【今週の大人センテンス】「虚構新聞」のウソを越えた日本の「謙虚」の正体

話題

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第53回 謝罪しつつ批判するという高度な技

 

「記事が一部現実化してしまったことを、関係者と読者のみなさまに深くおわびいたします。」by虚構新聞

 

【センテンスの生い立ち】
ウソ八百の記事を次々と世に送り出して、読者に笑いと心の余裕を与えてくれている「虚構新聞」が、4月6日、神妙な謝罪記事を掲載した。2015年2月17日付の〈日本の「謙虚」、海外アピールに200億計上〉というウソ記事の一部が、なんと経済産業長が16年7月から実施している政策と一致。結果的に「概ね誤報」になってしまった。謝罪という形を取りつつ、謙虚さを世界にアピールする政府のマヌケさを批判しているところが粋である。

 

【3つの大人ポイント】
・荒唐無稽なはずのウソ記事が現実化してしまった
・「虚構」を追求し続けている姿勢がじつにアッパレ
・謝罪という形でヘンな現実を痛烈に皮肉っている

 

「ウソの記事を発表する」という事態は、報道機関として絶対にあってはなりません。しかし、「虚構新聞」の場合は話が別です。この新聞の目的は「虚構世界の現実を伝えること」。2004年の創刊以来、1000本以上のウソ記事をせっせとアップしています。

 

最近アップされたのは「道徳力、日本は13位に低下 国際道徳力調査」「成年雑誌所持で11歳少年を補導 ベッド下などから複数押収」といった記事。時事的な話題をベースにしつつ皮肉をたっぷり込めたウソのニュースは、独特のセンスと巧みな文章で読むものをニヤリとさせつつ、世の中のウサン臭さや問題点を間接的に浮き彫りにしてくれます。

 

今では「虚構新聞」の存在や編集方針はかなり広く知られるようになりましたが、かつてはウソ記事を鵜呑みにして、本気で怒ったり嘆いたりする人が後を絶ちませんでした。まあ最近でも、SNSを見ていると虚構新聞の記事をウソと気づかないままシェアして、もっともらしく批判したり論評したりしているあわてん坊さんを時々見かけます。けっこう恥ずかしい光景なので、みなさまはくれぐれもお気を付けください。

 

これまでも、2015年10月の〈「シャープ、゜の売却を検討」についてお詫び〉など、楽しい謝罪記事を繰り出してきた同紙ですが、 4月6日にアップされたこの謝罪記事でも「虚構新聞らしさ」が炸裂していました。
「日本の「謙虚」、海外アピールに200億計上」についてお詫び

 

謝罪の原因となったのは、2015年2月17日付の〈日本の「謙虚」、海外アピールに200億計上〉の記事。政府が「日本の美徳を世界の美徳へ」というプロジェクトを立ち上げ、海外ではネガティブに捉えられがちな「奥ゆかしさ」「謙虚さ」も含めた日本独特の文化的価値観を世界に発信することを決めたという内容です。来年度予算として200億円が計上され、各国語小冊子600万部の配布などが行なわれる予定という記述も。

 

説明するのも野暮ですが、この頃はテレビも雑誌でも「日本礼賛」をテーマにした番組や記事が増えるなど、日本や日本人を自画自賛することがブームになり始めていました。そんな風潮への皮肉を込め、そもそも自分で世界にアピールするのは「謙虚」でも何でもないのでは……という疑問も匂わせています。いくら自画自賛がブームでも、政府が旗を振って「奥ゆかしさ」や「謙虚さ」をアピールするわけがない、という前提もあったでしょう。

 

ところが、現実は「虚構新聞」より奇なり、でした。経済産業省に「世界が驚く日本」研究会なるプロジェクトが発足し、そこが3月8日にコンセプトブック「世界が驚くニッポン!」の内容を公表。そこには「自然との同化感覚が、自然の恵みに感謝し、謙虚であろうとする道徳、倫理観にもつながっている」という、まさに「虚構新聞」が伝えた「謙虚さ」を海外に発信するという内容がありました。また、事業を推進する「クールジャパン機構」には210億円の予算が付いており、「虚構新聞」の記事と金額がほぼ一致しています。

 

「虚構新聞」側は、どうやら「産経新聞」4月2日付の記事「「経産省の「日本のすごさ」まとめた冊子「世界が驚くニッポン!」が炎上 あまりの持ち上げ振りに日本人が驚いた!」で、ウソが本当になってしまっていることを知ったようです。さぞショックだったことでしょう。「産経新聞」の記事も、〈ウェブ上では「謙虚さを世界に知らしめるってもはや謙虚じゃない」などという声が上がっている〉といった記述があるなど、奥ゆかしさのカケラもない自画自賛っぷりを批判する論調です。

 

本当のことを書いてしまうというのは、「虚構新聞」にとってはあってはならないこと。4月6日にアップされた記事では、ウソしか書かないと信じてくれている(ややこしい)読者に対して、〈上記記事の公開後「現実の出来事を伝えたのではないか」という指摘が本紙に複数寄せられたため、詳しく調査を進めていましたが「概ね誤報と判断せざるを得ない」との結論に達しました。〉〈虚構世界の現実を伝えることを目的とする本紙におきまして、記事が一部現実化してしまったことを、関係者と読者のみなさまに深くおわびいたします。〉という謝罪の言葉が綴られています。さらに、こんな一節も。

 

日本人の美徳とされる「謙虚」や「奥ゆかしさ」を海外に向けて積極的にアピールするという、初歩的な矛盾をはらんだ政策を経産省の官僚や識者があえて堂々と実行するという形で、記事が現実のものとなってしまったのは痛恨の極みです。

 

「初歩的な矛盾をはらんだ政策を~」といったあたりからは、「おいおい、本気かよ」と呆れている様子が伝わっています。謝罪という形でヘンな現実を痛烈に皮肉っている様は、さすがと感心せずにいられません。ウソの記事と今回の謝罪を通して、かなり妙なことになっている日本の状況や、政府がアピールしたがっている「日本の素晴らしさ」の正体を浮き彫りにしてくれました。ちなみに、編集部は社主UKに対する罰として「明日7日から本社ビル地下3階地下牢拘留2日間(ゲーム禁止・おやつ抜き)の処分を言い渡しました。」と発表。つらい経験を乗り越えて、さらに飛躍していただきたいものです。

 

ウイットに富んだウソを繰り出し、そんなウソをニヤリと楽しむためには大人力が必要です。「虚構新聞」はどの新聞よりも大人力が高く、しかも読者の大人力を鍛えてくれている貴重な媒体と言えるでしょう。きっと「ウソはケシカラン!」「信じる人がいたらどうするんだ」的な無粋でマヌケで大人げない抗議もたくさん寄せられる中、13年もの長いあいだ「虚構」を追求し続けている姿勢は、じつにアッパレです。「虚構新聞」があるうちは、日本もまだ大丈夫。これからも楽しいウソで、世間をハッとさせてください。

 


【今週の大人の教訓】
ウソの中にマコトや本質が含まれていることもある

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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