アイドル刺傷事件は防げなかったのか? ストーカー化するファンの「もろくて二面性のある自己像」

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先週、東京都小金井市のビルの一室で行われるライブに出演予定だった女性アイドルの冨田真由さんが、ライブ直前に襲われるという傷害事件が発生。冨田さんは全身20か所を刺されて重体で病院へ搬送され、ファンである岩埼友宏容疑者が、現場に駆けつけた警察官に傷害容疑で現行犯逮捕されました。

 

冨田さんの一日も早いご回復を祈るばかりですが、なぜこのような事件が起こってしまったのでしょうか?

 

今回は、「ファンからアイドルへのプレゼント」が事件の発端となりました。メディアでも繰り返し報道されているように、岩埼容疑者のツイッターへの書き込みが、今年の2月初旬あたりから、執拗かつ悪質に変わっていっています。

 

・贈ったプレゼントを返すよう要求し、

・冨田さんがその要求に従い、郵送で返却すると、

・その返し方が気に入らない、全て返してもらっていないと逆上

 

これ以降、悪質なコメントを連発していくのです。

 

返してと言われたから返したのに、返したことで逆上される……。たまったもんじゃありません。こういうストーカーに対して、どんな対応をすべきだったのでしょうか。返してはいけなかったのでしょうか?

 

プレゼントを返す、返さないにかかわらず、岩埼容疑者の気持ちはエスカレートしていったように思います。今回の事件では、ツイッターへの書き込みが、犯行までの心の変化を如実に表していますが、そこには、岩埼容疑者の持つ「もろくて二面性のある自己像」が伺えます。

 

この二面性というのは、

 

「尊大だけれど、自信がない」

「プライドは高いが、ちょっとしたことで傷つく」

 

のように、表裏がある自己のことです。そのため、それを傷つけるものには過剰なまでに反応し、必死に自己を守ろうとする……。

 

ツイッターへの書き込みを見ると明らかですが、岩埼容疑者には、人の痛みを平等にジャッジする力が欠けています。2月からの3か月間、冨田さんがツイッターを通して抱えた心の傷は計り知れません。警察には連絡してあるものの、常に「怖さ」を抱えていたと思います。しかし、当の本人はそれを気に掛ける様子は微塵もなく、むしろ、自分が傷ついたことばかりを表に出しています。他者への傷は軽んじ、自己への傷は重く見る。この自己中心的で、自己愛の強い考え方が、今回の事件に至る動機へとつながったように思います。冨田さんの目や口を執拗に刺した残虐性からも、それが伺えます。

 

最近感じるのは、アイドルとファンとの距離の取り方の難しさです。以前は、アイドルといえば、手が届かない存在。しかし今は、「会いに行けるアイドル」がトレンドとなり、握手会やライブなどで直に感じられる身近な存在になりました。

 

純粋なファンであれば、その距離の縮まりをそのまま楽しむことができます。でも、岩埼容疑者のように極端に自己中心的だと「俺とおまえ」のような1対1の関係を確立しようとするため、ストーカー化していってしまう危険性があると考えられます。実際に今、アイドルとして活躍している方の中にも、ファンと触れ合う嬉しさを感じつつも、怖さを感じている方もいるはずです。

 

アイドルの元々の意味は、「偶像」「崇拝される人」。それが今、手の届く存在になってきたことで、そのバランスが崩れてきているのではと感じています。今回のような事件が起きると、昔のような二次元の存在だった方が、アイドル側もファン側も、自らの立ち位置を守りやすいのではと思ってしまいます。

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オランダ心理学会 認定心理士

佐藤めぐみ

子育て心理学が専門のAll About子育てガイド。オランダ在住。 育児相談室「ポジカフェ」主宰&育児コンサルタントとして、ママ向けのストレス管理、叱り方のノウハウをお伝えするため日々活動中。 著書: 「子...

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