『真犯人フラグ』、二つの意味の “絶望” を引き起こした妻・真帆を考察 ※ネタバレあり

コラム

citrus 堺屋大地

 

3月に完結した人気ミステリードラマ『真犯人フラグ』(日本テレビ系)。恋愛コラムニストであり、『Smart FLASH』(光文社)でドラマ批評連載を持つドラマウォッチャーの筆者が、主人公・凌介の妻・真帆について考察します。

 

 

■真犯人はミステリーの王道通りのキャラだった

 

昨年10月から今年3月までの約半年間、全20話で放送された西島秀俊さん主演の連続ドラマ『真犯人フラグ』。

秋元康さんが企画・原案で考察ブームを巻き起こし、最終回の世帯平均視聴率が19.4%(※ビデオリサーチ調べ/関東地区)という大ヒット作になった『あなたの番です』(日本テレビ系)と、同じ座組という鳴り物入りでスタートしました。

妻・真帆(宮沢りえさん)との夫婦仲がよく、高2女子と小4男子の子供がいる平凡なサラリーマンだった相良凌介(西島さん)。しかし、突如妻と二人の子供が謎の失踪をし、劇中のSNSやワイドショーなどでは、凌介が悲劇の夫を演じている家族殺害犯=真犯人だと疑われてしまい……というのが序盤のストーリーでした。

さっそくネタバレになりますが、3人の失踪の真相は “妻・殺害” 、 “娘・家出” 、 “息子・誘拐” という別々の事件が偶然同日に発生していたというもの。そして、3つの事件は当初はバラバラのものでしたが、妻を殺害した凌介の親友であり週刊誌編集長の河村俊夫(田中哲司さん)が黒幕的に暗躍し、捜査を撹乱していたのでした。

 

 

■真帆は不倫妻で、第1話の時点ですでに死んでいた

 

最終話となる第20話で、妻・真帆が失踪当日にすでに殺害されていたことが判明。要するに第1話の時点で亡くなっていたわけです。

しかし、それまでにたびたび真帆が生きているような描写があったため、第1話の前半を除き、本作がずっと “真帆が死んだ世界” を舞台にしていたという事実は、主人公・凌介だけでなく視聴者も驚愕したことでしょう。

ただ、真帆がすでに殺害されていたという事実よりも、筆者が個人的に驚いたのは、住宅メーカーの営業マンで大学時代の後輩だった林洋一(深水元基さん)と真帆の不倫が、本当だったこと。

劇中の回想で、真帆が「あっちゃん(息子・篤斗)が大きくなって、林君に似てきたりして、凌ちゃんに気付かれたらどうしようとか……怖くて」と語るシーンがありました。

このセリフをストレートに受け取るなら、 “篤斗は林との不倫の際に妊娠してできた子かもしれない” と解釈できるわけですが、それがミスリードだったのではないかと考えていたのです。つまり、真帆は林と不倫なんてしておらず清廉潔白に違いない、という予想。

例えば篤斗は、本当は凌介と真帆のどちらとも血縁関係がなく、実父は林。他の女性との間に子供ができてしまったが育てられないと林から相談を受けた真帆が、人情で引き取って我が子として育ててきた。

……というようなストーリーならば、前述のセリフも整合性がつくし、真帆が穢れた不倫妻というオチにもならなかったわけです。

ですが真相は、真帆は林と不倫しており、それをネタに真犯人である河村に脅され、抵抗した結果殺されてしまったという結末。

約半年間もの長期間にわたって放送されてきた物語で、ずっと探していた妻が実は最初から死んでおり、しかも不倫もしていたという事実を突き付けられる――主人公・凌介視点で考えるとあまりにも残酷な絶望エンドでした……。

余談ですが筆者は、タイトルが『真犯人フラグ』という意味深長なものだったので、通常のミステリー作品のセオリーどおりの “身近な良い人” が真犯人なはずはない、という予想もしていました。

ブラッド・ピットさんの映画『ファイト・クラブ』(1999年)や、レオナルド・ディカプリオさんの映画『シャッター アイランド』(2010年)のように、主人公自身に秘密があったという結末や、ジム・キャリーさんの映画『トゥルーマン・ショー』(1998年)のように、主人公以外全員がグルだったといった結末もありえるのでは……と考察していたのです。

けれど実際の真犯人は主人公の親友という、よくあるミステリーのごくごく王道なオチだったのにも驚いたものです。