言葉は時代と共に移り変わってゆくものだ。
流行や生活様式の変化によって世間では日々、新しい言葉が生まれている。定着するものもあればそのうちに使われなくなるものもある。使われなくなった言葉は死語と呼ばれる。
特定の業界やジャンルで使われる業界用語にも死語になるものがある。僕は音楽畑の人間だが、音楽界や芸能界の業界用語にももはや死語なんじゃないかと思われるものがたくさんある。70代、80代で現役の方もたくさんおられるので「使われなくなった」と断定するのは難しいのだが、少なくとも今の若者に理解できない言葉はどのあたりなのだろうか。
というわけで、今をときめく若手ミュージシャンの代表として、かーなーさんに無理やりお話を聞いてみた。かーなーさんは人気急上昇中の音楽デュオ『いーどぅし』のメンバーで1995年生まれの24歳。学年でいうと僕の一回り年下になる。
◆中将
僕が若い頃は業界くさい先輩と飲みに行くと「ツェーマン」とか「ゲーセン」っていう言葉が飛び交ったもんですが、この言葉の意味わかりますか?
●かーなー
分かりません……。
◆中将
ほら、ミュージシャンってドレミをツェー(C)、デー(D)、イー(E)ってドイツ語読みする人いるじゃないですか。ツェーは一番初めの音なので1。だから「ツェーマン」は1万円、「ゲーセン」は5千円って意味になるんです。
●かーなー
へぇ~難しいですね……ゲームセンターの略かと思いました(笑)。
◆中将
やっぱ無理でしたか……。それならもう一つ!バブル期は銀座で女の子とお寿司食べることを「ザギンでチャンネーとシースー」と言ったそうです。聞いたことありますか?
●かーなー
ザギン……!(笑)。たぶんBEGINさんならわかると思います(笑)。
チャンネーとか、シースーは飲み会で、ふざけて言ったりはありますね。「バブルかよ〜」ってツッコミが飛び交ったり!
◆中将
面白がられる死語ってありますよね。「アゴ・アシ・マクラ(食事、交通費、宿泊費)」や「金魚鉢(レコーディングの録音ブース)」とかはたぶんまだ現役で使われてますよね?
●かーなー
それはわかるし使います。
◆中将
1980年代くらいまでは「ファン」のこと「ワンフー」と呼んだり「ローディー(楽器の運搬などするスタッフ)」を「バンドボーイ」と呼んだようだけどこれはわかるかな?
●かーなー
ワンフーやバンドボーイは初めて聞きました!なんとなくニュアンスでジャッキー・チェンとQUEENを思い出しました(笑)。
◆中将
もっとライトな所では「テープ巻き戻す」って表現もありましたが、二人は意味わかりますか?
●かーなー
カセットテープですか?小学生の頃、民謡大会に出場したら大会で歌った自分の音源を音響さんが録音してくれてカセットテープで配ってくれてたんです。でもすぐ翌年からはCDに切り替わりましたが……多分それがなかったらわからないと思います。運動会のゴールのとき使うテープを巻くとかしか出てこないです(笑)。
◆中将
かーなーちゃんの年頃だとカセットテープに触れたこと自体奇跡みたいなもんですね。世間ではテープどころかCDさえすたれて配信に重心が移っているありさまですが「レコード会社」っていう呼び方はアリですか?
●かーなー
レコード会社は言いますね。でも、歌う仕事をしてなかったら分からなかったかも……そうなると世間の同世代は配信の方がピンと来るかもしれません。
◆中将
令和に生まれる子たちが現役になる頃には通じなくなってる可能性大ですね。
これまで挙げた以外に、かーなーちゃん的に「これもう死語なんじゃね?」って思う言葉はありますか?
●かーなー
「死語なんじゃね?」とかはあんまり思い浮かばないけど、新しい言葉では「エモい」とかありますね。
◆中将
よく聞くけど使ったことはないですね……。
●かーなー
「emotional」から来てるんですが、例えば「あいみょんさんとかエモいですね!エモかっこいい!」みたいな感じで使うんです。
◆中将
「キモかわいい!」みたいな感じですね(笑)。しかし僕が今後「エモい」って使う機会あるかな……。音楽とか芸能に限らず、かーなーちゃんの年代で流行ってる言葉って他にもありますか?
●かーなー
嬉しいとかのことを「嬉しみ」とか、悲しいを「悲しみ」とか語尾にみをつけますね(笑)。
◆中将
相方がめっちゃムカつく時は「憎しみ」ですか?
●かーなー
それ違います(笑)。
2019年8月1日ニューアルバム『OKINAWAN BLUE』リリース 品番:MR 0001 ¥2,500(税込)
BEGIN・島袋優をプロデューサーに迎えた最新アルバムは、聴く者すべてを、波音と蒼天の郷愁に誘う、彼女達の最高傑作!!
かーなーさんと話していて、たった一回り離れているだけでも知っている言葉や使う言葉にはけっこうな違いがあることがわかった。
読者のみなさんも日々生活する中で、言葉の移り変わりにいろんな感想を持つことがあると思う。言葉の移り変わりを「言葉の乱れ」と言う人もいるが、僕個人的には人それぞれ過ごしてきた時間や環境が違うだけで、それを良い悪いというのは的外れな指摘ではないかと思ってしまう。新旧にとらわれず多くの言葉を知り、抵抗なく受け止められるようになったほうが世の中幸せなんじゃなかろうか。
この記事がみなさんにとって言葉について想いをめぐらす機会になれば嬉しみだ。