2015年、千葉県。歯の痛みで歯科医院を訪ねた女性。虫歯が見つかり、しかもかなり進行していたため……処置をしたあと歯の神経を抜いた。これで痛みはなくなるはずだったが……一週間後も神経を抜いたはずの歯が痛い!
彼女は歯の痛みに耐えられなくなり、再度歯科医へ。しかし……歯も歯肉にも異常はないという診断結果が。だがその後も全く痛みは治まらず、処方された痛み止めを飲むが薬が切れるとまた痛む。
心配した夫が調べてみると……「上顎洞性歯痛」という記述を見つけた。上アゴの奥歯と隣接する位置にある上顎洞は膿が溜まりやすく、炎症を起こすと歯に痛みが現れる場合がある。
そこで、耳鼻咽喉科を訪ね検査したが……この症状ではなかった。その後、視力の低下が原因と聞けば眼科へ行き……骨の歪みが原因と聞けば整形外科へ。整体やハリ治療も受けた。
しかし、少しもよくならない。だから、やはり歯が悪いんじゃないかと別の歯科医院へ。そこで歯を削り、かみ合わせを修正したり、歯のクリーニングをしたり、考えられることは全てやった。
それなのに、歯を処置するたびに痛みが増し左頬にまで痛みが出るようになってしまった! どうしても痛みが強いときは、顔中に湿布を貼ってやり過ごした。そして、痛みで家事もままならず……噛むと痛みが頭に響くため、流動食しか食べられなくなった。
■原因は多くの人が抱えているアレ?
歯科医からは、あと考えられるのは心の病だとまで言われた。実は心身の疲労やストレスによって、病気ではないのに痛みが体に現れることがあり、実際、歯の痛みを訴える患者もいる。
そこで心療内科で受診。すると……頭の中で痛みを作ってしまっている可能性があるという。この痛みは気のせい? ……そう言われても納得できず、彼女は7軒もの歯科医を訪ね、2本の歯と3本の歯の神経を抜いた。こうして、歯の痛みに苦しんで5年。この日も半ば諦め気味に歯の痛みについて調べていると……「顔のコリ」についての記述に目が留まった。
それはある病院のホームページだった。顔の筋肉のコリにより歯が痛むことがあるという。
顔がコル? まさかと思いながらも、なんでも試してみようとその病院を訪ねた。医師は彼女の状況を細かく聞いた後……触診を始めた。そしてこめかみを押したとき……歯に激痛が!
そう、彼女の歯の痛みの原因は、顔の筋肉のコリによるものだったのだ!!
それは、筋・筋膜性歯痛と呼ばれる噛むための筋肉のコリ。これは顔の周りにある咀嚼筋という筋肉の痛みが歯の痛みとして感じられる状態だった。咀嚼筋はこめかみや頬、首などに通っていて、くいしばりや歯ぎしり、片側でかむなど習慣的な疲労によってシコリが発生する。そのシコリによる痛みを脳は勘違いし、歯に痛みが表れることがあるのだ。
医師は彼女の歯痛の発生源と考えられるコリ、こめかみ、頬、クビを入念にマッサージした。すると翌朝……なんとウソみたいに歯の痛みが消えたという。ただし、一度の治療で完治するわけではなく、顔のストレッチなどでコリを改善する必要がある。歯の痛みに悩み続けた女性は、歯そのものに原因があると思い込んでしまい、何本も歯を抜いてしまったことを後悔しているという。
もし、歯が痛いと思っても、歯や歯茎に異常がなければ顔の筋肉のコリを疑ってみては? (2020年12月8日OA)