妻から「死んでほしい」と願われる夫たち。夫を無視して家庭内母子家庭状態になりながらも、妻が離婚を選ばない理由とは

人間関係

ダ・ヴィンチニュース

夫に死んでほしい妻たち』(小林美希/朝日新聞出版)に登場する女性たちは、怒っている。育児にまったく参加しない夫、申し訳程度に手伝ったぐらいでイクメン面する夫、家事は女性がするものと思っている夫、妻のキャリアに無理解な夫、そもそも女性が働くこと自体をよしとしない夫、稼いでいるのは俺と威張る夫たちに……。

 

彼女たちは最初から怒りを爆発させていたわけではない。お互いに理解し合い、夫婦関係をよりよくして幸せな家庭を営みたいというささやかな願いが無視され、時に踏みにじられ、やがて怒りへと変わっていく。けれど、恐ろしいのはその後だ。怒りの炎が鎮まり、あきらめの境地に達した妻たちは、ため息とともに思う、「夫が早く死んでくれればいいのに」と。

 

夫たちは「特別にヒドい男性」ではない。では、妻たちが「特別に怒りっぽい女性」かというと、これも違う。ごく普通の家庭で、ごく普通の妻たちが、夫が死ぬことを切望している。著者の小林美希さんは、個別の事例をあげながらその裏にある、男女間の賃金格差、性別役割分担、マタハラ、非正規雇用の増加、長時間労働など社会問題をひもといていく。

 

幼いひとり娘が難病に冒されたことにすら夫はたいした関心を示さず、仕事を辞めた妻が看病に専念し心身が押しつぶされそうになっているところに、「夕飯は簡単なものでいいよ」といい、シャンプーひとつ自分で買おうとしない。彼のように、家庭内のケアはすべて女性が無償で行うのが当たり前だと思っている男性はいまだ多い。夫婦で力を合わせて看病すれば、妻もキャリアを中断せずに家庭の収入も安定し、家族の関係も強固になったはずなのに。

 

子育てと仕事を両立する妻の活躍に夫が嫉妬し、妻が繁忙期で帰りが遅くなる日は無理やり子どもたちを早く寝かせつけ、母子を会わせないようにする夫もいれば、病気で子宮を摘出した妻に「子宮を取ったら、女じゃねーな」といってのけた夫もいる。どの例も夫側からすれば「そんなことで」と思うかもしれない。しかし、当然のことながら妻たちは一朝一夕の無理解で怒りを爆発させるわけではなく、何年、時には何十年もかけて夫に失望し、夫の死を願うようになっている。

 

「俺だって仕事に追われて大変なんだ」という言い分もあるだろう。たしかに男性に対する仕事のプレッシャーは非常に強く、近ごろでは「男の生きづらさ」を指摘する声もあがっている。が、妻たちは「男性が仕事で手がいっぱいで、家庭のことに非協力的」だから許せないのではなく、「男性の想像力が欠如しすぎていて、家庭をないがしろしている」から、死を願うようになっている。そして、「実質的には母子家庭」と妻たちが思うほど、家庭のなかで自分が排除されてしまっていることに夫たちが気づきもしないのもまた、想像力の欠如ゆえである。

 

それほど関係が悪化しているにもかかわらず離婚を選ばないのが、不思議でならないという人もいるだろう。その理由として、遺族年金や、団体信用保険の加入により夫の死後、家のローンの返済が保障される制度など、「離婚より死別がお得」な事実が本書で明かされているが、それ以上に「離婚した女性に与えられる社会からのスティグマ(負の烙印)」を感じずにはいられない。

 

男女間の賃金格差が大きく、シングルマザーが子どもを抱えながらできる仕事は限られていて生活自体がままならない。離婚した父親から養育費を受け取っている母子家庭は2割にも満たない現状もあり、経済的にたいへん厳しい状況にさらされるとなると離婚という選択肢には手を出せない人が多い。

 

加えて、妻たちは世間の目も気にしている。自分の両親が離婚しているため自分も別れると「やっぱりね」と思われるのではないかと気に病む妻、女が仕事をしているから離婚するはめになると思われたくないから踏みとどまる妻。教員である女性は、生徒に「人間として信頼される生き様を見せなければならない」として婚姻の継続を選んでいる。社会から求められる規範の強さが、「死んでほしい」と願う人と願われる人がひとつ屋根の下で暮らすという、いびつな家庭を生んでいる。

 

それでも、若い世代は変わってきていると本書は指摘する。「家事は女性がするものだ」とは思わず、「家事をすることは、家庭のなかでの自分の大事な役割である」と考える男性は増えているという。上の世代は晩婚化を嘆くばかりだが、こうした考えの持ち主であれば結婚する年齢がいくつであっても、結婚生活の質はよいものになるのではないか。

 

おそるおそる本書を手に取る男性は、おそらく妻から「死んでほしい」とは思われていない。「ウチは大丈夫」「俺はちゃんとやっているから」という男性にこそ読んでほしい……のだが、どうしたら彼らに届けられるのだろう。

 

文:三浦ゆえ

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