連日の手紙、抱きつき、キス…手強すぎるシニアストーカーの現実と対処法

人間関係

 

  • 本人に興味を持って(持ったふりをして)話を聞かない
  • 笑って(笑いかけて)接しない
  • 楽しそうに(楽しいふりを)しない
  • 下手に褒めたり励ましたりしない
  • 体に触れない(握手もしてはいけない)

 

これらはいずれも『老人たちの裏社会』(新郷由起著)に登場する《シニアストーカー予備軍に「やってはいけない行為」》だ。本書は“か弱く、善良なお年寄り”のイメージを覆す。万引きに暴行・DV、売春などに走る高齢者の実態はどれもショッキングだが、中でも凄まじかったのが「ストーカー」の章だ。

 

地域の趣味サークルで知り合った80歳男性に、執拗につきまとわれたという69歳の女性。女性が「迷惑です」と伝えても、相手は聞く耳を持たない。郵便受けには毎日のように、切手の貼られていない手紙が届く。悩んでいることを息子夫婦が知り、警察に届け出て被害が収まったが、当の男性は「想いを伝えたかっただけ」と憤慨していたという。

 

37歳女性に抱きつき、強制わいせつ罪で警察官に説諭された70歳男性。妻が入院中、隣のベッドを見舞う30代女性と意気投合したが、「ふとした弾みでキスを交わしたのを最後に女性からの連絡が途絶えた」と男性は語る。一方、女性からの視点では様相はまるで異なる。男性は人気のない脇道でいきなり抱きつき、強引にキスを迫ってきた。女性が抵抗すると、男性はブラウスの中に手を突っ込んできて……。女性は声も出ない恐怖に襲われながらも、必死に相手を突き飛ばし、からくも逃げおおせたというのである。両者の認識はあまりにも違い、そのギャップに言葉を失う。

 

著者自身も、一連の高齢者取材を行う過程で、シニアストーカーに遭遇する。携帯電話に1日30通以上も届くショートメール、鳴り続ける電話、留守電に連綿と吹き込まれる求愛メッセージ……。迷惑だと意思表示しても意に介さない。「そんなこと言わないで」「あなたはまだ運命の出会いに気づいてないだけ」と食い下がる。「ごめんね」と謝り、電話を切った30分~数時間後には電話が鳴り、「どうしてるかな、と思って」だ。手強すぎる。

 

著者は《彼らの執着心や心理動向について自ら識者に学び、被害者たちの実被害や心情を詳細に聞いておきながら、全く自分の言動に活かされていなかった》と猛省する。冒頭に挙げた「やってはいけない行為」も《パーフェクトに行っていた》と猛省する。愛想笑いも、社交辞令も一切通じない。ストーカー加害者に対する心理療法やカウンセリングを行うNPO法人「ヒューマニティ」理事長の小早川明子氏に解説によると、《仕事や同情に基づいた言動であっても、相手は自分への好意としか受け止めないのです》という。話を面白そうに聞けば、「自分に関心がある」と勘違いされ、楽しそうなそぶりは「俺は彼女を楽しませることができた」という喜びと自信を与えてしまい、相手は勝手に妄想を膨らませていくとか。「楽しかったです」ではなく、「楽しいお話でした」と言うべきだともいう。

 

なるほど、と思う反面、果たしてこの禁忌は守れるものか、守るべきものなのかという疑問も沸く。握手や下手な慰めはさておき、そのほかの3つは和やかに会話をすすめる上でのごく自然なリアクションにも思える。高齢者に対してはポーカーフェイスを貫くというのも、ストーカーを回避する方法としては有効かもしれないが、「知らない人に挨拶をするのはやめましょう」に通じる危うさも感じる。

 

高齢者によるストーカー行為の背景に、孤独が潜んでいるのなら、むしろ“ふり”でもいいから興味を持ち、笑いかけ、楽しそうに振る舞うほうがいいのではないか。そんな風に思ってしまうのは私もまた、ストーカー被害に遭う前の著者のように事態の深刻さに気づけていないからなのか。モヤモヤと答えが出ない問いを考え続ける。本書の登場する“ネオ老人”が抱える孤独とむなしさはある日突然出現するものではなく、今の私たちの生活と地続きにあると思うからだ。

 

 

【関連書籍】

老人たちの裏社会』新郷由起著

 

 

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島影真奈美

島影真奈美

「定年後の備えラボ」主宰/編集&ライター 年金から保険、住まい、健康など“定年後”にまつわる不安や悩みを幅広く蒐集。快適なシニア生活と世代間コミュニケーションにまつわる研究・考察を行う。『定...

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