JASRACの「音楽教室から楽曲の利用料徴収」に音楽教室は従うしかないのか

ビジネス

弁護士 東祐太

 

先日、日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から著作物の利用料を徴収する方針を明らかにしたことを受け、音楽教室を運営する7つの企業と団体は「音楽教育を守る会」を結成し、これに反発。この問題について、SNSで歌手の宇多田ヒカルさんもコメントし、話題を呼んでいます。音楽教室(有料の場合を想定)は、JASRACの方針に従わざるをえないのでしょうか? ベリーベスト法律事務所の弁護士が法的な面から説明します。

 

 

■「文化の発展に寄与する」著作権法の目的に合致しないのでは?

 

音楽教育を守る会は次の2つ見解を表明し、JASRACの方針に反発しています。

 

1. 演奏権が及ぶのは公衆に聞かせるための演奏であり、音楽教室での練習や指導のための演奏は該当しない

2. 文化の発展に寄与するという著作権法の目的にも合致しない

 

この音楽教育を守る会の主張は、正当なのでしょうか?

 

著作権法には「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する」と定められています。これを演奏権(著作権法22条)といいます。

 

著作権者に無断で著作権が成立している楽曲を演奏すると、原則として、この演奏権の侵害になってしまいます。そこで、著作権者に楽曲の利用許諾を得て演奏することを許してもらうかわりにその楽曲の利用料を支払います。JASRACは著作権等管理事業法に基づいて楽曲の利用許諾の管理をしている団体であり、今回は音楽教室に対して、演奏をしたければ楽曲の利用料を支払いなさい(利用許諾を得なさい)と主張しているわけです。

 

 

■音楽教室の生徒が「公衆」に当たる可能性は“ある”

 

普通、音楽教室のレッスンといわれたとき、受講生は1人や少人数でおこなわれることをイメージすると思われます。すると、音楽教室の生徒が「公衆」とまでいえるのか疑問が出てきます。著作権法は「公衆」について、「この法律にいう公衆には、特定かつ多数の者を含むものとする」と定義しています(著作権法2条5項)。この規定は、特定の者であっても多数人である場合にはこれを公衆とみなすことを定めており、「公衆」とは不特定者全般と特定多数者を指すものと考えられています。

 

参考となる裁判例として、ダンス教室における受講生に対するCDの再生による演奏が「公衆」に対する演奏に該当すると判断された事例があります。

 

ダンス教室の人数及び本件各施設の規模という人的、物的条件が許容する限り、何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ、このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は、組織的、継続的に行われるものであることから、社会通念上、不特定かつ多数の者に対する者、すなわち公衆に対するものと評価するのが相当である

 

上記裁判例を前提とすれば、音楽教室が音楽教室の人数及び音楽教室の各施設の規模という人的、物的条件が許容する限り、何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ、このような受講生に対する指導に必要な楽曲の演奏が、組織的、継続的におこなわれるものだと言える場合には、音楽教室からみて生徒は「公衆」に該当するのではないかと思われます。

 

 

■音楽教室の主張は一理あるが通すのは簡単ではない

 

著作権法は、著作物に関する著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的としています(著作権法1条参照)。著作権者の得られる利益が過剰になり、著作物の公正な利用が著しく害されているのであれば、著作権法の目的が阻害されていることになります。音楽教育を守る会の主張もこの点にかかわるものと整理することができます。

 

音楽教室としてはこの点を捉え、教室内の演奏にまで楽曲の利用料を徴収することによるJASRACからの請求が権利の濫用(民法1条3項)にあたるため、楽曲の利用料の徴収は許されない、と主張していく方法も考えられます。もっとも、権利の濫用に当たるか否かは様々な事情を総合的に考慮して判断されます。音楽教室としては先述の要件を、詳細に主張・立証していかなければなりません。一般的には、権利の濫用が認められるハードルは高いのが現状です。

 

 

■学校の授業では原則として無料で演奏できる

 

歌手の宇多田ヒカルさんが今回の報道を受けて「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな」とTwitterに投稿して話題になりました。

 

著作権法は、著作権者の利益を不当に害さない限りで、「学校その他の教育機関」での授業の過程での楽曲の演奏を認めています。学校の授業での楽曲の演奏については、通常は楽曲の利用料は支払う必要はありません。ただ、音楽教室などは著作権法上の「学校その他の教育機関」に含まれていないために、今回の問題が生じているのです。

 

監修:リーガルモール by 弁護士法人ベリーベスト法律事務所

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東祐太

東祐太

弁護士。法科大学院卒業後、弁護士法人ベリーベスト法律事務所に入所。タイムリーで濃やかな対応を職務信条とし、常にベストなリーガルサービスの提供ができるよう、日常から情報収集を怠らない。趣味はスノーボード...

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