※注意※
本コラムは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレがあります。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』をすでに鑑賞済であることを前提に執筆しておりますので、未見で作品の内容を知りたくないという方は読まないでください。
3月8日にとうとう公開されたシリーズ完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。本コラムでは“ネタバレあり”で考察させていただきますので、未見の方はご注意ください。今回は渚カヲルの心理と“見誤ったこと”に迫ります!
■『:Q』のカヲルは見誤っていた?
※注意※
ここからはネタバレが含まれます。
『エヴァンゲリオン』は大きく分けて2通りのシリーズがあります。
『新世紀エヴァンゲリオン』として、1995年から始まったテレビ版(全26話)と旧劇場版からなる旧シリーズ。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』として、2007年からリブートした『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』・『:破』・『:Q』・『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、この4作からなら新劇場版シリーズ。
旧シリーズも観ている方は、新劇場版シリーズがループした世界であることはご存じでしょう。そして、『:序』・『:破』・『:Q』でループが何度も繰り返されていることを匂わせる描写はありましたが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でそれが確定されました。
ループしたのは一度だけではなく、これまでに何度も何度も繰り返されていたのです。
そんななか、ほとんどのキャラたちがループしていることを認識できていませんが、渚カヲルは違いました。カヲルは何度も何度も失敗して繰り返される世界を経験し、記憶が消えることなく蓄積されていたようです。
さて、ここからが本題。
旧シリーズは、これまで何度も何度も繰り返されてきた“失敗回”の一つを描いた物語だったわけです。そして、今回の新劇場版シリーズが、とうとうその呪縛を断ち切り、ループから抜け出せた“成功回”の物語だったんでしょう。
しかしカヲルは自分の死の間際、この新劇場版シリーズの世界も“失敗回”だったと考えていたように思えます。『:Q』で爆死する直前、カヲルは碇シンジに「そんな顔しないで。また会えるよ、シンジ君」と伝えているからです。
自分の死を目前にして「また会える」と言ったことは、決してポジティブな意味だけではなかったように思います。死んでしまうのにまた会えるということは、また世界がループしてしまうことを示唆していたのではないでしょうか。
つまりカヲルはこの時点で、またループを断ち切れない“失敗回”にしてしまったという、自責の念があったのではないでしょうか。
ですが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のラストでそのループから抜け出したことがわかります。これまで何回も、何十回も、もしかしたらそれ以上、ずっと“失敗回”を続け世界はループしていましたが、この新劇場版シリーズがループを抜け出せる“成功回”だったのです。
そう、ループの観測者だったカヲルは見誤っていたのです。
何を見誤ったのか?
それは、この新劇場版シリーズのシンジを、です。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でシンジは、アヤナミレイ(仮称)との心の触れ合いと死別を乗り越え、式波・アスカ・ラングレーの悲痛な想いと覚悟を感じ取り、葛城ミサトが裏に隠していた優しさと信頼を受け取って、急激に精神的成長を遂げていきます。
レイ、アスカ、ゲンドウ、そしてカヲルの魂も救済し、ループを打ち破ったのです。
いつもシンジの幸せを願い、シンジの魂を救済することだけを考えていたカヲルは、まさか自分がシンジに救われる側になるとは想像もしていなかったでしょう。
カヲルはシンジの成長を見誤っていました。
だからまた世界はループしてしまうと思っていたんでしょう。しかし、シンジはカヲルの想定をはるかに上回る成長を遂げ、カヲルを救済し、ループの呪縛を断ち切ったのです。