それは兵庫県で起きた。この日、健康診断を受けていたひとりの女性。特にどこか気になっているわけではなかったが、毎年必ず受けていた。そして自宅に戻り、ある異変に気づく。
腕のかゆみを感じ、その部分を見てみると発疹ができていた。すぐに自宅にあった薬を塗った女性。これで治まるだろうと思っていたが……しばらくすると息苦しくなった。夫が異変に気づき、女性の顔を見ると……なんと目の周りが腫れていた! そして意識を失い、痙攣が止まらなくなった! すぐに近くの病院に救急搬送された。
医師たちは症状からみて、アナフィラキシーショックを起こしていると判断。すぐにアドレナリン注射を打ち……症状は落ち着いた。
それにしても、原因は一体何だったのか? 通常、アナフィラキシーショックを起こした場合、食べ物や薬などが疑われるが、この日は、健康診断のため前の晩から水以外口にしていない。
そうなるとやはり、健康診断に原因が? 健康診断では肺のレントゲン検査に加え、採血や尿検査、胃のX線検査、いわゆる『バリウム検査』を受けていた。これは、バリウム製剤を胃の粘膜に付着させることで、胃潰瘍やガンによる粘膜の凹凸を確認することができるという。倒れる前に口にしたのは、バリウム製剤のみ。そこで、医師はバリウム製剤を疑い、薬剤部へ連絡した。
■本当にバリウムが原因なのか?
薬剤部は、すぐに製薬会社に連絡を入れ、バリウム製剤に含まれる成分を全て取り寄せたのち、スクラッチテストを行った。
このスクラッチテストでは、皮膚に傷をつけバリウム製剤の10種類の成分のうちどの成分に反応するかを観察した。
すると20分後……あるひとつの成分に陽性反応が。それは……「カルボキシメチル・セルロースナトリウム」という成分だった。
この成分は、バリウム製剤に粘りやとろみをつけ、胃の粘膜に付着しやすくするためのもの。アイスクリームやヨーグルトに粘りをつけるためにも使用されるなど身の回りに多く存在する。倒れた女性は、これまでヨーグルトなどでは反応を起こしたことなどなかった。では一体なぜ、バリウム製剤だけに反応してしまったのか?
考えられるのは、その成分は化粧品にも使われているため、日頃からよく体に触れ、アレルギー反応が出やすくなっていた可能性がある。
そして検査のとき、胃の表面構造を見やすくするため発泡剤を飲むのだが、これにより胃の表面のバリア構造が開き、通常より通り道が広くなり、そこから成分が吸収された可能性も。
このように、いくつかの要因が重なりアレルギー反応が起こったと推測されたが、非常に稀なケースだという。とはいえ、健康診断の問診票にはバリウム製剤にアレルギーを起こす可能性について書かれている。過去に少しでも気分が悪くなった人は注意が必要だ。(2019年2月12日OA)