元サッカー日本代表で、歴代3位の得点をあげている岡崎慎司。彼の魅力のひとつが、豪快なヘディング。だが、そのヘディングにいま大変化が起きている!
サッカー少年だったMさん。当時中学1年生。小学生の時からクラブチームに所属していて、中学サッカー部では、すぐに学年のレギュラーに。そんな彼は、高身長を活かしたヘディングが得意だった。
だが中学2年生になると、ある変化が。練習に「高校球」と呼ばれるボールを使うようになったのだ。高校球と呼ばれているのは、大人の試合でも使われる5号球という一番大きいボール。それまで使っていた4号球よりも周囲は5cmほど大きくなり、重さも最大で100gほど重くなる。そしてこの5号球で初めてのヘディング練習をした時の事だった。Mさんの頭に、これまで感じたことのない激痛が!
皆も痛いようだから大丈夫……最初はそう思っていた。しかし、練習が終わっても痛がっているのは自分だけ。それからも、ヘディングをすると必ずひどい頭痛が襲った。
病院に行くと、すぐに精密検査が行われた。そして、頭痛の原因が判明する……脳に「透明中隔のう胞」が見つかったのだ。
「透明中隔のう胞」とは、透明中隔腔という部分にできた液体の溜まった袋状のもの。透明中隔腔は胎児期には存在するが、生まれる前にはなくなる。しかし、彼のように生まれてからもこの空間が塞がらず、そこにのう胞ができてしまう人がいる。基本的には無症状で日常生活に大きな支障はないが、のう胞が大きくなれば、脳を圧迫する危険がある。
彼の場合、ヘディングをした際にのう胞が衝撃を受け、激しい頭痛を引き起こしていたと考えられた。さらに、繰り返しのヘディングにより軽度の脳震とうを起こしていた可能性もあった。
子どものヘディング練習に変化が
医師に「頭に衝撃が大きくかかってしまう場合、のう胞内に出血を起こしてしまうこともある」と言われ、Mさんは、体のことを考えサッカーを辞めざるをえなかった。
しかし、一般的には透明中隔のう胞は基本的に無症状、予後も良好とされているので、問題はほぼない。
一方で、日本ボクシングコミッションではプロテストの際や毎年の健康診断でCT検査を義務付けていて、この「透明中隔のう胞」がある場合、ライセンスがとれるかどうかを審議される対象となる。さらにこの疾患は、約100人に1人と決して少ない割合ではない。
実は、最近ではのう胞の有無にかかわらず成長途中の子どものヘディングによる、脳へのダメージが心配されている!
イングランドでは去年、11歳以下のヘディング練習を禁止する指針を出した。さらにイギリス・グラスゴー大学は、元プロサッカー選手は、選手ではない人と比べて、認知症などの神経疾患で死亡する可能性が約3.5倍も高いとの驚くべき研究結果を発表。そんなヘディングの影響について現在は日本でも研究が進められ、ヘディングを「正しく」恐れる流れが!
今年5月、日本サッカー協会は、子どもたちのヘディングを制限する新たなガイドラインを発表。年代別に使用するボールや、練習方法についての制限を細かく示したのだ。
ヘディング練習で数年前から、柔らかいゴムボールや、カラーボールなどを使用するサッカースクールもある。軽いボールを使うことで、頭でボールを捉える感覚を、恐怖心なく掴んでいくことができるという。最近では、ヘッドガードを使用しながらプレーするチームも増えてきた。
ヘディング中の頭痛で、脳の疾患が見つかったMさん。現在は柔道整復師や、鍼灸の資格を取得しスポーツ選手の体のサポートしている。
ヘディングを過度に怖がる必要はないが、頭痛が続く場合は病院へ。(2021年9月14日OA)