【小物王のつぶやき】発売10周年のフリクションボール、「消せるインク」の意外な誕生秘話

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消せるボールペン、というのは考えてみると不思議な感じで、それは例えば、剥がれる接着剤とか、刃が折れないカッターとか、酔わないお酒とか、そういう、「それはアリなのか?」的な響きがある。

 

とは言え、剥がれる接着剤は、軟粘性のテープのりなどで製品化されていて、何に役立つかというと、紙にこれを塗る(というか貼るというか)と、その紙は付箋みたいになるのだ。刃が折れないカッターは、もはやカッターナイフではないけれど、カッターのように使えて、でも刃を折らないでも切れ味が持つという、安全ナイフのようなプラスの「オランテ」がある。酔わないお酒は流石にまだないようだけれど、この勢いでは、その内発売されるかもしれない。それがソフトドリンクとどう違うのか、良く分からないけれど。

 

 

■ペン字は消せないからこそ「価値」がある?

 

そもそも、ボールペンで書いた文字は、消せないから「サイン」としての価値があったのだ。消せたら、それは鉛筆じゃないか。と、実は私は、パイロットの「フリクションボール」が発売された時、そんなことを思っていた。鉛筆じゃダメなのかと。それでも、摩擦熱で透明になるインクというのには興味があって、すぐ買いに行ったりしたのだけど、実際のところ、発売当初は、それほど爆発的に売れていたわけではない。それは、やっぱり消せる筆記具として鉛筆やシャープペンシルがあったからというのも大きかったのだろう。

 

「フリクションボール」は、パイロットのフランス支社からの要望で製品化されたそうだが、それは、フランスには「消せる筆記具」が無かったからだ。ヨーロッパでは、鉛筆は画材であって、あまり筆記具としては使われていないらしいのだ。だから、字消しペンなんていう、万年筆の青のインクを消すための修正ペンみたいなものが売られている。そういう状況なら、「消せるボールペン」は、本当に欲しい製品だっただろうと想像できる。

 

 

■大ヒットのきっかけは「インク」以外のところに…

 

この「フリクションボール」が日本で大ヒットとなったのは、ノック式のフリクションボールである「フリクションボール・ノック」が登場してからだ。日本人は、キャップ式のボールペンがあまり好きではないらしく、ほとんどの筆記具が、ノック式になって初めてヒットしている。三菱鉛筆のジェットストリームが、海外の一年遅れで発売されたのも、日本市場ではノック式でなければという考えの元、ノック式を開発していたからなのだ。

 

ということで、大ヒットしたフリクションボールは、今や知らない人がいないベストセラーだ。その用途の多くは、手帳に使うためだそうで、まあ、確かに、スケジュールの変更などに対して文字が消せれば、予定も見やすく、紙面もキレイだ。そして、鉛筆やシャープペンシルで書くよりも濃い色で文字が書ける。色も、当初は黒、青、赤、程度だったけれど、今は選べるようになった。

 

製品として画期的だったかというと、それは良く分からない。消せるインクには、パイロットの30年の研究成果が詰まっていて、その技術はおいそれと他メーカーが真似できるものではないのは、長い間、類似の製品が登場しなかったことでも分かる。今年、遂に、かつてのキャップ式だった、もう一つの「消せるボールペン」、「ユニボール ファントム」から7年を経て、三菱鉛筆が「ユニボール アールイー」を発売。ようやく、「消せるボールペン」を選べる時代になったくらいだ。

 

その技術は、やはり凄いのだけど、私には、実のところ「消さなければならないシチュエーション」が、あまり思いつかないのだ。要するに、手書きの文章を人に見せる機会がないのだ。郵便物の宛名には、郵便番号の読み取り時に消える可能性があるということもあるから使わない方が良いし、手帳も人に見せるわけではないから、グチャグチャっと消しておけば問題ない。取材時にメモしている最中には間違えても消してる余裕はない。

 

 

■結論、フリクションのどこが画期的だったか?

 

ただ、今書いている文字はいつでも消して書き直せる、と思える事は、それなりに大事かも知れないとは思う。やり直しが効かないというのは、人に無駄なプレッシャーを与えるものだ。でも、いつでもやり直せると思えば、余裕もできるし、思いきったことができる。一発勝負というのはカッコいいかも知れないけれど、あまり楽しくはない。文字を書くという、どこか一発勝負的な行為の敷居を下げてくれる道具として、フリクションボールはとても画期的だったんだなと、日本での発売10周年の今、しみじみ思うのだった。

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納富廉邦

納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな...

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