「相対的貧困」から抜け出るために必要な「マネーリテラシー」

マネー

後藤百合子

 

先月17日にNHKスペシャルで「見えない‘貧困’〜未来を奪われる子どもたち」という番組が放送され、大きな反響を呼んだようです。

 

ブログやSNSなどでこの番組について書かれているものを読むと、「子どもの6人に1人が貧困」とされ深刻な状況をリポートした内容ですが、一方でこの番組を視聴した方の中には報道された「貧困」の内容にとまどいを感じた方が少なくないようです。

 

 

 

■スマホやテレビがあるのに貧困なの?

 

この番組の内容をまとめられている「オオカミのとおぼえブログ」さんによると、番組の中で「剥奪指標」という、一般の家庭にはあるけれど貧困状態の子供にはないもの、「奪われているもの」が紹介されたそうです。それによると、貧困家庭にないものは下記のような項目です。

 

医療機関を受診できない
新しい服や靴を買えない
本がない(教科書やマンガは除く)
運動用具がない
学校から帰っても親がいない
家族旅行ができなかった
誕生日を祝えない
学校行事に参加できない

 

筆頭の「医療機関が受診できない」は、現在多くの地方自治体で子供の医療費への助成が行われており、これに関しては貧困の問題というより行政の問題でしょう。

 

また、「学校から帰っても親がいない」は貧困でない共働き家庭も同じですし、「誕生日を祝えない」はお金の問題というよりは愛情の問題ですから、原因を貧困に帰するには「?」がついてしまいます。

 

さらにひっかかったのは「一方、スマートフォンやゲーム機器、TVといったコミュニケーションツールを持つ割合は一般的な生活水準家庭とかわりはありませんでした。特にスマートフォンに関しては、子どもの安全確認のためにと貧困家庭の方が持っている割合は高いことがわかりました。」(「オオカミのとおぼえブログ」より)という箇所で、昨今のスマホの使われ方を見ると、安全より逆に危険のほうが多いのではないかと案じてしまいます。

 

これを見てもやはり、昨年、やはりさまざまな議論を呼んだNHKの番組中で「貧困女子高生」がパソコンを買えないと嘆くいっぽう、高価なコンサートのチケット購入という非常にバランスの悪いお金の使い方をしていたのと同様の違和感を覚えます。

 

 

 

■「絶対的貧困」と「相対的貧困」

 

上記のような家庭の貧困は「相対的貧困」と呼ばれます。全世帯の可処分所得を1人当たりに換算し、所得を低い順から並べた際、中央値の半分に満たない人が区分けされます。中央値の半分以下ですから、決してこの貧困がなくなることはありませんが、問題はこのような貧困に陥る世帯数が他のOECD諸国平均に比べて多いということです。

 

いっぽう、「絶対的貧困」のほうはもっと話が簡単です。定義は1日あたりの可処分所得がUS1.9ドル以下ということですので、現在の日本においてはまず当てはまる世帯はないでしょう。

 

相対的貧困に話を戻します。この資料によると、OECD36ヵ国中、相対的貧困にあたる人々の平均が11.3%しかないのに比して、日本は16.0%もあります。アメリカは17.4%と日本より少し高いですが、欧州諸国のイタリア13.0%、イギリス9.9%、ドイツ8.8%などに比べて日本の相対的貧困率かなり高いと言えるでしょう。(最も相対的貧困率が高いのはイスラエルの20.9%ですが、原始共産制のようなキブツで暮らしている人々も一定数いますので単純な比較はできません。また、この比率は計算方法によってもだいぶ変わりますので、一概に一つの数字のみで議論するのも危険だと思います)

 

厚生労働者の国民生活基礎調査(2012年)では、所得150万円を下回る世帯数が全体の12.8%となります。内訳を見てみると、最も多いのは高齢者の単身世帯(65歳以上単身5.1%)及び2人以上世帯(65歳以上2人以上2%)で、次に65歳未満の2人以上世帯が続きます(2.6%)。相対的貧困の基準となる可処分所得は122万円ですので、所得150万円というのは相対的貧困とほぼ重なってくると言っていいでしょう。

 

しかし、これはあくまでも世帯の収入ですので、就労できない子供がいればその分、1人あたりの可処分所得が減り、相対的貧困に分類される可能性が高まります。そのため、日本ではひとり親世帯の過半数にあたる50.8%が相対的貧困世帯に分類されます。

 

子供のいる大人2人以上世帯の相対的貧困率が12.7%しかないことを考えると、ひとり親世帯が日本の相対的貧困率を相当な割合で上昇させているといっても過言ではないと思います。

 

 

 

■手当があっても相対的貧困に陥るひとり親世帯

 

では、相対的貧困に陥っているひとり親世帯とは、どのような世帯でしょうか?

 

厚生労働省の全国母子世帯等調査(2011年度)によると、一人親世帯のうち、母子家庭のケースでは、母親の平均年収は181万円で、児童手当などを含めた平均世帯収入は223万円。一方、父子世帯は、父親の平均年収が360万円、児童手当などを含めた平均世帯収入は380万円だった。シングルマザーのうち、半数以上がパートやアルバイトで生計を立て、その平均就労収入が125万円にとどまる状況からすると、母子家庭の厳しい状況が浮かび上がる。zooonlineより

 

相対的貧困に陥っているひとり親世帯の大半が母子家庭であることがわかりますが、同時に、平均年収に比べ平均世帯収入が50万円以上も多いのを見ると、数々の行政的補助が実際に支給されているのもわかります。

 

しかし、それでもこの収入では単純に半分にしたら相対的貧困に区分けされます。実際、前述の女子高校生のように進学したいのに進学費用が捻出できない、など教育上の悩みを抱える母子家庭は多いでしょうし、NHK番組中では「この貧困を放置すると進学率の減少→非正規雇用の増加→収入の減少に繋がり、その社会的な損失は42.9兆円にもなる」(オオカミのとおぼえブログ)とも語られていたようです。

 

 

 

■相対的貧困母子家庭のお金の使い方に疑問

 

私も個人的に、このような「相対的貧困」に分類される母子家庭をいくつか知っています。

 

幸いなことに、母親が頑張って真面目に働きつつ子育てもしっかりしている家庭がほとんどで、子どもたちもお母さんを助けて家事など分担するなど、両親が揃っている家庭よりも「いい子ども」たちであることが往々にして多いような気がします。

 

しかし、全般的に気になるのが、お金の使い方のアンバランスさです。

 

例えば、数年前のある日、ある母子家庭のお母さんが夜半に我が家にやってきました。彼女は夫の暴力に耐えかねて家を出て、実家に身を寄せていましたが実の母親とささいな事で口論を繰り返し、とうとう小学生の2人の子供を連れて夜中に家出をして我が家にやってきたのです。

 

幸い、我が家には広めの一部屋がありましたので、そこに3人寝てもらったのですが、到着した晩はもちろん、3日ほどの滞在中も両手に抱えきれないほどのコンビニの弁当やらパンやらお菓子やらを買いこんできて、食べきれずに少なからぬ量を捨てていました。

 

また、私が経営していた会社の社員だったある母子家庭のお母さんは、子供とアパート住まいだったため生活費に加えて家賃も払う必要があり、子どもを保育園に預けて残業も進んでこなすなど頑張って働いていました。仕事熱心で生活態度もまったく問題ないのですが、「お金がない」と常にぼやいているわりには、着るものや美容などにそれなりにお金をかけているのが同じ女性として見てとれます。同僚からも「そんなにお金がないんだったら、つけまつ毛買うのやめたら?」と冗談で言われたりしていました。

 

お金がないのに高いコンサートのチケットを買ってしまったり、だらだらと不要な雑貨などに散財してしまったりするのと同じく、私が知る相対的貧困世帯に区分けされるであろう母子家庭のお母さんたちも、あまり脈絡のないお金の使い方をする人がほとんどでした。このような現象は、NHK番組中でも指摘された「スマホやゲームなどはある」「本はないがマンガはある」などの指摘と同根ないでしょうか。

 

また、母がそういうお金の使い方をすれば、子どももそうなりますし、ひとり親世帯では、もう一人の親という、大人の目で客観的に指摘できる人もいません、実家の親などが注意すると離婚に加えてさらに親との確執の種が増えてしまう可能性もあります。

 

高齢者の相対的貧困世帯では、自分の力で収入を得ることができないのであればぎりぎりまで生活費を切り詰めるという意識も自然と沸くでしょうが、若年のひとり親世帯においては、自分でそこそこのお金を自分で稼ぐことができ、また、仕事や家事で使える時間が少ないことも重なって、お金の使い方がどうもルーズになってしまう傾向にあるような気がするのです。

 

 

 

■相対的貧困家庭へのマネーリテラシー教育を

 

ひとり親家庭でお金の使い方が下手な傾向があるのは、日本の文化風土の中でお金の話をすることがタブー視され忌避されてきた結果でもあると思います。

 

華人文化圏に住んでいると、「それはどこで買った?いくらだった?」などという話はあいさつ代わりに交わされますし、「いいものを安く買った」とか「これだけ節約した」というのは女性にとっての一番の自慢話で、子供たちも赤ん坊の頃からそういう話を聞いて育ちます。ですから、お金の使い方については非常にしっかりしていて、欲しいものがあれば、お小遣いの中から少しずつお金を貯めて買うという習慣も自然に根付いていきます。

 

私は商売をしている一族の中で育ったので感覚的に近く、別段違和感はありませんでしたが、日本人の中にはお金の話をするのが苦手でできるだけ避けたいと感じる人も少なくありません。しかし、このようなメンタリティこそ、「マネーリタラシー=賢いお金の使い方」を学ぶ機会を疎外し、お金の稼ぎ方は覚えても、お金の使い方に無知なまま成人してしまう人が多い原因になっている気がしてなりません。

 

お金をどんどん稼いでどんどん使えるうちはよいですが、いったん貧困に囚われてしまったときに、効果的なお金の使い方を知らないのは致命的ですし、行政的な補助を受けているのであれば税金の適切な使い方にも疑問が投げかけられます。また、NHKで紹介された女子高生のように、自分では一生懸命頑張って生きているつもりでも、世間からバッシングされてしまうという悲劇が起こる可能性もあるのです。

 

それを未然に防止するには、現在、生活保護や各種補助を受けている世帯に対し、ファイナンシャルプランナーなどお金の専門家の派遣や、お金に詳しいソーシャルワーカーによる教育や家計チェックなど、支給された税金が正しく使われているかどうかを測定し、必要があれば適切な指導を行い、各世帯のマネーリテラシーを高める教育が施すことが一番ではないかと思います。

 

若年から高齢者まで、貧困が話題になる今だからこそ、日常のお金の使い方について、社会全体でマネーリテラシーをボトムアップしていく必要があると感じてなりません。

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後藤百合子

後藤百合子

大正5年創立、今年で100周年を迎える繊維会社の4代目社長。 日本語、英語、中国語(北京語と広東語)のトライリンガル。現在、シンガポールでも会社を経営中。 ツイッターアカウントは@sinlife2010

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