盗んだバイクで走り出す父とは違う? 尾崎裕哉は慶應卒の社会起業家志望

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出典:「TOY'S FACTORY」公式サイトより

2017年3月22日、故・尾崎豊さんの長男、尾崎裕哉(ひろや)さんが4曲入りシングル『LET FREEDOM RING』をリリースした。これまでもCMやライブイベントに出演したり、ラジオのパーソナリティーを務めるなど芸能活動はしていたが“学業を優先したい”という本人の意志で2015年に慶應義塾大学大学院を修了してから満を持しての本格歌手デビューとなったようだ。裕哉さんは1989年生まれの27歳。父の面影もあるが、タレントの劇団ひとりさんによく似た素朴な顔立ちの青年だ。

 


■父・尾崎豊そっくりの『I LOVE YOU』カバーの意図

 

今、世間で「尾崎豊そっくりの歌声」と評判になっている裕哉さん。『I LOVE YOU』や『卒業』を歌えば、多少ソフトではあるが、ファルセット加減や語尾のビブラートなど確かに尾崎豊さんをほうふつさせる。“尾崎信者”と呼ばれた熱狂的なファンからすればたまらなく感慨深いものがあるだろう。

 

しかし筆者が見る限り、裕哉さんは父の肖像をなぞるだけの懐メロ的な存在に甘んじるつもりはなさそうだ。『LET FREEDOM RING』の収録曲『サムデイ・スマイル』を聴けばよくわかるが、オリジナル曲を歌う裕哉さんの声は、父の楽曲を歌う時とはまったく異なっている。

 

 

素の声の魅力を活かした余計なくせや力みのない歌い方であり──蔦谷好位置さんら補作者の助けを借りながらではあるが──音楽性もメッセージ性も自分自身の目指すものがあるようだ。尾崎豊的なものとはまったく別方向の魅力を演出することに成功している。

 

尾崎豊さんは歌い方や曲調にくせの多いタイプのアーティストだった。矢沢永吉のように、浜田省吾のように。実はこういうタイプのアーティストは個性が明確であるため、コピーすることの難易度は高くない。多少、声質に似た部分があるのは間違いないが、これまで人前で『I LOVE YOU』を歌うときの裕哉さんにはある種のサービス精神が働いていたのではないだろうか。

 


■“不良”の父とは正反対? 尾崎裕哉は“善良”な意欲で突き進む

 

2010年にスタートしたラジオ番組『CONCERNED GENERATION』(InterFM)で裕哉さんは繰り返しジョン・ウッド(※)やMr. Childrenの桜井和寿を例に出して“社会起業家を目指したい”という旨の発言をしている。
※ジョン・ウッド:マイクロソフトの要職を捨てて途上国の子供たちに学びの場を届けるべく立ち上がった社会起業家

 

裕哉さんが目指す社会起業家像とは、貧困、環境、教育などの社会問題を具体的に解決するために起業する人を指している。彼は遠大なものであろうと身近なものであろうと、問題と感じたテーマには積極的に関わり、少しでも役立ちたいという“善良”な意欲を持っているようだ。性格も、メディアに露出している姿を見た限りは、けっして偉ぶらず、人当たりのいい人物という印象。あまりに偏狭な個を貫くあまり、社会から半ばドロップアウトした存在だった父とはあらゆる面で異なっている。

 

尾崎豊的なカリスマ像は、インターネットが発達し音楽嗜好も分化した現代においてはもう成立し得ない。父の存在が大きな財産であることに違いはないが、その影を追うことなく、自分なりの等身大のキャラクターを築こうとする裕哉さんにはアーティストとして一定の力量と好意を感じている。

 

それでこそ尾崎豊の息子だ。

 

『LET FREEDOM RING』は4月3日付のオリコン・ウィークリーチャートで21位にランクイン。まずまずの滑り出しと言えるだろう。今後もぜひコンスタントに作品を世に送り出し、父の名に恥じないアーティストとして活躍していただきたいものだ。

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中将タカノリ

中将タカノリ

シンガーソングライター、音楽評論家。2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。深い文学性と、歌謡曲、アメリカンポップスをフィーチャーした音楽性で独自の世界観を構築している...

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