世界的コーヒーチェーン店「スターバックス」。そのアイコンといえば、緑と白で描かれた女性のロゴだが、実はあの女性はギリシャ神話に登場する怪物で、恐ろしい逸話が残されているのだ……。本記事ではスターバックスのロゴに描かれた女性についてご紹介する。
■その正体はギリシャ神話の登場人物「セイレーン」
スターバックスのロゴの女性は、ギリシャ神話で語られる「セイレーン」をモチーフになっているようだ。文献によっては「サイレン」とされていたり、地域によっては「セルキーアザラシ」や「メロウ」、「マーピープル」と呼ばれたりと名称にバラつきがあるが、音楽を愛好しているという点は共通している。
スターバックスのロゴの「セイレーン」は冠を被っているためお姫様のようにも見えるが、神話上ではその歌声を聞いたものを虜にして狂わせてしまう“海の怪物”として語られる。一例として、古代ギリシアの叙事詩『オデュッセイア』で語られるセイレーンのエピソードを紹介しよう。
■魅惑の歌声で船乗りたちを狂わせる海の怪物
主人公のオデュッセウスとその部下たちは、「セイレーン」が住んでいる島に船で到着する。そこでオデュッセウスは部下たちの耳に蝋を塗り、自分を柱に括りつけさせる。そして、「もし、私が縄を解けと頼んだらより強く縄を締めるように」と命じ、船を出させた。
これは「セイレーン」の歌声を聞いて、狂わされないための対策だった。オデュッセウスは途中で「セイレーン」の歌声に引き寄せられてしまいそうになるものの、部下に縄を強く締めつけさせることで、無事に生きて帰ることができた。
また、ハーバード・ジェイムズ・ドレイパーの絵画「オデュッセウスとセイレーン」では、「セイレーン」がオデュッセウス一行の乗る船に襲いかかる瞬間が描かれている。「セイレーン」の姿を見てみたいという方は、是非検索してみてほしい。
■なぜ「セイレーン」がスタバのロゴに採用された?
では、そんな「セイレーン」はどうしてスターバックスのロゴに採用されたのだろうか。その由縁は、スターバックスの創業時にまで遡る。
“航海の歴史を体現した店”というイメージをもとに創業への準備が進むなか、ロゴ制作チームのひとりがノルウェーの版画に描かれた「セイレーン」を見つけた。「セイレーン」は“航海”を連想させるという意味でも、多くの人を魅了したという意味でも、まさにイメージにぴったりだったということで、ロゴに採用されたのだそうだ。
創業当初は写実的に描かれていた「セイレーン」のイラストは徐々にポップに中和され、今日までスターバックスのアイコンとして愛され続けている。
――神話ではおどろおどろしく描かれている「セイレーン」だが、船乗りたちを惹きつけるパワーは並大抵のものではない。商売人なら「セイレーン」のように多くの人を虜にしたいと願うのも自然なことなのだろう。