女医が忠告!「卵子凍結」で安易に妊娠を先延ばしにする前に知っておきたいこと

ヘルス&ビューティ

清水なほみ

 

医療の技術の進歩によって、様々な選択肢が増えてきました。例えば、「体外受精」という技術がない時代では妊娠をあきらめざるを得なかった人たちが、今は体外受精によって妊娠が可能になっています。生殖医療の分野だけでも、卵子提供・精子提供・代理母など、一昔前では考えられなかったような「子どもを持つ方法」が新たに選択肢に入ってきました。

 

その中のひとつが、「卵子凍結」という方法です。受精卵を凍結保存しておき、体外受精を何度か行えるようにする技術は以前から確立していましたが、凍結技術の進歩によって、未受精卵でも凍結保存することが可能になってきたのです。

 

本来は、がんの治療などの影響により卵子にダメージが出てしまうことが予測される場合に、治療前に卵子をとって凍結保存しておくことで、将来の「妊よう性(妊娠できる能力)」を失わないようにすることを目的として開発された技術です。すでに「医学的適応」つまり、病気の治療のために卵子の機能が失われる可能性がある場合に卵子凍結をすることは、日本産婦人科学会でも認められており、治療前に卵子凍結という方法があることを情報として提供することが求められるようになりました。

 

一方で、日本産婦人科学会は「社会的適応」つまり、何も病気はないけれど生物学的な妊娠適齢期に妊娠を目指せないかもしれないから加齢による卵子の質の低下を懸念して若いうちに卵子を凍結保存しておく、というケースに対しては「推奨しない」という見解を示しています。

 

凍結した卵子で妊娠できる可能性が高いわけではないこと、卵子を採取するための投薬や採卵による体へのダメージ、また、凍結保存するために必要な費用の懸念とともに、「卵子を凍結しているから何歳でも産めるわ」と安心してしまって妊娠を先延ばしにしてしまうリスクについて総合的に判断した結果、「推奨しない」という結論に至った模様です。

 

中国では、キャリアアップを途中で中断したくない女性たちが、安価で卵子凍結を行える台湾に行って凍結を行っているということが話題になっていましたが、日本国内ではまだ社会的適応で卵子凍結を行っている女性はわずかです。

 

また、実際に凍結した卵子を使うチャンスがないまま時間が過ぎていっている現状があるようです。国内で、社会的適応のために卵子凍結を行っている病院は限られており、費用も凍結を行うだけで数十万~100万円かかりますし、凍結し続けた場合その維持費が年間10~20万円かかる可能性があります。浦安市では卵子凍結に対して費用の一部を助成する制度がありますが、年齢や年数に制限があります。一方で、40歳以上で妊娠しようとした時に体外受精を行ったら、1回の治療で30~50万円はかかりますから、成功する確率から考えれば、卵子凍結の方が結果として費用が少なくて済む可能性もあります。

 

卵子凍結を行う年齢に明確な制限を設けていない病院もありますが、卵子の質の低下が起きる前に凍結しなければ意味がありませんので、実際は35歳未満での凍結が推奨されます。凍結する年齢が若いほど卵子の質はよくなりますが、その分その卵子を実際に使用するまでの期間が長くなる、つまり保管期間が長くなります。長期間保管せずに使用することができるのなら、そもそも卵子凍結など行わず自然に妊娠を目指せばよいということになります。保管期間が長くなれば、例えばその期間中に災害などがあって保管状態が悪くなるというリスクも高まるわけですから、20代のうちにとにかく早く凍結すればいいというものでもないわけです。

 

ある調査では、卵子凍結という技術があることを知っているかという質問に対しては9割以上の女性が「知っている」と答えたのに対して、実際に自分が卵子凍結を行いたいと思うかという質問に対しては4割の女性が行いたくないと答えています。

 

卵子凍結という選択肢が広がったこと自体は歓迎すべきことかもしれませんが、この技術を自分のライフプランの中でどのように活用するのかは各自がきちんと考える必要があります。やみくもに「将来の不安」を消すために、保険をかけるかのように卵子凍結を行うことはお勧めできません。少なくとも20代のうちに、不安をあおられて卵子凍結を行うことは、医師としても、女性としても「ちょっと待って」と言いたくなります。

 

30代の自分のライフプランをじっくり考えた時に、「今のうちに卵子凍結を行わなければ、やりたいことと妊娠の二者択一の人生になってしまう」と判断したら、35歳までに卵子凍結を行ってやりたいことをしっかりやり切ってから妊娠するのもありなのではないかと思います。ただし、高齢妊娠のリスクや、生まれてきた子どもが成人するまで親として責任を持って育てられる年齢的リミットも考えると、やはり45歳までに凍結した卵子を使えるようなプランを同時に立てる必要があるといえるでしょう。

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清水なほみ

清水なほみ

女性医療ネットワーク発起人・NPO法人ティーンズサポート理事長。日本産婦人科学会専門医で、現在はポートサイド女性総合クリニック・ビバリータ院長。女性医療の先駆者の下、最先端の性差医療を学び、「全ての女性...

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