【今週の大人センテンス】客の食べ残しに対する店としての複雑な気持ち

ライフスタイル

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第63回 「SNS映え」に振り舞わされる愚

 

「店は文句を言うほど客側に干渉すべきではないし、だからといって、お客さんもお金を払えばいいって問題でもない」byラーメン店店主

 

【センテンスの生い立ち】

「週刊女性」6月27日号(6月13日発売)が「食べ残し」をテーマにした記事を掲載。ネット上にも配信され、大きな話題を呼んだ。SNSに投稿する目的で、食べ切れないのに超大盛りのラーメンを注文したり、回転寿司店でネタだけ食べてシャリを残したりする人がいるという話題をあげつつ、食べ残しについていろんな方向から考察。大盛りラーメンを提供しているお店の店主は、面白半分で食べ残す客に対して複雑な心境をコメントした。

 

【3つの大人ポイント】

  • 困った客への違和感をギリギリの表現で示している
  • 作っている側の思いや誇りをそっとにじませている
  • 「客としての心得」について深く考えさせてくれる

 

飲食店で食べ物の写真を撮る光景は、もはや当たり前になっています。少し前まではカメラやスマホを向けると渋い顔をしたり、「写真はご遠慮ください」という店もちらほらありました。しかし、今はお店の側もあきらめたのか、宣伝になるからむしろ歓迎と思っているのか、何も言わずに写真を撮っても渋い顔をするお店はほとんどありません。そりゃまあ、冷めないうちに食べたほうがいいのは当然なので、お行儀が悪い行為ではありますけど。

 

最近よく聞くようになったのが、「SNS映え」や「インスタ映え」という言葉。オシャレな盛り付けのパンケーキや丼の上に炎が高く上がるラーメンなど、フェイスブックやインスタグラムでウケがよさそうな派手なメニューを出しているお店に、国内だけでなく、海外からの観光客も大量に押し寄せるといった現象が起きています。食べることよりもSNSにアップすることを目的に、話題の店を訪ね歩く人も少なくありません。

 

そんな風潮の中で話題になっているのが、最初から食べる気がないのに写真映えするからと超大盛りを注文をしてほとんど残したり、食べ放題の店で大量にお皿に乗せて食べ残したことを誇らしげにSNSにアップしたりする人たちの存在。「SNS映え」とは関係ありませんが、回転寿司店でネタだけ食べてシャリを残す人が出現しているという話もあります。

 

今年3月には、迫力満点の大盛りっぷりが人気のラーメンチェーン店「二郎」のあるお店が、客に「2度と来ないでくださいね~♡」と言ったエピソードをツイート。さまざまな意見が、ネット上で激しくぶつかり合いました。そう言いたくなった客は、店が「大は多いので初めての方は小でと再三お願いしたのにいいから大全部マシ」と注文し、半分以上残して笑いながら「食えるわけねーよ」と言ったとか。まあ、そりゃ腹立ちますよね。

 

「週刊女性」6月27日号(6月13日発売)には、増加する一方の「食べ残し」にスポットを当てた記事が掲載されました。ネット上の「週刊女性PRIME」でも無料で読むことができます。

 

この記事でも、店の名前は伏せられていますが明らかに上の「二郎」の騒動に触れつつ、大盛りラーメンを出す店の苦悩が紹介されています。「迫力のある写真をSNSに投稿し高評価を得たり、面白半分や流行に乗るためなどの目的から必要以上にトッピングを追加、大量に残す客は少なくない」とか。そのことについて、大盛りラーメンが人気の「らーめんこじろう526渋谷店」店主の守屋弘実さんが、店側の複雑な心境をコメントしています。

 

「途中で体調が悪くなったり、想像していた味や量と違う、と残してしまうこともあるので仕方ない場合もあります。ただ、手間ひまかけて一生懸命に作ったものを面白半分で残されるのは嫌ですよ。怒る気持ちもわかる。でも、店は文句を言うほど客側に干渉すべきではないし、だからといって、お客さんもお金を払えばいいって問題でもない」

 

どんな食べ方をしようが客の勝手、という考え方もあります。客の食べ方に店がどこまで干渉していいかは、判断が分かれるところでしょう。このコメントは、当然のように食べ残す客への違和感や怒りをギリギリの表現で示しつつ、作っている側の思いや誇りをそっとにじませています。そして、ともすればないがしろにされがちな「客としての心得」についても深く考えさせてくれました。

 

「自分は面白半分で残したりはしない」と思ってはいても、SNSにアップして「いいね!」やコメントをもらう快感に溺れて、食べ物や店への敬意や感謝を忘れることもあるでしょう。私もしばしば食べたものをフェイスブックにアップすることがあり、胸に手を当てて考えてみると、その落とし穴にはまっているかもしれません。SNSは楽しいツールですが、はまりすぎや「SNS映え」に振り回される愚には気を付けたいものです。

 

記事には、食べ残しが地球環境に及ぼす影響や、持ち帰り運動を推奨する意見なども掲載されています。「金を払えば何をしても客の勝手」というのは、明らかに勘違いであり、あまりにも恥ずかし過ぎる了見。日頃仕事で客のワガママに苦しんでいる立場の人が、自分が客になったときにワガママに振る舞うケースも少なくありません。まさに負の連鎖。お金を払う側とサービスや品物を提供する側は、あくまで対等です。

 

客は店に不満があれば冷静に伝えて、店も度を越して失礼な客には怒っていいんじゃないでしょうか。「食べ切れないのがわかっているのに、大盛りを頼まないでほしい」と食べ方に干渉してもぜんぜんOKだと思います。ただ、店を選ぶのは客の側なので、さまざまな価値観や感覚を持った客に対して店側が気をつかわざるを得ないという宿命はあります。意表を突く反応をする人や話が通じない人は、きっと多いんでしょうね。

 

いっぽうで、店の側もSNSでの拡散を狙って、全部食べるのはそもそも難しい量だったり味は二の次だったりする「SNS向け」のメニューを売りにするケースもあります。店としては、一種の劇薬のような面もあるのかもしれません。どっちもどっちとも言えますが、それこそ店を選ぶのは客なので、インパクトだけを重視したメニューが人気を集めてしまう風潮がなくなれば、どこも作らなくなるでしょう。ま、店の側の問題はさておき、私たちが考えたいのは客としてのあり方です。

 

客であることを振りかざして威張るよりも、店に対して敬意を持ちマナーを守って接したほうが、よっぽど深い満足感が味わえる――。食べ切れなかったメニューの写真をSNSにアップして上っ面な称賛をもらうより、「もったいない」と思って食べ物を大切にするほうがはるかに気持ちいい――。人生はいろいろ厄介なことや甘い誘惑がありますが、しっかり踏ん張って、そんな当たり前の前提と美意識を忘れない大人であり続けたいものです。

 

【今週の大人の教訓】

背筋を伸ばす快感を求めるのが大人の貪欲さ

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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