■『ガタカ』:遺伝子で優劣がつけられるディストピアでもがく男を描いた傑作SF
キャリア初期の1997年にロウが出演したSF映画『ガタカ』は、その現実と地続きな未来予測や、美しい映像で高く評価され、2011年にはNASAに「現実的なSF映画1位」に選ばれている。
遺伝子操作によって優秀な人間だけが社会的に優勢になれる未来世界で、両親たちの不用意な自然妊娠で生まれた男ヴィンセントは、不遇な人生を送っていた。しかし、幼少期からの夢である宇宙飛行士を諦め切れなかった彼は、優勢遺伝子を持つものの、事故により足の自由を失った男ジェロームと取引をし、彼の遺伝子で検査をすり抜けることを決意する……というのが本作のストーリー。
ロウが演じるのは、主人公ジェロームに遺伝子を提供してくれる元水泳金メダリストの男ジェローム。以前つかんでいた栄光を手放してしまった彼が、同じく不遇にあえぐヴィンセントに自分を重ねて、文字どおり自分を犠牲に彼を宇宙へ送るラストは、涙なくしては見れらない名シーンだ。
■『リプリー』:大富豪の息子に成り変わった、貧しい青年の偽りの日々
次に紹介したいのは、1999年公開のサスペンス映画『リプリー』だ。1960年の名作『太陽がいっぱい』のリメイクである本作で、ロウは傲慢だが魅力的な大富豪役を熱演し、英国アカデミー賞助演男優賞に輝いている。
1950年代、大恐慌真っ只中のニューヨーク。貧しい青年トム・リプリーは偶然が重なり、地中海で豪遊している大富豪の放蕩息子ディッキーを、大学の友人と偽って連れ戻すことになる。こうして出会った二人だが、次第に関係がこじれ、トムはディッキーを殺してしまい、彼になりすますことになる……というのが本作のあらすじ。
主演のマット・デイモンの臆病かつ危険な演技もさることながら、傲慢で不遜、しかし圧倒的なカリスマ性と色気を持つ、ロウ演じるディッキーが見どころsの本作。まるで“いじめっ子といじめられっ子”、“主人と僕”のような二人の怪しい関係が崩壊するボートのシーンは、演技派二人の名演も相まって、素晴らしいものになっている。
■『ロード・トゥ・パーディション』:マフィア世界の仁義と復讐を描いた、アメリカ版『子連れ狼』
最後に推したいのは、原作者が『子連れ狼』(小池一夫・小島剛夕の名作時代劇漫画)をモチーフにしたという同名グラフィックノベルの、2002年の映画化作品である『ロード・トゥ・パーディション』でのジュード・ロウだ。
大恐慌時代のシカゴで、ギャングのボスに一家ともども可愛がられていた殺し屋マイケル・サリヴァン。しかし、彼へのボスの寵愛に嫉妬していた息子コナーは、サリヴァン一家を襲撃し、妻と次男を殺害してしまう。なんとか生き延びたマイケルと長男は、コナーと、家族への愛からやむなく息子に加担したボスへの復讐を決意する……というのが本作の筋書き。
主演のトム・ハンクスのいぶし銀の名演が光った、任侠魂溢れるギャング映画である本作。ロウは、ボスに依頼されてマイケル暗殺に動き出す、山高帽を被った殺し屋マグワイアを演じているのだが、これがまた強烈なのだ。自身のM字ハゲをあえて晒し、美しいのに不気味、そして異常な執念で主人公を追い回す、静かな狂気をたたえた役を怪演している。