「チリ産サーモンが危ない」の拡散問題。なぜ我々はガセネタを簡単に信じてしまうのか?

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(c)Kazu/a.collectionRF/amanaimages

 

少し前「サーモン」を巡って、ネット上がちょっとした盛り上がりを見せました。

 

 

■フェーズ1 「チリ産サーモンが危ない」の拡散

 

まず一巡目は、5月27日付のハフィントン・ポスト日本版。「日本のスーパーで売られているチリ産の鮭を地元の人が食べない理由」という記事がUPされました。記事中には、「チリ産の鮭を地元の人は食べない」いくつかの理由が書かれていて、曰く「他の畜産や魚の残渣をエサにしている」「寄生虫を殺す殺虫剤が使われている」「抗生物質で薬漬け」「養殖環境が密集しすぎている」などなど……。書き手の「友人」だという「海洋生物学者で、チリ政府の漁業検査官として働いている男性」から聞いたという話を中心に構成されています。

 

この記事に対して、TwitterやFacebookのタイムラインは大騒ぎ。「もう食べられない」「信用できん」「大資本が絡むとロクなことがない」などのコメントとともに、TwitterやFacebookなどでえらい勢いでシェアされまくったのです(この原稿執筆時点で、Facebookのシェア3138、はてなブックマーク417)。

 

 

■フェーズ2 反論記事のさらなる拡散

 

そして二巡目。翌々日の5月29日に、とある"水産商社マン"のブログで「チリでサーモンは大人気の高級魚!サーモン記事のここがデマだ!」というエントリーがアップされます。ハフィントン・ポストの記事に対して「まずこれ(タイトル)が一番意味不明!」「チリではサーモンは超大人気」と市場にサーモンがずらりと並んでいる画像つきで切り込みます。「地元の人が食べない理由を敢えて挙げるとすれば、サーモンってチリの方には高い」「といっても、養殖場・加工場の友人方もサーモン大好きだったから皆食べている」と追い討ちをかけました。

 

内容についてもひとつひとつ反論していて、「サーモンの餌は基本的に残渣ミールや魚粉、大豆粕等の配合飼料で魚ベースの飼料なんてまずありえません」「『鮭を1キロ増やすのに4キロの魚が必要』はまったくの嘘」、「国策・国家の柱になるような事業で、殺虫剤を垂れ流すようなことはまず行いません」、「抗生物質は(中略)言わば幼稚園の頃に受けたハンコ注射を大人になって薬漬けだっていってるみたいなもん」「密集度は確かにノルウェーよりも高いが、『過密』の線はどこで引くのか」など"水産商社マン"らしく、論拠やソースをつけてチリ産サーモンを全力で擁護しました。

 

こちらにも「元の記事ひどいですね」、「養殖を不当に貶めてデマを流して商売するってクソ」というコメントがつく。なかには「もう一体なにを信じたらいいのやら」というコメントもありましたが、元記事以上に拡散していました(Facebookのシェア5766、はてなブックマーク510)。他にもトンデモ検証系Blogに「菊池木乃実 とかいう作家がバラ撒く「チリ産サーモンは危険」デマの酷い内容」という記事がUPされ、"煽り"に対して全力で殴りに行くという昨今のトレンドが見事に反映されたエントリーでありました。

 

 

■フェーズ3 まとめ記事への展開

 

そして3巡目はメタ視点の野次馬が参入します。どなたですか。「お前もだ!」と声を上げてらっしゃるのは! 仰るとおり、僕も通りすがりの野次馬ですが、調査系サイトの『しらべぇ』に「チリ産サーモンは本当に危険? 環境保護家の過激発言を検証」という記事が公開されるなどフェーズ1と2を併記する、検証展開がなされました。ただし、専門領域の話についてはほとんど検証されていません。

 

例えばフェーズ2で行われた反論の「『鮭を1キロ増やすのに4キロの魚が必要』はまったくの嘘」を「まったくの嘘」とするのは少し言い過ぎです。反論のなかで「サーモンの増肉系数は1.2~1.5とされていて、これはサーモンが1kg大きくなるのに必要な餌の量が1.5kgという意味」と書かれていますが、元記事では「餌」ではなく「4キロの『魚』」と書かれています。

 

「餌」と「魚」を読み違えたのかもしれませんが、「配合飼料1kgを生産する際に、原魚に含まれる水分のほとんどが蒸発するため、原魚の重量はその数倍ある」(「チリ南部におけるサケ・マス養殖に関する調査報告」佐久間智子(アジア太平洋資料センター・水産資源研究会))とされています。「4キロの魚が必要」がまったくの嘘と言い切るのは少ししんどいように見受けられますが、ネット上を見渡したところ、この部分に言及したエントリーを僕は確認できていません。専門領域の話は、実名の専門家が割って入らないかぎり、かようにも検証しにくいものなのです。

 

ましてや「安全」「危険」の間に線を引くのはかんたんではありません。反論ブログのエントリーにもあったように、「そもそも全ての食品がゼロリスクじゃない!」のは自明であり、せめてわれわれにできるのは言い切り型で煽る記事に対して、懐疑的な目を向け、できる範囲で調べることくらいなのです。

 

 

■なぜわれわれはガセネタを信じ、拡散させてしまうのか。

 

ソーシャルメディアでは、不確かな情報がすごいスピードで拡散されます。共通するのは、「大勢の人に当事者性が高く」、「不安を喚起させるような」、「論拠が読み解きにくい」情報で、ソーシャルメディアが普及する以前から飛び交っていました。とりわけ食べ物は誰にとっても身近なことから、しばしばこうした"風評"が話題になります。

 

1996年に0-157食中毒が発生したときには「かいわれ大根」がやり玉に上げられましたし、2001年のBSE問題では焼肉店がバタバタとツブれました。その他、雪印集団食中毒事件や原発問題など「食の安全」に関わる「わからない」事案について、こうした不確かな情報は拡散しやすい傾向があります。

 

人は信じたいものを信じたいように信じる生き物です。「不確かなのだから、安全だとは言い切れない」という不安は誰の胸のうちにもあるはずです。しかしだからといって、その不安を助長するような情報を気軽に拡散していいということにはなりません。

 

ソーシャルメディアは「発信元は自分ではない。だから、間違っていても許される」という"拡散免罪符"を与えてくれるような気分になりやすいツールです。しかし、誤情報を発信して仮に許されたとしても「不確かな情報を発信する人だ」というレッテルがついて回るリスクはあります。とりわけFacebookのような「実名×リアルな人間関係」をベースにしたSNSなどの場合、そのまま自分への評価に跳ね返ってくるリスクはあるはずです。

 

それでもネットを眺めていると、SNS初期に比べれば少しずつ、言い切り型で誤情報を拡散する投稿の比率は減っている印象です。実際、今回の「チリ産鮭」騒動も、元記事よりもそれを打ち消す反論Blogのほうが広く拡散しています。

 

事実を掘り下げるのには手間や時間がかかります。自らが与したスタンスを引き受け続けるのには覚悟が必要です。そして万一、発信した情報が間違っていた時に頭を下げる勇気や誠実さもきっと必要でしょう。情報の発信側にいる身として、こうした姿勢をいつも貫くことができているかと問われると耳の痛い話ではありますが、やはり姿勢としてはこうでありたい。そんなふうに、自戒を込めて申し上げる次第。もちろん「『自戒を込めて』も免罪符として使われる言葉じゃないか」というツッコミも、仰る通りだとこうべを垂れて、本稿を締めさせていただこうと思います。

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フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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