恋愛コラムニストであり、『Smart FLASH』(光文社)でドラマ批評連載を持つドラマウォッチャーの筆者は、学生時代は陰キャの4軍男子。そんな筆者がZ世代に向けて作られ、陽キャがうじゃうじゃ登場するドラマ『卒業式に、神谷詩子がいない』を観た感想は……?
■キラキラした陽キャたちをこれでもかと見せつけられる
毎週日曜・13時45分~14時15分で放送中のZ世代向けドラマ『卒業式に、神谷詩子がいない』(日本テレビ系/関東ローカル)、なかなか香ばしくてヤバいです。
朝ドラ『おかえりモネ』(NHK)で注目を集めた女優・茅島みずきさんが民放ドラマ初主演を務める本作は、高校生の男女6人による群像劇。主人公・詩子(茅島さん)のダンスがきっかけで仲良くなった女子3人・男子3人は、部活とは別に「ファンファーレ」というサークルのようなグループを作り、青春を謳歌していくのです。
―― 基本的にはキラキラした高校生たちを、これでもかと見せつけてくれるのが本作の醍醐味。
「ファンファーレ」メンバーが2年生のときには、動画サイトに投稿したダンス動画がバズッたことで、1年生からも声をかけられるほど有名な存在になるなど、いわゆるスクールカースト・トップ勢のお話。詩子は中学時代のトラウマがあるためどちらかというと陰キャ寄りですが、メンバー6人の陽キャ占有率が高いため、ティーンの酸いも甘いも全部マシマシでブッ込んでいるのです。
とは言え、2022年3月に卒業する彼女たちの3年間を描いたストーリーとなっており、劇中では現実と同じように新型コロナウイルスも感染拡大していくため、緊急事態宣言などコロナ禍の高校生たちのリアルな生々しさもあり……。
■観てるこっちが気恥ずかしくなって、ムズムズして苦しい
さて、ここからが本題です。
ティーンエイジャーの頃は陰キャの4軍男子として過ごし、自身の中学・高校期を “暗黒時代” と呼んでいる筆者が、この陽キャドラマを観た感想。
誤解を恐れずに言うなら、
“観てるこっちが気恥ずかしくなって、ムズムズして苦しい”
といった感じ。ただ、その気恥ずかしさや苦しさが絶妙にクセになるのです。
中高時代の女子との総会話時間(6年間のトータルで女子と話した時間)がわずか5分という筆者からすると、仲のいい男女がサークルみたいなものを作ってウェイウェイして、校内で人気になるなんて、もはやファンタジー。
確かに筆者の中高時代にも、気の合う男女が集まったグループを目撃したことはありますが、筆者はせいぜいそのスクールカースト・トップ勢の視界の片隅に入るか入らないか程度のモブキャラ。当時の筆者は、なんだったらそんなトップ勢を憎々しく&疎ましく見つめていました。
……が、さすがに大人になった今は、劇中の「ファンファーレ」メンバーを見ても、当時のような憎さやウザさは抱かず、至極素直な感情が芽生えたのを自覚したのです。
羨ましい。憧れる。
どうやら妬んでいたから憎々しく鬱陶しく感じていたようですが、 “妬み” からネガティブな要素を排除すると、そこに残るのは “憧れ” というピュア丸出しの感情だったというわけです。
余談ですが、いつの時代も不倫ドラマが流行るのは、 “身近なファンタジーもの” というジャンルだからでしょう。不倫はいけないことだから絶対に自分はしないけれど、どこか情熱的な婚外恋愛に憧れがあるという人たちから、不倫ドラマは支持されているのです。
『卒業式に、神谷詩子がいない』は不倫ドラマとは真逆のベクトルながら、筆者のような過去に傷を持つ者にとっては “身近なファンタジーもの” 。時を戻さない限り絶対に自分は経験できないけれど、どこかウェイウェイした陽キャに憧れがあったという大人には、『卒業式に、神谷詩子がいない』は刺さるはず。
本作は「TVer」や「Hulu」で過去回が視聴できますので、まだ最終回に間に合います。元4軍の陰キャこそ、筆者と同じように “ムズ苦しい心地よさ” を味わってみてください。