誰もが安全だと信じていた食材を食べ、死者3名、被害者100名以上を出す大事件を引き起こした。果たして何が起きたのか?
■突然苦しみだした2人の男性
1987年11月。カナダ東部に位置する川沿いの街モンクトン。この日、ある男性が緊急搬送された。症状は激しい腹痛と嘔吐、意識ももうろうとしている。
その後、同じ症状を訴えた高齢の男性も搬送された。2人とも食事をして数時間後に搬送されたことから医師は食中毒と判断し、保健所に通達。その原因となった食材の特定を急いだ。
しかし数日後、2番目に搬送された高齢の男性が死亡。亡くなった男性の家から当日食べたとされる食材をサンプル品として回収し、はじめに搬送された男性も同様に調査した結果、共通の食材がムール貝であることが判明した。
■なぜ? 記憶を失う患者も現れる
ムール貝は日本でも多くの料理に使われる一般的な食材。二枚貝には下痢性貝毒のような嘔吐、腹痛を引き起こす食中毒があるものの、今回の様に意識がもうろうとして人が死亡する程の症状は通常起きないという。
そんな中、別の場所でも次々と同じ食中毒の症例が発生する。どの患者も共通してムール貝を食べていた。そしてある高齢の男性はこの食中毒によりなんと記憶喪失まで引き起こしてしまう。一体この食中毒の原因は何なのか?
■ムール貝に含まれていた毒物の正体は?
今回の食中毒を引き起こしたムール貝の産地を調べると、それらは全てカナダの東部に位置するプリンスエドワード島産だと判明。すぐに養殖場のムール貝を出荷停止にし、水質調査が行われた。
やがて、プリンスエドワード島産のムール貝からある毒物が発見された。それは「ドウモイ酸」というものだった。
海中に生息する植物プランクトンの珪藻の一部などが作り出す毒物で、通常は微量だが大量に摂取すると記憶喪失などの症状を引き起こしてしまう。プリンスエドワード島産のムール貝にはそれが大量に含まれていた。
今回の食中毒事件による被害者は107名。その4分の1の患者に記憶喪失の症状が現れ、その内3名が死亡。
この事件をきっかけにカナダやアメリカ、EUではドウモイ酸の基準値が設けられ、出荷前に検査されることになった。日本では、こうした危険のあるムール貝が出回ったことはない。
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