トヨタvsポルシェの「ル・マン24時間」。トヨタは“悲劇の3分”の雪辱を果たせるか?

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85回目の開催を迎える伝統のル・マン24時間レースが、6月17日土曜日の午後3時(日本時間午後10時)にスタートする。スタートから24時間後に最も長い距離を走ったクルマが勝ち、というシンプルなルールだ。アクシデントの処理などによるセーフティカー導入の頻度などにもよるが、24時間で5000kmを超える距離を走る。ピットストップの時間を含んだ平均時速は200km/h超、最高速度は330km/hを超える。


2016年の優勝車は5223kmを走った。周回数にすると384周だ。走った距離の割に周回数が少ないことにお気づきだろうか。ル・マンの1周は13.629kmである。世界戦が行われるサーキットの多くは1周4~5kmだから、ル・マンは相当に長い。しかも、コースの半分以上は一般道を走る。


24時間走るので、当然夜間も走る。ル・マン24時間は、6月の夏至に近い週末に開催するのを伝統とする。この時期、フランスの首都パリの南西約200kmに位置するル・マンでは、午後10時に日が沈んで、午前6時に夜明けを迎える。ヘッドライトの性能が高くなかった昔、できるだけ暗い時間帯を走らなくて済むようにした名残だ。

 

 

■4カテゴリーが混在。最高速は30~40km/hも違う!


2017年のル・マン24時間レースには60台が出走する。一般的な国際レースの2倍から3倍の台数だ。いくらコースが長いとはいえ過密に違いなく、目の前をひっきりなしに参戦車両が通過することになる。その参戦車両は大きく2つ、細かく言うと4つのカテゴリーに分類されている。


レース専用に開発された車両が属するプロトタイプと、市販車をベースに改造したツーリングカーだ。プロトタイプはさらに2のカテゴリーに分類され、自動車メーカーが主体となって参戦するLMP1(ル・マン・プロトタイプの略)と、プライベーターに与えられたカテゴリーであるLMP2がある。


ツーリングカーはLMGTEにカテゴライズされる。「ル・マン」「GT」「エンデュランス=耐久」を組み合わせた呼び名だ。このLMGTEカテゴリーは、「プロ(Pro)」と「アマチュア(Am)」の2つのカテゴリーに分類される。アマチュアとは俗っぽく言ってしまえば、お金持ちのレース好きで、「ジェントルマンドライバー」などと呼ばれる。そういうドライバーがプロと一緒に走るのがル・マンの特徴だ。


しかも、プロトタイプとGTでは最高速が30~40km/h違う。ラップタイムは30~40秒も違う。速度差は相当なもので、ル・マンで速く走るには、追い抜いたり追い抜かれたりするテクニックも必要だ。遅いクルマの処理に手こずっている間に同じカテゴリーのクルマが背後から迫ってくるなどという手に汗握るシーンは、ル・マンでは日常茶飯事で、醍醐味のひとつとなっている。

 

 

■アウディなき今、ポルシェとトヨタの一騎打ち

 

トヨタはル・マン24時間の前哨戦でポルシェを圧倒。2016年よりコンディションはよさそうだ

自動車メーカーが参戦するLMP1は車体とエンジンを独自開発しなければならない。2017年のル・マンにエントリーしているのは、トヨタとポルシェだ(2016年まではアウディがいて、三つどもえだった)。自動車メーカーが参戦するLMP1はエンジンに電動駆動系を組み合わせたハイブリッドとすることが義務づけられている。


瞬間的に使える燃料(ガソリンにエタノールを20%混合したE20)の量と、1周あたりに使える燃料の量が規則で制限され、1周あたりに放出できる電気駆動システムのエネルギー量も定められている。ゆえに、限られた燃料をいかにパワーに置き換えるかの開発競争になっている。燃料流量および総量、それに放出エネルギー量の規制を守る限り、エンジンの排気量が何リッターだろうと、何気筒だろうと、どんなシステムでハイブリッドを構成しようと、うるさいことは言われない。


ポルシェは2.0L・V4直噴ターボを選択した。ブレーキング時の減速エネルギーを電気エネルギーに置き換えて蓄え、後の加速時にモーターアシストとして利用するハイブリッドシステム(量産ハイブリッド車の仕組みと同じ)に加え、排気に含まれる熱エネルギーを電気エネルギーに置き換える熱エネルギー回生システムを搭載しているのが特徴だ。


小排気量ターボエンジンに2種類のエネルギー回生システムを組み合わせたポルシェ919ハイブリッドは、2015年のル・マン24時間レースを制した。2014年にル・マンに復帰したポルシェにとって、17年ぶり17回目(史上最多)の優勝となった。

 


■ポルシェ19回目の勝利か。それとも、トヨタが悲願の初優勝か

 

19回目の優勝を狙うポルシェは「勝ち方を知っている」

打倒ポルシェを掲げたトヨタは、ハイブリッドパワートレーンを一新して2016年のル・マンに臨んだ。2015年は3.7L・V8自然吸気エンジンを搭載していたが、これを2.4L・V6直噴ターボに置き換えた。ポルシェと違い、ブレーキング時のエネルギーを電気エネルギーに置き換えるシステムだけに頼る。


システムを一新した効果があり、形勢は逆転。2016年のル・マン 24時間はトヨタが有利に駒を進め、ポルシェに1分半の差を築いてフィニッシュの瞬間を迎えようとしていた。トップでゴールすれば念願の初優勝である。1985年にル・マンに初参戦したトヨタは、ブランクの後、量産車向けよりはるかに高性能なレーシングハイブリッドを引っ提げて2012年にル・マンへの挑戦を再開していた。


だが、残り3分、ゆうゆう先頭を走っていたトヨタTS050ハイブリッドをトラブルが襲う。「ノーパワー」と叫んだのは、そのときステアリングを握っていた中嶋一貴だ。突然の出来事にドライバーもチームもどう対処していいかわからず、一貴はたまらずピット前にクルマを停車させた。その横を、1分半後方にいたはずのポルシェが通りすぎていく……。


後々まで語り継がれるであろう、「悲劇の3分」である。このときの悔しさがあるからこそ、2017年は負けられない。2016年のハイブリッドパワートレーン(だけでなく空力も)を大幅に進化させたトヨタは、ル・マン24時間に至る前哨戦で、ポルシェを圧倒。2016年より好調に見える。

 

トヨタかポルシェか…答えは6月18日(日曜日)日本時間午後10時に出る

だが、「油断はならない」と気を引き締めるのは、トヨタでハイブリッドプロジェクトリーダーを務める村田久武だ。「じゃんけんと同じです」と村田は言う。「今まで勝ち続けているからといって、次も勝てると決まっているわけではありません」と。


相手はポルシェだ。どんな手を隠しているかわかったものではない。勝ち方を知っているポルシェが19回目の栄光を手に入れるのか。それとも、トヨタが悲願の初優勝を果たすのか。答えは6月18日午後3時(日本時間午後10時)に出る。
 

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世良耕太

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全...

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