夏場は6時間待ちも! 日本で今「かき氷」がブームの理由

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「和キッチンかんな」の一番人気は「いちご牛乳」(750円)。国産のいちごを使い、ジャムに近い製法で作った果肉が残るシロップに、練乳と牛乳を混ぜて煮詰めたシロップを合わせた Photo:廣川淳哉

 

<ここ数年、1年中かき氷を提供する店が増えつつあるが、なぜこれほど人気なのか。人気の秘密は、インスタグラムと濃厚なシロップだった>

 

東京・世田谷にあるコーヒー店で一息ついていたところ、窓の外の行列が気になった。その先には「天然氷」と書かれている。かき氷だ。

 

ここ数年、1年中かき氷を提供する店が増えつつあるが、かき氷が今、これほどまでに人気を集める理由とはなんだろう。都内の人気店を訪ね、ブームの理由を探った。

 

世田谷で見た行列の先にあったのは、かき氷を出す和食店「和キッチンかんな(以下、かんな)」だ。夏場は6時間待ちもザラ。繁忙期には店頭で名前を記入する記帳式で予約を受け付ける。昼に名前を書き込めば、夕方ようやく、念願のかき氷にありつけるほどの盛況ぶりだという。

 

かんなでは「いちご牛乳」や「抹茶」といったかき氷の定番メニューや、「あずきマスカルポーネ」「ティラミス」など変わり種のメニューを食べられる。

 

現在の場所に移転したのが2013年。店主の田中完児さんはもともと、10年ほど前に東京・祐天寺で和食店を営んでいた。当時、定食に付けるデザートとして着目したのがかき氷だった。昔からある日本の風物詩でありながら、まだまだ手を加え、改良の余地があると感じたからだ。

 

試行錯誤の末に生まれたのが、かんなのかき氷の特徴であり、他の人気のかき氷店でも見られるようになった、濃厚な手作りシロップとふんわり食感の氷の組み合わせだ。かんなの「ティラミス」は、その頃からある人気メニュー。そこから、「あずきマスカルポーネ」などのさらなるオリジナルシロップが派生していった。

 

 

■冬でも週末は1日200杯売り上げる

 

提供するかき氷が徐々に話題を集め、現在の場所に移転してからは、1年を通じてかき氷を出す店として広く知られるようになった。冬場でも週末は1日200杯、平日でも100杯を売り上げる。季節食材を使うなど、毎月、新フレーバーを開発し続ける田中さんは、かき氷人気について「クリーミーなシロップとふっくらした氷の味わいと、インスタ映えすることも大きい」と言う。

 

味の面で大切にしているのが、素材の追求に加えて「シロップと氷のバランス」だ。重すぎても、味気なさすぎてもいけない。両者のバランスの追求の一端は、シロップのかけ方にも現れている。

 

昔ながらのかき氷は、氷の上から下まで同一のシロップをかけたものが多いが、かんなでは、例えば「あずきマスカルポーネ」なら、きなこ味のシロップを使い、味に変化を付けている。

 

 

「あずきマスカルポーネ」(950円)は、食べ進めるうちに味の変化があるよう、きなこのシロップをミックス。夏場のフレーバーは「甘そうに見えるが、後味が重くならないものが人気」(田中さん) Photos:廣川淳哉

 

かんなでは「定番シロップ」は750円、変わり種の「限定シロップ」は950円、いずれも250円追加すれば、氷を天然氷に変更できる。

 

天然氷とは、屋外の人工池などで冬場に作っておく、素材も製法も天然の氷のこと。需要が高まる季節まで氷室に保管したあと出荷される天然氷は希少性が高く、扱う店舗には限りがある。かんなでは、夏の時期だけで1500貫(5625キロ)の天然氷を使うが、それでも氷が足りないため、市販の氷と天然氷を併用しているという。

【参考記事】アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏

 

 

■38年ぶりに復刻した家庭用「きょろちゃん」

 

調理家電メーカーのタイガー魔法瓶は、2016年、家庭用の氷削り器「きょろちゃん」を38年ぶりに復刻し販売した。発売からわずか3カ月で、2016年度の販売計画を達成するほどの売れ行きだったという。復刻の理由は、「今は手に入れられないのでしょうか?」という問い合わせがあったことがきっかけだとか。


かき氷人気について尋ねたところ、同社ソリューショングループ宣伝広報チームの結城咲さんは「これまでもかき氷は日本人に親しみのある食べ物でしたが、韓国や台湾などからフルーツをトッピングした見た目のかわいいものが入ってきたことで、インスタグラムなどの"SNS映えするおしゃれなスイーツ"として新たに見直されたことが理由ではないでしょうか」と、やはりSNS受けを人気の理由に挙げた。

 

きょろちゃんは、熊の形をした家庭用氷削り器。昨年、38年ぶりに復刻し、タイガー魔法瓶のオンラインストアなどで販売。氷を削るハンドルを回すと目が左右に動くのが特徴。http://tigerkyoro.jp/(きょろちゃん特設サイト)

 

次に話を聞いたのが、日本かき氷協会の小池隆介代表だ。同協会は「かき氷コレクション」という催しを主催するなど、国内のかき氷の発展に寄与してきた団体である。

 

小池代表はかき氷店に行列が絶えない理由を、「店それぞれに色や形のバリエーションがあって、写真を見るだけでも楽しい」と語る。写真映えすることに加え、「かき氷は作るのにも、食べるにも時間がかかる。テイクアウトできず、その場でしか食べられない」と人気の要因を指摘する。他のスイーツにあまりない「体験型」としての魅力もあるということだ。

 

日本かき氷協会では、全国のかき氷店を紹介する冊子「かきごおりすと」を発行。vol.1に掲載したのは約45店舗だったが、5冊目のvol.5では約190店舗を掲載。掲載数の増加からも、かき氷ブームが伺える。http://kakigoori.or.jp/(日本かき氷協会) Photo:廣川淳哉

 

小池代表によれば、現在、かき氷には第三次ブームが訪れていると言う。第一次ブームは、甘味処や和菓子店がかき氷を出していた古き良き時代。和菓子屋の売り上げは夏に落ちる傾向にあるため、かき氷がそれを補う存在となっていた。

 

第二次ブームは、たい焼きや今川焼きなどを扱う店舗や、祭りの屋台のような店舗がかき氷を扱うようになった頃。かき氷の裾野が大きく広がった時代だ。その次にやって来たのが、第三次かき氷ブームだ。

 

【参考記事】クラフトビールの「第3次」ブームが、これまでとは違う点

 

小池代表が「老舗ながらかき氷ブームを牽引してきた、ぜひ知ってもらいたい店のひとつ」と教えてくれたのが、東京・目白にある「志むら」だ。夏場になると、3台あるかき氷器をフル稼働させても、3~4時間待つこともあるというこの店もまた、押しも押されもせぬ人気店。ここもやはり、天然氷を扱っている。

 

 

■「かき氷を通して和菓子に触れてもらいたい」

 

同店でメニュー開発を手がけるのが、10年前から喫茶担当として働く江良保正さん。「女将さんと相談しながら、ちょっとずつメニュー開発を進めてきました。今では、年間30~40種類を出すようにしています」と江良さん。氷にそら豆を濾した餡をかけた「そら豆ずんだ」など、あくまでも和菓子の範疇で、かき氷の新たな味わいを模索し続けている。

 

東京・目白にある「志むら」の「そら豆ずんだ」は850円。「宇治金時」などの定番もあり、シロップにいちごの果肉が入った「生いちご」も人気。どれも、プラス100円で南アルプスにある八義の天然氷を選べる Photo:廣川淳哉

 

1939年創業の志むらの1階は、和菓子を販売する店舗スペース。看板商品は「九十九餅」。オリジナルシロップを使用したかき氷は、2階、3階の喫茶スペースで食べられる Photo:廣川淳哉

 

氷に添えた白玉は、看板商品の和菓子「九十九餅」と同じ白玉粉を使ったもの。「かき氷を通して、若い人にも和菓子に触れてもらいたい」と語る老舗店の和菓子職人もまた、かき氷ブームの立役者のひとりだ。

 

昨今のかき氷ブームについて尋ねると「間違いないのは、写真を撮って、ネットに上げたくなる見た目。うちは盛り方が特徴的で、通称、ガケ盛りと呼ばれています」。

 

志むらの「そら豆ずんだ」や「生いちご」などに見られるガケ盛りは、重量があるシロップを氷にかけると氷が沈んでしまうことから生まれた、独自の盛り付け方。ついレンズを向けたくなる、大胆なビジュアルだ。

 

【参考記事】日本独自のコーヒー文化は、喫茶店と缶コーヒーだけじゃない

 

日本かき氷協会の小池代表が「氷にかけるシロップはもはや、ソースと呼んだほうがしっくりくる」と語るように、SNSとの相性が抜群によく、かき氷を年中食べられるスイーツへと押し上げた濃厚なシロップこそが、近年のかき氷ブームの火付け役だ。

 

はたして、かんなの「あずきマスカルポーネ」や、志むらの「そら豆ずんだ」にかけられたオリジナルシロップはどんな味がするだろうか? その味わいを確かめる術は、行列覚悟で店を訪れる以外にない。

 

(文:廣川淳哉)

 

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