【今週の大人センテンス】「売名」という批判に対するサンドウィッチマンの答え

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巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 


第50回 「宮城県民として生き残った」ことの意味


「もっと面白けりゃ大丈夫じゃない?」by富澤たけし(サンドウィッチマン)


【センテンスの生い立ち】
東日本大震災が起きたとき、お笑い芸人サンドウィッチマンのふたりは宮城県気仙沼市でロケ中だった。震災6年目の前日にあたる3月10日、TOKYO FMの番組「よんぱち48 hours~WEEKEND MEISTER~」に出演した彼らは、パーソナリティの鈴木おさむに当時の状況や被災地への思いを語った。震災について語り続けることに対する批判の声もあったが、ふたりで何度も話し合う中で富澤たけしが伊達みきおにこう言ったという。


【3つの大人ポイント】
・悪意に満ちた不愉快な批判を果敢に受け流している
・自分たちの本分を何より大切にしようとしている
・そして実際に「面白い芸」で笑わせてくれている


3月11日が過ぎたら、東日本大震災の話題がいきなり減ってしまいました。常に忘れてはいけないという気持ちをちょっと込めつつ、先週に引き続いて、東日本大震災に関連した「大人センテンス」を取り上げてみたいと思います。今回は、宮城県出身のお笑いコンビ・サンドウィッチマンのお言葉。震災が起きたとき、ふたりは宮城県気仙沼市でロケを行なっていて、ひとつまちがえれば津波に飲まれていた可能性もありました。


震災以降、彼らは情報発信の面でも金銭面においても、東北の復興に大きく貢献し続けています。震災直後の2011年3月16日に「東北魂義援金」を設立。そこを通じて息の長い支援を続けていて、報道によると、寄付の総額は4億円を超えているとか。


日頃は、ぶっ飛んでいながら綿密に練り上げられたコントで、ファンやテレビの前の視聴者を楽しませてくれているサンドウィッチマンですが、3月10日に出演した生放送のラジオ番組で、支援活動を続けていることへの思いを語りました。番組は、TOKYO FMで放送された「よんぱち 48 hours ~WEEKEND MEISTER~」。放送作家の鈴木おさむがパーソナリティを務めていて、この日は東日本大震災を追悼する特別企画でした。


番組内で、鈴木が「サンドウィッチマンといえば震災の……」となるのは「芸人さんにとってはマイナスな部分もあるじゃないですか」と切り出します。鈴木は続けて「でも、面白さがブチ抜いた。それってすごいなと思って」とふたりを称賛。それに対して、伊達が「それは富澤と相当会議しました。いろいろ言われたんで」と答えます。


番組内での詳しいやり取りはこちら。ロケバスで高台に避難したときの状況も詳しく語っています。
「僕らはあの津波を目の当たりにした」サンドウィッチマンの3.11(TFMニュース)

さらに、鈴木が「売名じゃないかって言われるのもあったんじゃないですか」と、ふたりと親しい関係にあるからこその踏み込んだ質問をぶつけたところ、伊達は自分たちの熱い思いをこう語りました。

 


「ありました、震災芸人とか。ただ、僕らはあの津波を目の当たりにしたわけですよ。芸人ではなく宮城県民として生き残った僕らはやるしかないでしょ、と。『サンドウィッチマンを見たら東北の大震災を思い出す』って声もあるとも言われたんですよ。そしたら富澤が『もっと面白けりゃ大丈夫じゃない?』って」

誰が言ったか知りませんが、「震災芸人」はあんまりです。自分たちを見て震災を思い出すと言われたのも、さぞ悲しかったでしょう。そんな理不尽な言われように対して、怒ったりヘコんだりするのではなく(そういう気持ちもあったにせよ)、「もっと面白けりゃ大丈夫じゃない」と言える――。なんとすごいセリフでしょう。


人を笑わせる仕事ですから、イメージが固定されたりイメージのせいで笑いづらい存在になったりすることが、怖くないわけありません。にもかかわらず、不愉快な批判を果敢に受け流しているところや、自分たちの本分を何より大切にしようとしているところに、芸人としてのプライドや覚悟が表われています。「芸人ではなく宮城県民として生き残った僕らはやるしかないでしょ」というセリフに、どれだけの思いを込めていることか。


さらにすごいのが、震災後の彼らが、実際にパワフルでハイレベルな「面白い芸」を見せてくれていること。いろいろ差しさわりがありそうなので直接のリンクは控えますが、試しに「You Tube」で検索して、彼らのコントをいくつか見てみてください。私も久しぶりにまとめて拝見しましたが、「この人たち、こんなに面白かったんだ!」とあらためて思い知らされました。


残念ながら世の中においては、「いいこと」を続けるのは簡単ではありません。やっている人に対して、アラを探して文句を付けたり冷笑したりしたがる人がたくさんいます。それは有名人に限らず、一般人でも同じこと。サンドウィッチマンのふたりも、そういったイチャモンをつけられながら、足を引っ張ろうとする力にあらがいながら、それでも自分たちがやらなければという思いで全力を尽くしてきたのではないでしょうか。


誰かに救いの手を差し伸べたり、誰かを励ましたり慰めたりするためには、それなりにエネルギーが必要です。お金や時間が必要なこともあります。それぞれの状況で「やれることをせいいっぱいやればいい」のが大前提だし、何もできなかったとしても責められることではありません。だから、やれていない自分を正当化したいばっかりに、やっている人にケチをつけて目先の留飲を下げるのは慎みたいもの。がんばっている人や困難に立ち向かっている人に対しても、私たちはちょっと油断すると同じことをしがちです。


東日本大震災に限らず、いろんな場所でいろんな形で、支援を必要としている人たちは少なくありません。彼らのコントを見て笑うことも、彼らの活動や気持ちを知ることも、間接的に私たちができる支援のひとつ。コントをきっかけに具体的な行動を起こすケースもきっとあるでしょう。そんな意味でも、「いいこと」に冷たい目が向けられがちな世の中を少しずつ変えるためにも、さらに面白いコントをどんどん繰り出してもらいたいものです。


【今週の大人の教訓】
自分のやるべきことをやり切ることで、雑音はかき消せる

 

 

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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