88万人で構成比率はわずか1.1%なのに対し、80歳以上は約227万人で2.7%、70~79歳は約903万人で11%となっている。
前年と比較してみると、16~19歳は4.6%も減っているのに対し、80歳以上は2.4%、70~79歳は8.7%も増えている。
死亡事故の当事者比率で見れば若者のほうがわずかに上かもしれない。しかし母数が圧倒的に小さい。交通事故が多いか少ないかは比率ではなく総数で判断すべきであり、双方の数字を掛け合わせれば、高齢者の事故が多いのは一目瞭然だ。安易な情報に惑わされず、高齢ドライバー対策に真剣に向き合うことが大切である。
■ペダル操作は「ブラインドタッチ」。足以外の操作を考えるべきでは…
高齢ドライバーの事故原因で多いのが、アクセルとブレーキの踏み間違いだ。これはMT(マニュアルトランスミッション)車であれば解消できる。MT車もブレーキペダルを踏んだだけで減速するが、アクセルペダルを踏んだだけでは発進しない。ギアを入れ、クラッチをつなぐという操作が必要だ。だから踏み間違いは起こらないという主張は理に叶っている。
もっともATやCVTなど2ペダルの自動車も、最近になって登場したわけではなく、日本車に限っても半世紀以上の歴史がある。なのに最近になって踏み間違い事故が問題になってきたというのはやはり、認知、判断、操作の機能が低下した高齢者が運転をする頻度が増えたからだろう。
これに対応して踏み間違い防止ペダルなるものがいくつか発売されており、東京都が補助金を出すという話も出ている。また最近のクルマではセンサーを使って障害物を検知し、アクセルが大きく踏まれた際には誤動作と感知して加速しない技術が導入されている。政府ではこうした安全装置を装備したクルマの運転に限定する高齢者向け運転免許を検討している。
ただペダル操作というのは、もともとドライバーの目の見えないところで行う、いわゆるブラインドタッチであり、しかも手ほど器用ではない足で操作するので、ハンドル操作などに比べて間違いが起こりやすいというのは否定できない。
そんな中で個人的に注目しているのは、最近国産バスが搭載を始めたドライバー異常時対応システムだ。運転席と車室に赤いボタンが用意されており、押すとハザードランプを点滅させながら減速し停止する。昨年まず大型観光バスに装備し、今年は大中型路線バスにも採用を拡大した。観光バスはドライバーの異常を検知して自動的に止まる方式に進化した。
最近の事故には、ペダル踏み間違いによってパニックになり、暴走して事故を起こした例がいくつかある。それなら足以外で止める機構を用意しても良いのではないかと思った。
ビルや駅、鉄道車両などに赤い非常ボタンがあることは多くの人が知っている。バスの赤いボタンに違和感を抱く人は少ないのではないだろうか。パニック時にはボタンを押すほうが、ペダルを踏み替えるよりやさしいと考える人は多そうだ。それに助手席の人も押せるようにすれば、福岡市での逆走による多重衝突事故は防げたかもしれない。