【今週の大人センテンス】泣き出した赤ちゃんを舞台に上げた中川家への称賛

人間関係

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第45回 ツイッターで広がったふたりの「神対応」

 

「出て行かなくていい。そんな良い席なのに。赤ちゃんは泣くのが仕事」by中川礼二(中川家)

 

【センテンスの生い立ち】

人気お笑いコンビの中川家。控え目な雰囲気の兄・剛と、押しが強い雰囲気の弟・礼二の掛け合いは、もはや円熟の域に達している。1月31日に埼玉県で行なわれたライブイベント「よしもとお笑いまつりin所沢~2017新春~」で、彼らの出演中に前方の客席で赤ちゃんが泣き出した。父親が赤ちゃんを抱いて退席しようとしたところ、弟の礼二がこう言って制止。さらにステージに呼んで、兄の剛が赤ちゃんに動物の鳴きまねを見せて泣き止ませた。

 

【3つの大人ポイント】

・「困ったハプニング」を余裕で受け止めて笑いに変えた

・当事者だけでなく会場のほかの観客も幸せにしている

・子連れの親に冷たい世の中への問題提起になっている

 

残念なことに「日本は赤ちゃんや子育て中の母親に冷たい」という評価が、すっかり定着しています。他国との比較はよくわかりませんが、たとえばベビーカーの話題がしばしばネット上で盛り上がり、そのたびに母親(父親も)を非難する意見や口汚い罵倒を得意気に書き込む人が少なくありません。当事者としては、一部の人とはいえ、そんな攻撃的な気持ちを抱いている人の存在が目に見えるのは、さぞ怖くて悲しいことでしょう。

 

もちろんほとんどの人は、赤ちゃんや子育て中の親にやさしい目を向けたい、応援したいと思っているし、「もっと子育てにやさしい社会になってほしい」と願っているのは間違いありません。こうしたニュースが大きな話題を呼び、中川家に「素晴らしい神対応!」という称賛が集まることが、その何よりの証拠です。

 

発端は、1月31日に中川家が出演した「よしもとお笑いまつりin所沢~2017新春~」を見に行った「いなまりん☆」さんのツイッターへの投稿でした。

 

昨日の中川家ほんと神だったな。前方の席で、赤ちゃんが泣きやまくて退席しようとしたお父さんに礼二さんが「出て行かなくていい。そんな良い席なのに。赤ちゃんは泣くのが仕事。」と声をかけ、さらにステージに呼んで赤ちゃん抱っこして、お兄ちゃんが犬やネコの鳴き真似して赤ちゃん泣き止んだりして

 

このツイートは、2月12日夕方の時点で45000を超えるリツイートと、65000を超える「いいね」を集めています。続けて、会場の雰囲気や状況をより詳しく伝えるツイートも。

 

ネタ中に響き渡る泣き声に、まわりも当人も気まずい空気だったと思うけど、それをひろって笑いに変えて、誰も嫌な思いをせず、お父さんと赤ちゃんにとっては、最高の思い出となったことだろし、さすがだなと思ったよ。赤ちゃんのお兄ちゃんが、階段でつまづいたこともしっかりひろっていじってたしね

 

「いなまりん☆」さんも子育て経験がある女性のようです。子どもが泣き出して困ったことがあったのかもしれません。子育て経験の有無に関わらず、誰しも乗り物やお店の中で激しく泣いている子どもと困っている親の姿は見たことがあるし、当事者の居たたまれなさが伝わってきてつらい気持ちになった経験もあるはず。それだけに、中川家の見事な対応を称賛したくなるし、なんだか救われたような気持ちにもなります。

 

「困った状況」を余裕で受け止めて、しかも笑いにかえた中川家のふたりは、さすがベテランの風格というか、並外れた対応力と大人力を見せてくれました。当事者はもちろん、会場にいた観客みんなも幸せな気持ちにしているところも素敵です。チラッとでも戸惑いを顔に出してしまったら、泣いている赤ちゃんが外に連れていかれたあとでネタを始めたとしても、観客は心から芸を楽しむことはできないでしょう。

 

また、最近やはりツイッターで話題になったのが、漫画家の吉川景都さんの「公共の場所で騒いでいる幼子」についての漫画付きのツイート。やさしく叱っているお母さんを見て、かつては「ちゃんと叱ればいいのに」と思っていたものの、自分の子どもが2歳になった今は「きつく言うと余計泣いて手がつけられなくなるので しずかに叱り 落ちつくのを待ってから抱っこして退避…がいちばんマシ」ということを知ったという内容です。

 

このツイートも大きな話題を呼び、いくつかのネットニュースでも紹介されました。たとえば下の記事では、元の漫画はもちろん、反響を受けての吉川さんの感想や親の気持ちについてのコメントも読むことができます。

公共の場で泣く子どもを見て「叱ればいいのに」と思っていた。けれど自分が親になると…(Buzz Feed)

 

「赤ちゃんは泣くのが仕事」「自分だって子どもの頃は似たようなことをしていて、周囲に助けられながら大きくなった」ということは、みんな頭ではわかっています。しかし、気持ちや体力に余裕がないと、赤ちゃんが泣いたりぐずったりする声を「うるさい」と感じたり、不愉快な気持ちになったりすることもないとは言えません。「いや、微笑ましいとは思っても、うるさいなんて絶対に思わない!」と言い張りたい人もいるでしょう。ただ、本当に大切なのも無理をしたほうがいいのも、そこから先です。

 

絶対にやってはいけないし大人として最低なのは、感情のまま舌打ちをしたり冷たい目を向けたりして、すでに十分つらい思いをしている親をさらに追いつめること。万が一、感情の部分で「うるさいな」と感じてしまったとしても、そんな気持ちを瞬時に理性でけ散らし、親御さんたちの居たたまれなさに思いを馳せつつ「少しでもつらさをやわらげてあげる方法はないものか」と考えるのが、大人として当たり前のやさしさであり社会に生きる一員としての務めです。そしてできれば、そういう気持ちを行動に移しましょう。

 

子どもの泣き声やベビーカーの問題になると、必ず「子どもよりも親の態度に腹が立つ」と言い出す人がいます。上の吉川さんの漫画は、なぜきつく叱らないのかという批判が的外れであることを教えてくれました。仮に親が気に食わない態度をとったとしても、親は親で必然性やその人なりの限界があってそうしていると言えます。「もっと申し訳なさそうにしてほしい」という意見も少なくありません。私も「まあ、処世術として、そのほうがいいんじゃないかな」と考えたこともありますが、今ではそんな自分を激しく恥じています。

 

子どもが泣いて困っている親に対して、もっと周囲の目を気にしろ、ウソでもいいから申し訳なさそうにしろと(たとえ心の中でも)要求するのは、極めて傲慢で図々しい発想に他なりません。相手が引け目を感じている弱みに付け込んで、困っている親を悪者扱いする卑怯で情けない了見です。あれこれ「親の非」を探したがるのは、内心は子どもの泣き声に不快感を覚えている自分を正当化したいからではないでしょうか。己の心の狭さをごまかそうとして「親の態度」にケチをつけても、余計にセコイ自分になるだけです。

 

そして、こういうことを言うと、どこかから「図書館で走り回る子どもを注意しない親はどうなんだ!」などと、ムキになって「腹を立てる自分」を肯定しようとする揚げ足取りが聞こえてくるのが常。今ご提案させてもらっているのは、個別のケースがどうこうではなく、子どもが泣いて困っている親にどういう視線を向けるかという心構えについてです。極端なケースを引き合いに出してきて、「だから非難してもいいんだ」と言い張る人って、何が楽しいんでしょうか。そういう話をして何の実りがあるんでしょうか。

 

中川家の対応も吉川景都さんの漫画も、赤ちゃんや子連れの親に冷たい世の中に問題提起をしてくれました。自分の胸に手を当てて、赤ちゃんや親子連れを応援するためにもっとできることはないか、ひょっとしたら腹を立てる口実を探そうとしていなかったか、あらためて考えてみたいもの。ひとりひとりの気持ちと接し方が少しずつやさしくなることが、子育てにやさしい社会に変えていく第一歩であり、もっとも効果的な道です。大人の意地とプライドを賭けて、それぞれに年相応のコミュニケーション力を発揮してがんばりましょう。

 

 

【今週の大人の教訓】

理性を働かせた上での言動と感情こそが、大人にとっての「本音」である

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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