『幽☆遊☆白書』終盤はラブだらけ説――鬼才・冨樫、元ラブコメ作家の血が騒いだか!?

コラム

citrus 二階堂銀河

 

アニメも大人気で発行部数約5000万部を誇るバトル漫画『幽☆遊☆白書』。

 

一度死んでしまった主人公・浦飯幽助は様々な出来事を経て生き返り、その後、霊界探偵として妖怪絡みの事件などを解決していくというストーリー。暗黒武術会といった妖怪たちが集う団体戦の大会に幽助らが出場するなど、王道のバトル展開も熱い作品でした。

 

 

そんな『幽☆遊☆白書』、魔界統一トーナメント編から最終章にかけてはただのバトルものではなく、実はいくつかのラブストーリーが描かれています。今回は物語終盤に描かれた3つのラブストーリーを紹介しましょう。

 

 

 

 

■雷禅:「次に会うまで人を食うまいと勝手に決めた」

 

 

魔族としての幽助の父親である雷禅は、軀(むくろ)や黄泉と同じく、魔界に君臨する三妖怪の一人。その三匹は人間を主食とする妖怪なのですが、雷禅はいつからか人間を食べることをやめてしまいます。魔界トップクラスの強さを持った雷禅でしたが、食事を摂らなくなったことでみるみる衰弱してしまうのです。

 

 

人間を食べなくなった理由はなんと、雷禅が人間の女性を愛してしまったから。その相手は700年前の女性で、「病死した人間の腐肉を食し、体内で免疫を作り自らの血肉を薬として病人に与える」という過激なやり方をとる呪術師/医師。雷禅は初め、軽い気持ちで女性に近づきましたが、女性の物怖じしない強気な言葉に尻込みし、「食えなかった 食えば死ぬ それ以上に女に気おされした」と圧倒されるのでした。

 

 

女性に惚れ込んだ雷禅は、一晩かけて女性を口説き倒します。そして、雷禅はその女性が生来の呪術師/医師ではないことを知ると、「自分の意志で人を食う その女に比べ自分が貧弱に思えた」と心境にも変化が…。それから雷禅は「次に会うまで人を食うまいと勝手に決めた 会う約束さえしなかったのにな」と食人を絶つことを決意。

 

 

また、その雷禅と女性のあいだにできた子供こそが、本作の主人公・幽助であり、雷禅は700年越しに自分の息子と対面します。しかし、長くは一緒に過ごせない二人。幽助と話をしている最中に、雷禅は餓死してしまいます。雷禅は今まで誰にも語ることのなかった、愛する女性への思いを今わの際に幽助に打ち明け息を引き取るのでした。

 

 

 

 

■軀:「ちょっとそいつ(幽助)がうらやましい」

 

 

軀については、冨樫氏が「飛影が付き合うならどんな相手がいいだろうか、などと考えながらできたキャラ」とコメントしています(2005年発行の公式キャラクターズブック『霊界紳士録』内にて)。そして、冨樫氏の言うとおり、実は飛影と軀の間には多くのラブロマンス的なストーリーやセリフがあるのです。

 

 

軀の配下となった飛影は、軀直属の部下・時雨との戦いで深手を負い、意識不明に。その治療中に、飛影と軀は機械を通じてお互いの意識を通い合わせます。そこで見たものは、お互いの生い立ちや半生の記憶。そして軀は「お前の意識は今までオレが触れたものの中で一番心地いい」と飛影に語り掛け、さらに「お前なら全てを見せられる 今度はオレの意識に触れてくれ」と続けます。

 

 

そのおよそ半年後、軀の筆頭戦士として地位を固めた飛影。あるとき軀は飛影に尋ねます。「オレと幽助が戦えばどっちにつく?」。飛影は「どっちにもつかん 勝った方とオレが戦う 今なら100%お前が勝つだろうがな」と返答。しかし軀は、それを「半分ウソだ」と言い、「もし今現在そうなればお前は幽助につく」と断言します。そして「ちょっとそいつ(幽助)がうらやましい」と飛影に対する心情を吐露するのです。

 

 

これらだけだと軀の片想いに感じるかもしれませんが、そうではありません。軀の誕生日に、飛影は軀にとってとびきりのプレゼントを送ります。

 

 

生まれたときから玩具奴隷だった軀は、七歳のときに育ての父親(奴隷商人)に捨てられ決別。それ以降、父親に復讐することもなく放置する軀に、飛影は「なぜ奴を生かしておくんだ?」と疑問を投げかけますが、それは実は父親が軀に仕組んだ催眠術による影響だったのです。

 

 

それを暴いた飛影は軀にかけられた催眠術を解くのと同時に、その父親に寄生植物を植え付けて、脳を破壊しない限り半永久的に死なない状態で生け捕った父親をプレゼント。「好きなだけ切り刻め 気がすめば殺したらいい」と飛影なりの優しさを見せます。本来、二人は一国の長とその配下といった関係なのですが、それ以上にお互いを理解しあっている特別な仲と言えそうですね。

 

 

 

 

■幽助:「あっちが神ならこっちは女神だ」

 

 

最後に、幽助とヒロイン・螢子の物語です。

 

 

あるとき、霊界が武装教団・正聖神党に乗っ取られたという報せが幽助のもとに届きます。人間界に向けて異次元砲を使うと脅す彼らを倒すため、幽助らは霊界に潜入。そして、人質を救い、正聖神党メンバーを捕えることには成功するのですが、肝心の異次元砲の作動を止めるボタンがどれなのかがわかりません。

 

 

幽助は正聖神党のボスを問い詰め、三色あるボタンのうちどれが正解のボタンかを聞き出そうとします。しかし、ボスは尋問に応じず、「お前が選べ…しかしそれは神の意志」と言い残し自決。手掛かりがないまま、幽助は仲間を避難させ、自分だけボタンの前にとどまります。三分の二の確率で自分の魂もろとも人間界が爆破されてしまうという危機。絶体絶命のピンチに、幽助は死を覚悟してボタンを押します。

 

 

選んだボタンは青色。それは、幽助の幼馴染みである螢子の好きな色でした。結果は……正解。危機を脱したのでした。そのとき幽助は「あっちが神ならこっちは女神だ」という祈りを込めたそうです。