お客さんの気持ちを「考える」ではなく「演じて」みたら?

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<アイデアを考えるために"演じる"とは何をすること? 発送術のテクニックの1つ「七色いんこ」を、アイデア本のロングセラー『考具』から>

 

ビジネス書の世界には、定番と呼ばれるものがある。古い本なのに内容が古びず、読者のニーズに応え続け、ロングセラーとなっている。

 

いわゆるアイデア本でいえば、この本が有名だ――『考具』(CCCメディアハウス)。大手広告代理店の博報堂に勤める加藤昌治氏が「考えるための道具、持っていますか?」と問いかけ、2003年に刊行された。現在までに37刷、15万部のロングセラーとなっている。

 

といっても、「考具(こうぐ)」なんて知らない、という人も少なくないだろう。これまでアイデア本を手に取る人は、企画などを仕事にしている人が主だったからだ。

 

時代は変わった。右肩上がりの経済成長は消え去り、多くの業界が激しい競争にさらされるなか、ビジネスパーソン1人1人の「考える力」がより一層問われるようになってきた。さらに今後は、人工知能(AI)の発展により、単純作業など、多くの仕事が失われるとも言われている。

 

そこで人間に残された生き残る道は......などと小難しいことを考えずとも、これだけは確かだ。ビジネスの世界で生きていくのに、ベテランも若手も、考える道具があるに越したことはない。

 

【参考記事】パジャマで出社でもOKのほうが、アイデア満載の会社になる

 

このたび『考具』のサブテキストとして基礎編『アイデアはどこからやってくるのか』と応用編『チームで考える「アイデア会議」』(いずれも加藤昌治著、CCCメディアハウス)が刊行されたのを機に、『考具』から一部を抜粋し、5回に分けて転載する。第2回は【考具その4】「七色いんこ」。

 

※第1回:「今日は赤」と意識するだけ 「カラーバス」で見える世界が変わる

 

【考具その4】「七色いんこ」

 

あなたは代役専門役者兼泥棒。誰かになりきると違う世界が見える

 

『七色いんこ』ってご存じですか? 故手塚治虫先生のマンガです。七色いんこ、という代役専門の役者が主人公。彼は同時に劇場で盗みを働く泥棒でもあります。そして彼を追いかけるお転婆の刑事がいて......というストーリーなのですが、このマンガ、毎回毎回のタイトルが著名なお芝居になっています。「三文オペラ」「どん底」などなど。そして七色いんこ氏は、あらゆる役を華麗にこなすことのできる名優です。

 

考具その4は、七色いんこになること。真似をしたいのはもちろん役者の方。演じてみる、ということです。では、アイデアを考えるために"演じる"とは何をすることでしょうか?

 

誰もが上司やセミナーの先生から「お客さんの立場に立ってみろ」「お客さんの気持ちを考えたことがあるのか」と言われていることでしょう。わたしも「生活者の気持ちになって考えろ」と何度も言われています。で、考える。でも本当に考えられているのだろうか、と自問してみてください。......実は「想像がつかない」のではないですか?

 

しゃがんでみてください

 

どうしてでしょうか。「気持ちになる」ってところがなかなかできないのでは、と思うのです。

 

そんなときは七色いんこ方式がピッタリ。役者のように本当に身体を動かしてみたら驚くほど分かる、つかめることがよく起こるんです。実感が湧いてくるんですね。そのまま「その気」になってみてください。ヤクザ映画を見た後はみんな肩を怒らせて映画館を出てくる、あれです。

 

例えば「10歳のお子さん向け商品」を開発している、とする。わたしもあなたもその昔は10歳でした。だから10歳児の気持ちが分かる......はずなんですけど、きれいさっぱり忘れてますね。しかも自分の頃と今とでは置かれた環境が全然違うのも確かです。さてどうするか。

 

しゃがんでみてください。10歳児の身長、140センチになってみてください。

 

視界が変わります。世界が変わって見えます。

 

手も足も、想像するより短いですよ。縮めてみてくださいね。もしかしたら、手が届かないところに手すりをつけていませんか? 足下の隙間、広すぎませんか? 案内看板はその位置、その角度で大丈夫でしょうか?

 

しゃがんだだけで10歳に戻れるわけではありませんが、何かヒントが転がっているはずです。今まで気がつかなかったことが山ほど目につくのではありませんか?

 

あるいは、接客カウンター。待たされるお客さまの気持ちをどうやって把握するか。まずはカウンターの向こう側に移動してみましょう。そして座ってみる。そこまで身体を動かしてみて、やっと見えてくる、感じられる発見があることを身体で知ってください。

 

そんなの簡単だよ、って顔をよくされるんですが、実際にやってみたことのある人もまた、少ないのです。どうやらわたしたちの「考える」という概念の中に「実際に身体を動かしてみる」発想は含まれていないことが多いようです。

 

でも実は、似たようなことをしているんです。○○駅の階段が下りにくい、混んでいてこんなに待ったのに、その態度はなんだ! とか。いつもはお客側の立場から、いろいろ思っているわけです。

 

同じです。全く同じことをご自分の商売でやってみましょう。

 

槇原敬之さんが『君の自転車』という歌を歌っています。「昨日の夜大喧嘩して/君はそのまま飛び出した......」と、いつもは自転車で僕の家にやってくる彼女が怒って自転車も忘れて帰ってしまったのを、サドルの高さは変えないまま、その自転車に乗って彼女の家に行く話です。その中で「君の自転車に乗って/君に会いに行こう/少し運転しづらいけど/サドルもこのままで」そして2番で「君の自転車に乗って/はじめて分かったよ/膝を少し曲げた世界で/僕を見上げてた気持ち」と歌うところがあって、まさに七色いんこ! なんですね。

 

こういう気持ちと行動、そこで得られる気づきを大切にしたい。ちょいメモの項で手を動かすことの意味をお伝えしましたが、今度は身体全体。声を出してみることが大事な場合もあるでしょうね。

 

疑似体験をするやり方も

 

『なぜこの店で買ってしまうのか──ショッピングの科学』(パコ・アンダーヒル著)という本をご存じですか?

 

アメリカの実践派コンサルタントが書いた本ですが、彼らはクライアントの店内に何カ所もビデオカメラを設置して、ひたすら撮影する。そのビデオを延々と見て、お客さんたちがどこで困っているのか、を探る手法を開発しています。

 

博報堂の生活総合研究所でも、ある生活者の生活行動を調べるのに、一日中調査員がご自宅の中にお邪魔するような調査手法を持っています。これは実際に観察することで、疑似体験をするやり方ですね。

 

しかしそこまで時間とお金をかけていられない......どうしましょう?

 

一人二役、三役やってしまいましょう。子ども役、大人役、お年寄り役。

 

とあるスーパーでは、店員さんたちがお客さまの側に回るシミュレーショントレーニングを行ったことがあるそうです。すると店長さんがまず感動。レジ打ちなどに従事するパートさんの気持ちと苦労を体感できたそうです。役員など経営陣の方々も参加されたようですが、その後の改革のスピードは猛烈に速かったとか。

 

また同じくスーパー業界の話ですが、アイルランドの「スーパークイン」では、月に1回、自分で買い物をすることが取締役に義務づけられているそうです。

 

クルマ業界の方であれば、競合車をレンタカーしてみる、エルダービジネスがお仕事ならいつもよりゆっくりしたスピードで街を歩いてみる。業界によって方法は様々あると思いますが、肝心なのは、自分と違う立場・ポジションをできる限りなりきって疑似体験すること。

 

実際に自分自身が"演じている"ことは強いです。やってみると分かること、が実はたくさんあるんですね。

 

七色いんこにチャレンジしてみてください。段違いに深く、バラエティに富んだ「既存の要素」を知ることができます。当然、あなたのアイデアも段違いに面白くなるはずですよ、きっと。

 


『考具』
 加藤昌治 著
 CCCメディアハウス




『アイデアはどこからやってくるのか 考具 基礎編』
 加藤昌治 著
 CCCメディアハウス




『チームで考える「アイデア会議」 考具 応用編』
 加藤昌治 著
 CCCメディアハウス


 

文:ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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