90年代半ばから賑わいを見せたラーメンブーム。特に1996年に開店した『武蔵』、『青葉』、『くじら軒』は当時のラーメン業界に激震をもたらした。これらの店は “96年組” と呼ばれ、後のラーメン屋に多大な影響を及ぼしたのだ。今回はそんな3店を紹介していきたい。
※情報はすべて9月3日時点のものです。
■『麵屋武蔵』
東京都港区青山に第1号店をオープンした『麵屋武蔵』。現在、国内に14店舗を構える武蔵は、さんまの煮干しと羅臼昆布からとった斬新なスープが人気を呼び、20年以上も多くのラーメンファンから愛されてきた店だ。また店舗ごとで異なるメニューを提供しており、それも武蔵の魅力のひとつとなっている。
創業者の山田雄氏は、アパレル業界で年収数十億円も出す実業家であったが、バブル期に事業が失敗。再起を図るべく40代に飲食業界に転業し、42歳で武蔵を開店することになる。
飲食業界のノウハウがなかった山田氏だが、革新的なアイデアを取り入れ、既存のラーメン業界の常識を変貌させた。たとえば、 “ジャズを店内BGMにする” 、 “券売機の設置” 、 “限定メニューの提供” など、今では当たり前となったラーメン屋の店内づくりやマーケティングは武蔵発祥だと言われているのだ。
業界の革新者と言われても過言ではない功績を残しているのである。
■『中華そば 青葉』
首都圏をはじめ、北関東の一部において20店舗を展開している『中華そば 青葉』。東京都中野区中野に1号店をオープンした青葉は、九州のトンコツ、鶏ガラをベースにした “動物系スープ” 、かつお節、さば節、煮干しの旨味を抽出した “魚介系スープ” を、提供直前にミックスした “ダブルスープ” スタイルをいち早く提供したラーメン屋として知られている。
創業者・芳賀良則氏は、四川料理の泰斗・陳建民氏から中華料理の手ほどきを受けたものの、ラーメン自体は独学で勉強したという。90年代当時の東京の主流であった和風だしラーメンに物足りなさを感じ、九州のコクのあるラーメンの製法を取り入れ、両方の良さを楽しめるスープを創り出したのだ。現在、ダブルスープは、他店との差別化を図りたい後続の店に取り入れられており、定番の製法となった。
また青葉はスープだけではなく、つけ麺メニューの開発にも積極的だった。お客の関心を掴むため、中華そば、つけ麺という2本の主力メニューで積極的にPR。その甲斐あって90年代のつけ麺ブームを担ったとも評価する声も多い。
■『くじら軒』
神奈川県横浜市に第1号店をオープンし、『ハマカゼ拉麺』などの有名な分店を出した『くじら軒』。 “元祖・神奈川淡麗系” と呼ばれる同店のラーメンは、トンコツ、鶏ガラのコクのあるスープに魚介系の出汁をブレンドしたスープが特徴。あっさりとしつつ、肉と魚の旨味がしっかりと味わえるスープに、にんにく、唐辛子ベースの香味油を加えたラーメンに魅了された食い手は多く、店には行列が絶えなかった。
サラリーマン生活を経て、46歳でくじら軒を開業した田村満儀氏。ラーメンの作り方は独学だそうで、サラリーマン時代から、家族や知人たちに振る舞っていたという。
くじら軒が革新的だったのは、先述した香味油にある。油は水より比重が軽いため、スープの上に注げば油は表面上に浮く性質がある。そのため、食べ手の鼻腔に香りが直接届き、香ばしい風味がプラスされるのだ。今でこそ、ラーメン屋では煮干し油、トリュフオイルなど変わり種の香味油で新しい味の開拓を進めているが、その原点はくじら軒にあったと語るファンは少なくない。