【今週の大人センテンス】スズキの鈴木修会長が見せつけた貫録の謝罪力

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写真:AP/アフロ

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第10回 「攻めの謝罪」でマイナスをプラスに変えた!?

 

「大きな国の規定に反した不正をしでかした。不正をお詫びすると同時に、ご理解いただき、信頼回復に応えることをやっていきたい。」by鈴木修

 

【センテンスの生い立ち】

2016年5月31日、5月半ばに明らかになった燃費データ問題を受けて、スズキの鈴木修会長や鈴木俊宏社長らが会見を開いた。スズキを大きく育て上げた鈴木修会長は、18日の会見では「善意でやったのであれば人情的に考えないといけない」などと社員をかばう発言をしていたが、今回は一転して「法令順守の意識が欠けていた」と自社の行為を厳しく断罪。「不正」という言葉を連発しつつ、深々と頭を下げて謝罪の気持ちを示した。

 

3つの大人ポイント

・自社の「不正」を積極的に認め、言い訳せずに平謝りに徹した

・正式な測定方法より「いいデータ」だったことを意識している

・結果的に擁護の声を集めつつ国の姿勢への問題提言につなげた

 

「謝罪」には、守りの謝罪と攻めの謝罪とがあります。自動車メーカーのスズキは31日、燃費データの測定方法に不正があったということで、鈴木修会長(86歳)らが謝罪会見を開きました。そのときの鈴木修会長の謝罪は、不祥事によるイメージの悪化を最小限に止めたばかりか、むしろ自社の評判を上げてしまう見事な「攻めの謝罪」でした。さすが名経営者と誉れ高い鈴木会長、老練で貫録たっぷりの大人力だったと言えるでしょう。

 

「攻めの謝罪」といっても、言葉を荒げたり自社の正当性を強弁したりするわけではありません。むしろ逆に、自社の落ち度や間違っていた点を積極的に認め、とにかく平謝りしていました。不正が発覚した直後の5月18日の会見では、測定方法の誤りについては謝罪しつつも「燃費性能はほぼ間違いなく、迷惑はかけていない」「善意でやったのであれば人情的に考えないといけない」などと強気なコメントをしていたのとは対照的です。

 

5月18日の会見の模様を報じた記事(産経ニュース)

〈測定方法に問題もスズキ会長「迷惑かけていない」と強気、「善意なら人情的に考えないと」とも〉

5月31日の会見の模様を報じた記事(レスポンス)

〈スズキ燃費データ問題…鈴木修会長、報告書を握りしめて詫びる〉

 

スズキのデータ不正が発覚したときは、その前に起きた三菱自動車の燃費偽装問題と合わせて「スズキよ、お前もか!」という衝撃が走りました。しかし、ネット上ではその直後からスズキ車ユーザーによる「カタログ燃費おかしいと思ってた、むしろ実燃費の方がいい」という報告が多数アップされます。

 

実際、正規の方法で計測したところ、多くの車種で不正データのほうが控え目な数字だったことが判明。また、わざわざ規定重量の3倍にあたる180㎏の荷物を載せて、不正といえば不正だけど実際の使用場面を想定した良心的な計測を行なっていたことも明らかになります。鈴木会長が18日に言ったように、たしかにユーザーは何の迷惑も受けていません。そんな思いがあって、強気な主張につながったのでしょう。

 

しかし「結果や動機がどうあれ、とにかく不正はケシカラン!」と鬼の首を取ったように責めたがる人も、世の中にはたくさんいます。ひとつ間違えるとさらに騒ぎが大きくなって、販売停止といった事態につながりかねません。きっと鈴木会長は18日の会見のあと、あれはマズかったかもと反省したのでしょう。周囲や専門家のアドバイスもあったかと思われます。31日の会見では、自社の非を認めて頭を下げ続けるという方針を貫きました。

 

スズキとしては「自社の誠実さを示すデータ」があるだけに、ひたすら謝ったほうが、世間には「まあ、悪気があったわけじゃないし」と擁護してもらいやすくなります。推測に過ぎませんけど、鈴木会長としてはそのへんは十分に意識していたはず。たとえ計算があったとしても、会長として自社をどう守るかを考えてのことであり、非難されることではありません。頭を下げる会長を見て、社員はきっと頼もしさと誇らしさを感じたでしょう。

 

どうやら会見後の「世間の空気」は、スズキ側の狙い通り(?)擁護の声が広まっているようです。しかも、スズキの「不正」な測定方法のほうが良心的だったことなどから、国土交通省の測定方法は今のままでいいのか、もしかして国が怠慢なんじゃないかという声もちらほら出てきました。今回の件がきっかけとなって、燃費の測定方法が時代や実情に即したものに変わるかもしれません。メンツをつぶされた形の国が、理不尽な仕返しをしないことを祈りたいところです。

 

もちろん法令を守らないのはよくない……と、こういう話のときは言っておくのがお約束になっています。しかし、人間社会の決まりごとは、善悪を判断してくれるものではなく、善悪が先にあってそれを共有しやすくするための道具に過ぎないはず。決まりをタテに自動的に相手を糾弾することに血道を上げたり、「べつに法律に違反してないから」と言い張ってセコイ真似を平気でしたりするのは、けっして「正しい行ない」とは思えません。

 

話がちょっとそれましたが、今回の件はそんなことも考えさせてくれました。日々の生活の中でも、相手の落ち度を探して責めることより、相手の気持ちや事情を慮ることのほうにエネルギーを使いたいもの。いや、すいません。さらに話がそれて、余計なことを言ってしまいました。そんなのは個人のスズキ……じゃなくてスキズキですね。よかった。かろうじて話がスズキに戻りました。

 

【今週の大人の教訓】

言い分があるときほど、まずは誠実に謝ったほうが聞いてもらえる

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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