大韓航空パイロットがスト 元凶は高給で引き抜きをする中国?

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写真:中野耕志/アフロ



<大韓航空のパイロット労働組合が今日から31日まで10日間のストライキに突入した。年末で繁忙期の航空業界にあって、なぜ今ストを決行するのか? そこには今の航空業界の問題が隠れている......>

 

年末の帰省や観光で混み合う仁川国際空港に21日、「欠航便のご案内」というポスターが掲示された。朝9時に仁川を出発して成田に向かうKE701便を含む大韓航空の旅客機がパイロット労働組合のストにより欠航することの案内だ。

 

エネルギー経済新聞など、韓国メディアはこの大韓航空の欠航とパイロット労働組合によるストについて、国土交通省の対応なども含めて一斉に報じている。それによると、今回のストライキでは国際線は全体の2%にあたる24便、国内線は全体の15%にあたる111.5便(0.5は片便のみ)、そして貨物便も12便運休となり、合計で 147.5便が欠航することが予定されている。

 

11年ぶりの部分ストライキに踏み切った大韓航空パイロット労働組合は21日午後、韓国民間航空パイロット協会のオフィスで記者懇談会を開き、今回のストライキについての経緯を説明。「我々が納得できるような賃金交渉案を会社側が提示すれば、いつでもすべてのストを中止する」と語った。

 

 

 

■ストの目的は危機的状況を知らせるため


大韓航空のパイロット組合側は、2015年度の賃金交渉で当初37%ものベースアップを要望したが、赤字経営状態にあるという会社側は一般職員労組と同じ1.9%ベースアップを提示。現在労組は29%引き上げを求めている。あまりに無理難題を要求しているとも思える労組だが、イ・ギュナム労組委員長はその理由を説明した。

 

「会社は一般職労組と会社で決定したベースアップ率以上は絶対に受け入れることができないと言いますが、このままでは運航の安全に責任を持つ有能なパイロットが大挙退職する可能性があり、運航安全システムが崩れる恐れがあります」


このイ労組委員長の語るように、大韓航空のパイロットのうち2013〜14の2年間に9人が、そして昨年は一気に46人が中国の航空会社に転職している。ほぼ毎週1人中国に引き抜かれた計算だ。同じ韓国のアシアナ航空でも2014年に6人、昨年は15人が海外の航空界会社へと転職している。韓国国内に乗り入れる海外の航空会社が増えていることはもとより、世界的に航空業界の競争が激化しており、いきおいパイロットの奪い合いが起きているのだ。

 

なかでも中国と中東の航空会社の成長はめざましく、中国の航空市場は年平均5.5%の伸びを示しており、2029年には世界最大の旅客市場になると予想されている。一方の中東では、経済制裁が解除されたイランを筆頭に新型機の発注ラッシュとなっており、これから優秀なパイロットを海外から迎え入れようとしている。

 

 

 

 

■チャイナマネー、オイルマネーが空を飛ぶ


こうした状況で韓国の航空業界はパイロットにとって好待遇を用意できていないのが実情だ。例えばキャリア15年の機長の手取り年俸は一般に1,500万円前後といわれる。しかし、中国の航空会社では、年俸2,000〜3,000万円を提示して引き抜きをしているという。こうした"チャイナマネー"によって、昨年は韓国の航空会社から海外の航空会社へ転職したパイロットのうち、実に9割が中国を選んだ。こうした事態に対抗策をとりたくても、大韓航空、アシアナ航空は、資本に対する負債比率がそれぞれ917%と715%という状態。これではいい人材をつなぎ止めるためにベースアップはしたいものの、無い袖は振れない、というのが会社側の本音だろう。今のところ大韓航空の経営陣とパイロット労組双方の主張の隔たりは大きく、妥協点をどこに見出すせるか、交渉の先行きは見えない。

 

民間航空に関する国際的なルールや技術の制定を行うICAO(国際民間航空機関)によると、2010年ではアジア・太平洋地域の航空業界にいたパイロットは5万人、それが2030年には23万人が必要になるだろうという。大韓航空の抱える問題は、韓国に限った問題ではなく、日本の国土交通省も2030年前後に現在活躍しているベテランパイロットが一斉に退職することから年間400人もの新規パイロットが必要になるだろうと予測して対策を検討している。

 

今、仁川空港や金浦空港に掲示されているストライキによる欠航便の案内ポスターが、近い将来日本の航空会社によって羽田や成田に張り出される可能性があることも肝に銘じておいた方が良さそうだ。

 

文:ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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