【中年名車図鑑】孤高の自動車メーカーが造った“タイヤの付いた宇宙船”

ライフスタイル

大貫直次郎

1980年代半ばの日本の自動車市場は、スペシャルティカー・ブームで賑わっていた。各メーカーから最新の上級2ドアクーペが続々とリリースされ、ユーザーから大注目を集める。そんななか、満を持して富士重工業(現SUBARU)が送り込んだのが、エアロルックをまとったアバンギャルドな1台だった――。今回は「星は舞い降りた」のキャッチで登場したスバルブランド初の上級スペシャルティ、アルシオーネ(1985~1991年)で一席。

 


【Vol.16 スバル・アルシオーネ】

1985年2月、富士重工業はアメリカで自社初の上級スペシャルティカーを発売する。「XT」と名づけられた2ドアボディのノッチバッククーペは、スラントした低いノーズとリトラクタブル式のヘッドランプ、極端なウエッジシェイプのスタイリングで人々を驚かせた。タイヤがなければ、まるで宇宙船……そんなジョークまで囁かれる。しかしこのスタイルは、何も奇抜さだけで採用したデザインではなかった。エアロダイナミズムを駆使して構築された造形だったのだ。宇都宮の風洞試験室で試験と修正を繰り返して創出したフォルムの空気抵抗係数、いわゆるCd値はFFモデルで0.29。当時としては世界トップレベルの好数値だった。


■超個性的なスタイルを纏ったスバル流スペシャルティカー

アメリカでのリリースから4カ月ほどが経過した1985年6月、日本でもスバル初の上級スペシャルティカーがデビューする。車名はXTではなく、「アルシオーネ(ALCYONE)」を名乗った。スバル星団で最も光り輝く星=アルシオーネ。クルマの位置づけと富士重工業の意気込みをストレートに表したネーミングだった。

アルシオーネのシャシーは、基本的に同社のレオーネのコンポーネントを使用する。ただし、主要パーツはスバルの最新技術を目一杯に盛り込んだ。足回りは電子制御のエアスプリングを装着したエレクトロ・ニューマチック・サスペンションを採用。2段設定のハイトコントロールと4輪オートレベリング機構に加え、マルチアジャスト式のステアリングシステムも組み込む。駆動方式はパートタイム4WD(グレード名はVRターボ)とFF(同VSターボ)の2タイプを設定。エンジンは専用チューニングのEA82型1781cc水平対向4気筒OHCターボユニット(グロス表示135ps/20.0kg・m。後にネット表示で120ps/18.2kg・mとなる)を搭載した。

外装やメカニズムに負けないくらい、インテリアのデザインも斬新だった。ステアリングはL字型のスポークを持つ新タイプ。メーターパネルの左右にはサテライトスイッチが整然と並ぶ。デジタル表示の計器盤やガングリップタイプのシフトノブ、斜めに傾斜を持たせて囲まれ感を演出したインパネとドアパネルのコンビネーションなども人目を引いた。ちなみに、インテリアのデザイナーはヘリコプターのコクピットをイメージし、同社の宇都宮に赴いて実機を徹底的に研究したそうだ。

 

L字型のスポークを持つステアリング、デジタル表示の計器盤やガングリップタイプのシフトノブが目を引く。外観同様インテリアも斬新だ


飛行機屋を源流とする孤高の自動車メーカーが造った斬新なスペシャルティカーのアルシオーネ。しかし、日本での販売成績はそれほど振るわなかった。奇抜ともいえる内外装デザインに、ユーザーがついてこなかったのである。レオーネの面影が残るエンジンや駆動システムなども、上級スペシャルティモデルとしてはマイナス要因だった。


■スバル初のフラット6エンジンを搭載したVX

1987年7月、富士重工業は旗艦スペシャルティカーにふさわしいエンジンとドライブトレインを組み込んだとっておきの1台を発売する。グレード名はVX。ER27型2672cc水平対向6気筒OHCエンジン(150ps/21.5kg・m)を搭載し、駆動方式にはACT-4と呼ぶ電子制御トルクスプリット4WDを採用していた。さらに、CYBLID(電子制御モータードライブ式パワーステアリング)やEP-S(電子制御エアサスペンションシステム)、ABS(アンチロックブレーキシステム)といった先進技術を豊富に盛り込む。専用デザインのアルミホイールや内装パターンも、フラッグシップモデルにふさわしい出来栄えだった。

走りのほうは従来モデルより上質で、太いトルクを活かした骨太の加速と安定した走行性能を実現する。ダートや濡れた路面などの低μ路を走れば、他社の上級スペシャルティカーを凌駕した。そして何よりフラット6エンジンとフルタイム4WDという高性能のキーワードが、スバリストたちを大いに魅了した。

とはいえ、VXグレードを導入してもアルシオーネの販売成績はそれほど伸びなかった。生産台数は車歴を閉じる1991年までの6年あまりで9万8918台にとどまる。しかし、「水平対向エンジンと4WD技術のスバル」というイメージをアピールするうえで、さらには後にデビューするレガシィへの技術発展を成し遂げるうえで、アルシオーネの存在意義は非常に大きかったのである。
 

フラット6エンジンとフルタイム4WDを搭載したVXグレード。ダートや濡れた路面などの低μ路で実力を発揮した

■アルシオーネのライバルはポルシェ959だった!?

もうひとつ、アルシオーネに関するトピックを。大排気量のフラット6エンジンと電子制御式のフルタイム4WD――アルシオーネVXのこのアイコンは当時、思わぬライバルを生み出した。VXグレードがデビューする1年10カ月前のフランクフルト・ショーで発表されたポルシェのスペシャルモデル、「959」だ。959のエンジンはシリンダーヘッドを水冷化した2850cc水平対向6気筒DOHCツインターボ(450hp/51.0kg・m)で、アルシオーネのER27型エンジンの出力を大きく上回っていたが、フルタイム4WDの機構は非常に似通っていた。2車ともに油圧多板クラッチをセンターデフに使い、電子制御で駆動を配分していたのである。違いは駆動の源となるパワートレインの搭載位置と細かな機構だけだった。

意外なところで比較されたスバル車とポルシェ車。約10年後の1998年には、日本のスバル特約店がポルシェ車を販売するとは、だれも予想していなかったころの話である。
 

【中年名車図鑑】
 

Vol.1 6代目 日産ブルーバード

Vol.2 初代ダイハツ・シャレード・デ・トマソ

Vol.3   4代目トヨタ・セリカ

Vol.4   初代トヨタ・ソアラ

Vol.5   2代目ホンダ・プレリュード

Vol.6   5代目マツダ・ファミリア

Vol.7   初代スバル・レガシィ

Vol.8   2代目いすゞ・ジェミニ
Vol.9  初代・三菱パジェロ

Vol.10  5代目・日産シルビア

Vol.11  初代/2代目スズキ・アルト・ワークス
Vol.12  2代目マツダ・サバンナRX-7
Vol.13 2代目トヨタ・セリカXX

Vol.14 初代ホンダ・シティ
Vol.15 6代目・日産スカイライン2000RS

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大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バ...

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