【今週の大人センテンス】浅田真央の「強さ」を象徴する涙をこらえての笑顔

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写真:AP/アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。


第54回 これからが楽しみになる華麗な着地


「バンクーバーの時にも悔し涙を流していたので、ああ、泣いてちゃダメだなと思って、がんばって笑顔にしました」by浅田真央



【センテンスの生い立ち】
長年にわたって日本のフィギュアスケート界を引っ張ってきた浅田真央(26)が、現役引退を発表。4月12日に行なわれた記者会見で、引退を決断した理由や将来について語った。上のセンテンスは、ソチ五輪のときにフリーの演技が終わった瞬間、どんな気持ちだったかという質問に答えたもの。前日のSPで不本意な成績に終わったショックを乗り越えての見事な演技で、あふれてくる涙をこらえて笑顔を見せる姿は世界中に深い感動を与えた。



3つの大人ポイント
・どんなときも笑顔でいたいと強く決意している
・現役引退の記者会見でも、全力で笑顔を保った
・「辞める」ことを決断する難しさを教えてくれた



とても胸を打つ記者会見でした。フィギュアスケートの浅田真央、通称「まおちゃん」が、現役引退を発表。今の日本でこんなにも「ちゃん付け」が似合うのは、浅田真央(まおちゃん)か山里亮太(やまちゃん)ぐらいですね。……いや、並べたのは何となく失敗でした。すいません。


彼女の選手としての実績は、今さら説明するまでもありません。オリンピックでの金メダルこそ夢で終わりましたが、3回の世界選手権優勝など、人気でも実力でも10年以上にわたって日本のフィギュア界を引っ張ってきました。4月12日に都内のホテルで行なわれた記者会見には、約430人の報道陣が集結。真っ白のジャケットで現われた浅田は、およそ50分にわたって、時おり無茶振りもあった記者の質問に丁寧に答えました。


もっとも印象的だったのは、終始笑顔で話していた彼女が、最後の挨拶のときに涙がこみ上げてきたところ。泣いている顔を報道陣に見せまいと、いったん後ろを向いて手で涙をぬぐい、ふたたび振り返ったときには、また元通りの笑顔を浮かべていました。この「涙をこらえての笑顔」こそが、浅田真央の「強さ」の象徴であり、ヘンな言い方かもしれませんが、大きな魅力と言えるでしょう。


引退会見の詳しいやり取りと動画はこちら。
【全文&動画】浅田真央さん引退会見「スケートは私の人生」(ホウドウキョク)


彼女が見せてくれた「涙をこらえての笑顔」といえば、思い出すのは、2014年のソチ五輪です。金メダルを期待されていたものの、SPは16位という不本意な成績でした。しかし翌日のフリーでは、気迫のこもった見事な演技で自己ベストを更新します。素人目にもただ事ではない演技でした。演技を終えたとき、いったんは泣き顔になった彼女ですが、すぐに笑顔に戻ります。あれほどケナゲな笑顔は、そうはありません。


会見のときにも、そのことについての質問が飛びます。彼女は当時のことをしっかり思い出しながら、ショートが終わったときは「ああ、日本に帰れない」とまで思ったこと、当日の朝もまだ気持ちが切り替わっていなかったこと、試合が近づきメークを終えてリンクのドアを出た瞬間に「すごい会場でこれはもうやるしかないという思いが出て」きたことを語りました。さらに「フリーの競技が終わった瞬間は?」と聞かれて、こう答えています。
 

最後のポーズ、上を向いていたんですけど、あー、終わったって思いましたね。それと同時にやっぱり、よかったという思いがすごくこみ上げてきて、ちょっと涙してしまったんですけど、バンクーバーの時にも悔し涙を流していたので、ああ、泣いてちゃダメだなと思って、がんばって笑顔にしました。


あの場面、あの状況で「がんばって笑顔に」するのは、なかなかできることではありません。競技者として素晴らしいのはもちろんですが、どんなときでも笑顔を見せていたいという決意とそれを実践している姿に、深い感動を覚えます。会見の最後でも、「スケート人生で経験したことを忘れずに、これから新たな目標を見つけて、笑顔で前に進んでいきたいと思っています」と、笑顔を忘れない姿勢を強調しました。


たくさんの大人センテンスにあふれた会見でしたが、もうひとつ取り上げたいのが、ソチ五輪後にいったん休養したあと、ふたたびオリンピックを目指して復帰し、2年間がんばって来た「意義」について尋ねられたところ。休養した段階で、もう浅田真央は限界だという人もいたし、そこで引退していてもあちこちで引っ張りだこだったでしょう。復帰後は「浅田真央」としての期待に応えるような成績は出せませんでした。


しかし、彼女は「ソチ五輪後の世界選手権で自分が選手を終えていたら、今もまだできたんじゃないかと思っていたと思います」と、復帰は自分にとって必要なことだったと答えています。復帰したからこそ「本当に今は何もやり残したことはない」と思えるとも。彼女のような一流選手にとって、引退を決意するのはさぞ難しいでしょう。凡人の私たちですら、何かを辞めたり諦めたりするのは、けっして簡単ではありません。


辞めたり諦めたりする決心がつかないときは、浅田真央を見習って、「何もやり残したことはない」と言い切れるぐらいに全力を尽くしたいもの。未練があるのに、人に言われたり半端に損得勘定を働かせたりして「もうやめよう」という判断をすると、あとから「まだできたんじゃないかと思って」しまいそうです。迷ったら彼女のことを思い出しましょう。ま、男女の別れの場合は、一方的に全力を尽くすのはやめたほうがよさそうですけど。


さっそく、引退後の進路についてあれこれ憶測が流れています。どんな形にせよ、ふたたびテレビなどであの笑顔を見せてくれるに違いありません。万が一、悪い大人たちにつらい思いをさせられたとしても、笑顔のベースにある「強さ」で乗り切ってくれるはず。これからも「ちゃん付け」で呼ばせてもらいつつ、あの笑顔であたたかい気持ちにさせてもらいましょう。


【今週の大人の教訓】
必死で押し隠そうとするほど、胸の中の思いは強く伝わる
 

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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