「プレミアムフライデー」より先にやるべきことがある

ビジネス

 

2017年2月25日、政府主導による「プレミアムフライデー」プロモーションが始まった。経済産業省によると、目的は以下の通りだ。

 

個人が幸せや楽しさを感じられる体験(買物や家族との外食、観光等)や、そのための時間の創出を促すことで、

 

  1. 充実感・満足感を実感できる生活スタイルの変革への機会になる
  2. 地域等のコミュニティ機能強化や一体感の醸成につながる
  3. (単なる安売りではなく)デフレ的傾向を変えていくきっかけとなる

 

というものだ。シンプルかつ具体的に言えば、毎月最終金曜日に企業が退社時間を早めることで、人々が、食事、ショッピング、旅行などに時間とお金を使えるようにしようとするものだ。

 

まず率直に感じるのは、なぜ月末の金曜日なのか?ということである。普通に考えれば、月末の金曜日という忙しさ極まる時に、このプロモーションを仕掛けるということ自体、ビジネスをしている人たちからすればあり得ない判断だ。その他にも、いろいろと疑問符がつくものが多い。

 

 

■プレミアムフライデー初日の実際

 

プレミアムフライデーを進めるにあたり、経済産業省は、まず人気タレントである関ジャニ∞を起用し、交通を始めとする広告展開を行った。またPRでは、TVを中心とする多くのメディアに働きかけ、プレミアムフライデーに関するニュースの露出を増やした。また、企業には賛同企業を募り、プレミアムフライデーでの導入を促した。 しかし、プレミアムフライデーを実際に利用した企業の割合は、高く見積もっても数パーセント。これだけの展開を行った割に、成果としては物足りなさが残る。

 

 

■プレミアムフライデーが活用できないビジネスマンの事情

 

成果が出ない理由は明らかだ。 プレミアムフライデーが導入され、早く帰れるようになったら、その分、仕事の量が減れば良い。大きな方針として、政府も企業も残業時間をなるべく減らす方向で動いている。しかし、実際には、プレミアムフライデーで休んだ分、どこか別の時間に、その分の仕事をしなければならない。では、仕事の生産性を上げてカバーする努力をすれば良いではないかという声もあるだろう。しかし、実際は、それが良いと頭でわかっていても、それほど簡単にできることではない。

 

つまり、プレミアムフライデーは、“早く帰れる”という一瞬の喜びはあるものの、どこかにそのしわ寄せは出てこざるをえない仕組みなのだ。

 

 

■プレミアムフライデーを導入できない中小企業の事情

 

中小企業の場合、プレミアムフライデーを導入したほうが良いとはわかっていても、導入できない現状がある。半日くらい休んでもビジネスに影響がなく、余裕のある大企業とは違い、ギリギリの人員、ギリギリの経営状況の中でやっている企業にプレミアムフライデーを導入する余裕はない。

 

それどころか、下請け業務の多い中小企業の場合、プレミアムフライデーに限らず、発注元である企業が労働時間を短縮すれば、そのしわ寄せが来る。つまり「うちは帰らないといけないので、後はやっておいてください。納期は変更なしです」という状況が生まれやすいのだ。大企業が労働時間を短縮したら、下請けにも納期を延ばしてくれれば良いのだが、実際にはそうならないので、かえって苦しくなるケースも少なくない。

 

つまり、プレミアムフライデーが定着するには、大企業でだけでなく、中小企業が参加する土壌を作ることが重要なのだ。そのために、プレミアムフライデーに参加することで、下請側である中小企業が不利益を被らないように、発注側である大企業への監督・指導を政府が強化することが必要になってくる。それがなければ、いくら政府が旗を振っても、日本の大部分を占める中小企業は参加できず、プレミアムフライデーは定着しないだろう。

 

 

■プレミアムフライデーは消費増大に貢献するのか

 

プレミアムフライデーの目的の一つである「消費増大」。最初こそ、早く帰れる嬉しさで居酒屋に行き、昼から飲むことに喜びを感じる人もいるだろう。しかし、それは一時的な喜びと行動である。根本的には、プレミアムフライデーによって余暇時間が増えても、賃金が上がらなければ、消費の増大は見込めない。

 

特に若い世代に関しては、将来不安のために、貯蓄を意識する人たちが多くなっている。単に「早い時間から飲める」「金曜日から2泊3日の海外旅行に行ける」というだけでは、消費の増大も見込みにくい。プレミアムフライデーを利用して売上拡大を狙いたい企業にとっては、プレミアムフライデーは良いプロモーション材料だが、消費者がついてこなければ絵に描いた餅である。景気が良くなり、賃金が上がらなければ、プレミアムフライデーをやっても、消費は増大しない。

 

 

■プレミアムフライデー以上に重要なこと

 

プレミアムフライデーは”働き方変革”や”消費増大”を標榜しているが、実際には消費拡大を狙う政府と「提供側」のためのプロモーションでしかない。重要なことは「受け手側」であり、そのために何をすれば良いのか考え、内容を作っていくことだ。”働き方変革”という意味では、一瞬のにぎやかし的なプロモーションではなく、働き方の多様化を進めることである。年齢に関係なく、既婚・未婚に関係なく、働く場所に関係なく、働く時間に関係なく働ける環境を整えていくこがますます必要だ。今の日本は、年齢が上がれば上がるほど転職しづらかったり、保育所不足のため女性が出産しづらく仕事をしづらかったり、そもそも少子化のために日本人の労働人口が少なくなっていく状況など問題が山積である。「働き方の多様化」が浸透し、このアンバランスさが解消されていくことが重要である。その結果、安心して働ける環境が整えられ、社会全体が上向きになり、消費増大にも向かっていくことに繋がるだろう。

 

最後に、プレミアムフライデーはまだ始まったばかりである。定着させるには難しい状況ではあるものの、もしプレミアムフライデーを継続させるならば、どのような方法をとれば、日本社会が良くなるのかを考えてみた。

 

  1. プレミアムフライデーを導入した中小企業への助成金もしくは軽減税率導入(中小企業が導入していかなければ、プレミアムフライデーは定着しない)
  2. プレミアムフライデーを月末の金曜日から、月初の金曜日へ変更(ビジネスマンに参加しやすい日にすることで効果が変わる)
  3. 実施内容の多様化(「提供側の論理」ではなく「受ける側の論理」を考えないと、絵に描いた餅で終わる。お金を使わないと楽しめるものだけでなく、お金を使わなくても楽しかったり、身近で楽しめるものを増やす。例えば、ロンドンのように美術館や博物館を無料開放するといったこともある。その他、時間限定でバスなどの公共交通機関を無料にしたり、映画料金を半額にするなどもあろう。受ける側がプレミアムフライデーを楽しみたいと思える内容を増やして行かなければならない。売る側が売るためだけのプロモーションになってしまえば、すぐに見放されていくことだろう)

 

この3つのポイントがクリアされれば、プレミアムフライデーが定着する可能性は高まるだろう。

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新井 庸志

新井 庸志

マーケティングコンサルタント。「ワールドビジネスサテライト」「スーパーJチャンネル」などのニュース、情報番組や「日本経済新聞」「日経ビジネス」「財界」「宣伝会議」など、新聞、雑誌での執筆多数。経営から...

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