サイン会も動画配信も解禁! 高飛車なF1がいきなりフレンドリーになった理由

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5月14日に決勝レースが行われたF1スペインGPのスタート直後、ウイリアムズのバルテリ・ボッタスに押し出される格好でフェラーリのキミ・ライコネンとレッドブルのマックス・フェルスタッペンが1コーナーで接触し、ライコネンはその場でリタイヤした。その直後、テレビカメラは観客席で泣きじゃくる男の子を捉えた。フェラーリのロゴが入った赤いウェアを着、赤いキャップを被っているので、大のフェラーリ・ファンなのは一目瞭然だった。

 

レース終盤、テレビはコースを走るマシンを映さず、パドックにあるフェラーリのホスピタリティを映した。そこには、観客席で大泣きしていた男の子がおり、ライコネンと並んで記念撮影をしていた。さっきの涙はどこへやら、ニコニコ顔である。それは当然で、リタイヤして大泣きするほど思い入れの強いライコネンが隣にいるのだから(サイン入りのキャップなどもプレゼントされたそう)。

 

フェラーリのスタッフと、国際映像を配信するFOM(フォーミュラ・ワン・マネージメント)が協力し、男の子の居場所を突き止め、両親とともにパドックに案内したのだった。またとないファンサービスであり、このレース一番のファインプレーだった。

 


■SNSも動画配信も大幅に緩和

 

F1の興行主が2016年に変わった。新しいボスであるリバティ・メディアは、F1とファンの距離を縮めようと2017年のシーズン当初から数々の施策を打ち出している。男の子の一件はフェラーリの自発的な行為だが、ファンとの距離を縮めようとするリバティ・メディアの思いが十分に浸透していることの現れだろう。

 

今年からパドック前でのサイン会もはじまった

これまでのF1は、どちらかというとお高くとまっていた。ファンとの間に一定の距離を設け、敷居を高くし、手の届かないところで行われている特別感をウリにしているようなところがあった。F1の新オーナーはそれを嫌がっているようだ。アメリカの企業だからかもしれない。アメリカのモータースポーツのように、ファンとフレンドリーな関係を築こうとしているように見える。

 

昨年までのF1は、ドライバーやチームがパドックで撮影した動画の配信を厳しく規制していた。今年はそれを大幅に緩和している。グランプリの週末は、各チームが配信する「普段なかなか見られない映像」がSNSで楽しめるようになった。メルセデスAMGはスペインGPの週末、ルイス・ハミルトンの案内でパドックにあるトランスポーターの内部を紹介した。ハミルトンの個室はまるで高級ホテルの一室のようで、たいそう居心地が良さそうだった。

 

F1公式チャンネルも積極的に動画を配信している。パドックの入口にレポーターを立たせ、サーキットに「出勤」してくるドライバーをつかまえて、インタビューを試みていた。ノリのいいドライバーがいる一方で、早々に切り上げようとするドライバーがいた。コース上の走りを見ているだけではわからない、ドライバーのキャラクターがその映像から伝わってきた。

 

昨年まで、観客がドライバーの素顔を拝める機会といえば、レース前に大型トラックの荷台に乗ってコースを1周するドライバーズパレードくらいだった(オープンカーの助手席に乗る場合もある)。今年はガレージの前でサイン会を行うようになった。他のカテゴリーでは当たり前のファンサービスだが、ドライバーとファンが遠かったF1では画期的な変化である。これまでは豆粒のような大きさでしかドライバーの姿を確認することができなかったのに、目の前で拝むことができるのだから。

 

決勝レース終了後、表彰台に上がった3人のドライバーに対しては、これまでもその場でインタビューが行われた。予選後のトップ3ドライバーのインタビューは、これまで記者会見室で行われ、その映像が場内のスクリーンに映し出された。一転、スペインGPではコース上で公開インタビューが行われた。7番手のフェルナンド・アロンソを登場させたのは、地元ファンに対する粋な計らいだった。

 

ドライバーを識別しやすくするため、ノーズのカーナンバーが大型化

サーキットに観戦にやってきたファンがF1をもっと身近に感じられるよう、観客席裏の物販エリアにタイヤ交換の体験コーナーを設けたり、レースシミュレーターを置いたりするようになった。2シーターのF1カーに同乗してコースを1周できる催しも用意された。

 

スペインGPからはドライバー固有のカーナンバーがはっきり見えるようにするため、チームに対し、表示を大きくするよう求めた。ノーズのカーナンバーは大きくなり、シャークフィンと呼ばれるボディワークに、新たにカーナンバーやドライバーネームが追加された。

 

F1が変わりつつあるのは確かだ。グランプリの週末はパソコンやスマホで、ドライバーやチームに近いレアな情報が手に入るようになった。サーキットでは、現地におもむいたからこそ体験できる得がたい体験ができるようになった。新生F1のファンに向けた施策は、まだほんの序の口らしい。どんな手が出てくるのか、今後が楽しみだ。
 

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世良耕太

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全...

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