鬼才が描く『うしおととら』 解決したのに悲しすぎる…バッドエンドを迎えた感涙エピ

コラム

citrus 文月

 

鬼才の漫画家・藤田和日郎が描く『うしおととら』は、主人公・潮ととらのコンビが活躍する少年漫画で、アニメ化もされた大ヒット作。大部分は悪い妖怪を倒す爽快な話が多いが、なかには後味が悪く悲しい話も……。今回は悲劇的結末を迎えたエピソードを3つ紹介。

 

 

■第9章『風狂い』

コミックス第5巻に収録されているエピソード『風狂い』で登場する、遠野に住む鎌鼬(かまいたち)の三兄妹。彼らはもともと住んでいた飛騨をゴルフ場の建設によって奪われることになり、激しく人間を憎むようになった妖怪たちだ。特に次男である十郎の憎悪の心は深く、人間を無差別に殺戮するようになってしまった。

後に長男・雷信、末妹・かがりは潮と出会い人間への考えを改め十郎を止めるように頼むが、十郎は兄妹のなかでも一番の実力者。一度は潮を倒し、さらに人を殺めようと決意を固めるのであった。

しかし、潮との再戦の際、岩に踏みつぶされそうになる雷信とかがりを守る潮と彼に協力する人々の姿を見て、十郎は人間への考えを改める。そんな十郎に兄妹揃って住む場所を見つけようと提案する潮。だが、十郎は既に人をたくさん殺めてしまった事実を無視できないのか、最後は自ら獣の槍に飛び込み自害したのであった……。

 

 

■第17章『霧がくる』

『霧がくる』はコミックス第8~9巻に収録されているエピソード。北海道の旅の道中、バスに乗っていた潮ととらは徳野という元やくざ者に出会う。彼は癌を患っていたため、所属していた組を抜けてはるばる生まれ故郷に帰るのだという。その後、潮たちが乗るバスを妖怪・シュムナが襲撃。獣の槍が全く効かないほどの強力な敵であったが、とらの機転のおかげで一度はシュムナを撤退させることに成功する。

徳野は潮の一途な姿勢を見て、悪さばかりしていた子供の頃に母親に言われた、「お天道さんにもほかの人にも顔を向けるんだ」という言葉を思い出す。そこで、徳野は潮に対し “自ら危険を冒してなぜ人々を助ける?” と尋ねるが、潮は “人々が助かるのなら別にいい” と返すのだった。

しばらくして再び現れることになるシュムナ。潮ととらはバスの乗客を守るため奮闘するがシュムナの能力によって何もできずにいる。すると、そこに軽トラックを運転する徳野が現れ、トラックに火をつけシュムナに突撃。火が弱点であるシュムナの撃退は成功したが、彼自身も無事とはいかず満身創痍であった。けれど、その顔はどこか誇らしげであり、最後は潮に見守られながら息絶えた。

 

 

■第31章『ブランコをこいだ日』

原作屈指の傑作エピソードとして知られているコミックス第19~20巻に収録された『ブランコをこいだ日』。航空機事故によって視力が低下し目の手術を控えている少年ミノルに出会った潮。父親は先の事故で亡くなったにもかかわらず、ミノルは救助されるまで “お父さん” と一緒に暮らしたという。つじつまが合わない言い分ではあるが、潮はミノルに手術の日にそばにいると約束する。

同時に街では目がえぐり取られた人の死体が発見されるようになる。犯人は妖とされており、カマをもった悪魔のような姿をしていたという。その正体は “さとり” という妖怪であり、心を読めるという特性を持つものの戦闘能力は低いため、潮たちにとっては苦ではない敵であった。潮たちは殺人の犯人としてさとりと対峙するが、戦闘を重ねるうちにさとりがミノルの話していた “お父さん” であると気づくのだった……。

事故後のミノルを保護し、一緒に暮らしていたというさとり。しかし、さとりはミノルと暮らしていくうちに彼の目が良くないことを知る。そこで、さとりは他人の目を奪って与えればミノルの目も良くなるという猟奇的な思考に行き着き、殺人に走るようになってしまったのだ。さとりを “お父さん” として信じてやまないミノルのことを考え、さとりを退治するかどうかの判断がつかない潮。しかし、さとりの “ミノルのためなら人間はいくらでも殺す” という発言に激高した潮は、とうとう獣の槍をさとりに突き刺すのであった。

さとりは血を流しながらも、ミノルの目が良くなることを信じ消滅した。手術が終わったミノルは “お父さん” を探すが、潮はあえてさとりのことを知らせず “お父さんは遠くに行った” と噓をつく。すべてが終わった後、潮はこの事実に耐え切れず泣き崩れるのであった。