今年4月、堂々たる完結を遂げた大人気漫画『進撃の巨人』。そこに登場するライナー・ブラウンは、読者に多くの表情を見せた人気キャラであると同時に、数々の不幸にまみれた男でもあった。今回はそんなライナーの不憫な境遇・人生を振り返る。
このコラムでは、内容の関係上ネタバレありきなことをご留意いただきたい。
■幼少期/生まれながら差別を受け、父からも憎悪を向けられるも必死に生きる
ライナーは大国マーレのなかで、かつて同国の民族を虐殺した過去を持つとされるエルディア人として、マーレ内のエルディア人収容区で生まれた。この時点で、世間からは疎まれ“悪魔の末裔”として差別を受けることを宿命づけられてしまう。
両親のうちエルディア人の母とは、晩年まで深い絆で結ばれていたライナー。しかし、父親はマーレ人であり、自分がエルディア人の子であるライナーをもうけたことを後悔し、父親らしいことはおろかライナーの存在にまで嫌悪を向けるような男であった。
ライナーは、名誉マーレ人の称号を得て家族の待遇を良くするために、マーレ軍に入隊し巨人の力を継承することになる。しかし、それは寿命が残り13年になることを意味していた。
■パラディ島潜入時代/仲間を裏切り、虐殺に手を染めざるを得なかった悪夢のとき
ライナーはまだまだ世間知らずの少年時代に、元同胞でありながら自分たちを敵国に置き去りにしたとされるエルディア人たちの住む、パラディ島への潜入任務を命じられる。同期であるアニ、ベルトルト、マルセルらとともに、危険な無垢の巨人が跋扈する島へ上陸するも、道中リーダーであるマルセルから、“お前が巨人に選ばれたのは俺の弟を生かすために人身御供にしたからだ”という衝撃の事実を伝えられてしまう。しかも、直後に自分を守るためにマルセルは無垢の巨人に食い殺されてしまうのだった。
唯一の誇りであった巨人を継承した事実が己の努力ではなかったことや、リーダーを失った責任から、ライナーは頼れる存在だったマルセルを模倣するかのように、虚像としての“頼れる男”を演じることに固執していくようになる。そして、パラディ島の兵士に入隊し、全ての巨人を操る力を持つという“始祖の巨人”の持ち主をあぶり出すために、身分を隠して暗躍することになってゆくのである。
そこで過ごす日々は、偽りとは言えライナーに安息を与えていたのは確かだったようだ。しかし、残酷な世界はライナーをパラディ島内での虐殺事件、そして主人公のエレンら兵団のメンバーへの裏切り行為へと導いていったことで、彼は心のバランスを崩し、一時的に二重人格症状まで出るに至ってしまった……。
■マーレ帰還後/うらぶれつつも後輩を愛する兵士の心は、限界に達していく……
パラディ島内でのエレンらとの激戦をなんとか生き延び、マーレへ帰還したライナー。その後は軍に所属しながら、後輩の幼い訓練兵たちの良き兄貴分であり続けた。しかし、彼の心は未だ傷を負っており、常に後悔に満ちた表情を浮かべて過ごすようになる。
パラディ島での自分の行いを悔い続け、ライフル銃を口にくわえての自殺まで試みるほどに追い詰められていたライナー。そんな彼のもとに、異様な落ち着きと決意をたたえたエレンが現れる。堰を切ったように彼への贖罪と後悔を漏らすライナーに理解を示すかのようなそぶりを見せたエレンだったが、突如として式典の最中に巨人化。ライナーはかつての自分と同じように、エレンが故郷の人々を惨たらしく虐殺していく様を目の当たりにしてしまう。
その後、自暴自棄になる心を幾たびも抑えながらエレンらへの報復作戦に身を投じ、ついには世界を滅さんとするエレンの暴虐を前に、かつての敵であったパラディ島勢力と手を組むに至ったライナー。傷を負い続けながらも、結局は最後までくじけなかった不憫で繊細な男の勇姿は、複雑な涙なくしては語れないだろう。