清水富美加さん引退から考える、現代における「出家」の意味

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若手の人気女優、清水富美加さんが、宗教団体「幸福の科学」に出家したというニュースが話題になっているようです。わたしはこの宗教について何も知らないので、そこで「出家」というものがどのように定義されているのかはわかりませんが、少なくとも、この女優さんが、今後、幸福の科学の信者として活動するという意思を世間に対して表明したということだけは確かなようです。

 

では、一般的に言って、「出家」とはどのような意味なのかというと、これがまたけっこう難しいのです。わたしは寺や神社の旅をテーマにして文章を書いておりますが、特定の宗教を信仰しているわけではないので、それぞれの宗教や宗派の信者さんや僧侶の方々が「出家」という言葉をどう捉えておられるかはわかりません。門外漢であるわたしにわかるのは、まず、神道には「出家」という概念はないということと、「出家」は仏教においてよく用いられる言葉だということのみです。

 

 

■いちばん有名な出家者はお釈迦様

 

辞書では、「出家とは、家庭などとの関係を断ち切り、世俗を離れ、修行に没頭すること、また、その人」と定義されています。こうした「出家」を行った人々の中で、もっとも有名なのはお釈迦様でしょう。若いころのお釈迦様はシッダールタという名前で、釈迦族の王子様として,城の中で何不自由ない生活を送っていましたが、ある時、城の東門から外へ出て、おいさらばえた老人を見ました。次に南門から外へ出て病人を、西門から外へ出て死人を見て衝撃を受けました。老いること、病気になること、死ぬことは、どれだけ金持ちでも、命あるものなら避けられない「苦」であることに気づかれたののです。そして最後に北門から外へ出て、出家者に出会って感銘を受けました。これは「四門出遊」といって、お釈迦様が出家に至るまでの心の動きを描いた有名な説話です。

 

お釈迦様が北門の外で出会った出家者は、「自分もあなたのように、老・病・死の問題で苦悩し、それを乗り越えるために出家して修行をしています」と言いました。それを聞いてお釈迦様は、29歳の時に、王子の地位や妻子を捨てて出家します。その後、ひじょうに厳しい苦行をして命まで落としかけますが、苦行では悟りを得られないことに気づき、35歳の時に、ついに悟りを開きます。そして自らの教えを各地で説いて回り、感銘を受けたたくさんの人々も出家し、弟子となって同行しました。

 

仏教での「出家」はこれに由来します。出家希望者は、剃髪し、戒を授けられてそれを守ることを誓約し、戒名(僧名)を与えてもらう「得度」という儀式を受けます。これは僧侶になるための入門の儀式であり、その後、数々の修行をして一人前の僧侶となります。

 

 

■酒と肉をたしなむお坊さんはダメなのか?

 

しかし、ここがまた難しいところです。お釈迦様のエピソードからもわかるように、本来、出家者は、家族や世間との関係を断ち切るものですが、現代の日本のお坊さんのほとんどは、家族との関係を断ち切ってはいません。また、前に書いたように、得度のときには「戒を授けられて、それを守ることを誓約」しますが、この「戒」とは、仏教の教団に入るときに遵守すべき戒めのことで、指導者となる僧から授けてもらいます。その内容はたいへん広範囲に渡るそうですが、「飲酒戒」すなわち「お酒を飲まないこと」や、肉食をしないというのがよく知られています。でも、わたしの知り合いのお坊さんたちは、けっこうお酒をたしなまれ、お肉を召し上がる方が多いです。

 

日本仏教における「出家」の概念は、社会情勢につれて大きく変化し、現在は、本来の意味での出家をしている僧侶は極めて少ないと思われます。しかし、だからと言って、現代のお坊さんがダメだというわけではないでしょう。俗世を離れたところで修行に専念するよりも、俗世にあって家族も持ちながら自らを律する方が、より強い精神力を必要とするかも知れません。お釈迦様の教えは確かに偉大だけれど、現代社会には、お釈迦様の時代とはまた違った問題もたくさんありますから、僧侶の方々には、より積極的に社会とかかわっていただくことを期待します。

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吉田さらさ

吉田さらさ

岐阜県生まれ、早稲田大学第一文学部美術史学科卒。長年の出版社勤務後、寺と神社の旅研究家として独立。独自の視点で神社仏閣詣でをより楽しむ方法を考察し、雑誌記事、単行本などを数々執筆。各種講座、講演会、ツ...

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