西原理恵子『毎日かあさん』が“ドロドロだった私”に教えてくれたこと

話題

 

■『毎日かあさん』、各自解散!

 

「子育て終わり、お母さん卒業、各自解散(笑)」。(西原理恵子さん)

各自解散、ってなんて突き抜けた、初夏の青空みたいな表現でしょうか。あぁ、ただひたすら、清々しいなぁ。

 

西原理恵子さんが毎日新聞紙上で15年に渡る連載を続けてきた大人気マンガ『毎日かあさん』が来週6月26日(月)付けで終了することとなりました。

 

サイバラさんのコメントによれば「娘が16歳になり、経済的支援以外、お母さんとしての役割は終わった」とのこと。『毎日かあさん』開始時どころか、サイバラさんの著作を「恨ミシュラン」以来四半世紀以上ほぼ全て読み続けてきた私からすれば、確かに、ママを「おかしゃん」と呼んでいたあの小さな”ぴよ美”ちゃんがもう高校生だなんて、隔世の感あり。そしてサイバラさんには「おつかれさまでした。そしてありがとうございました」と、同じ母として感謝の言葉を送りたいです。

 

 

■親戚の家みたいな感覚

 

私にとって、サイバラさんは上の子の年齢はほぼ同い年なものの、息子育てに関して大先輩と崇めてきた存在。『毎日かあさん』は私が育てにくい息子(下の子)にぐるぐるしていた時期を最も支えてもらった大好きな作品です。

 

『毎日かあさん』は、その約15年の連載の間に、サイバラ家にあまりにもいろいろなことが起きました。第1巻でいきなりお父さんとお母さんが離婚。シングルのワーママとなったサイバラさんとおばあちゃんと子どもたちの家庭に、子どもの友達やママ友、仕事友達がたくさんやってきて、賑やかでエピソードに富む日々。子どもたちを連れて、フツーは行かないような僻地やアジアのマニアックな場所へ何度でも(何なら学校休ませてでも)旅行。

 

そこへ、4巻の衝撃。アルコール中毒で家族と離別したはずの鴨ちゃん(夫)が末期の癌に冒され、「最期は家族と一緒に過ごしたい」とアルコールを完全に断ち、家族の元へ帰ってきたのです。それを受け入れ、他界するまでの半年をみんなでただひたすら楽しく過ごし、家族で鴨ちゃんを見送った。サイバラさんが女として、母として、アーティストとして苦悩しないわけがない。4巻を読んで小一時間泣き通した日の気持ちは今でも忘れられません。

 

3ヶ月の休載後は、また子連れで旅に出たり息子が中学受験をしてみたり、猫を飼ったり、犬を飼ったり、その間に子どもたちがどんどん成長して行って(この漫画では直接的には描かれませんがサイバラさんにも新しいパートナーができて)……と、読者はサイバラ家をまるで親戚の家くらいに近しく詳しく知りながら、自分も15年を過ごしたのです。

 

 

■『毎日かあさん』はペアレンタルコントロールのかかったサイバラ節だった

 

大新聞・毎日朝刊に連載された『毎日かあさん』に限らず、SPA!連載でだいぶ大人な話題がてんこ盛りだった『できるかな』や、週間新潮連載で佐藤優さんの政治経済論を全く無視してサイバラさんが独自のセンスで漫画をつけるお家芸の『とりあたまJAPAN』にビッグコミックスペリオール連載の『人生画力対決』、他にも『まあじゃんほうろうき』『ちくろ幼稚園』『鳥頭紀行』『ぼくんち』『いけちゃんとぼく』『パーマネント野ばら』など、サイバラ作品を高校生時代から読み続ける私のせいで、我が家ではサイバラ作品が初期のものからずっとほぼ網羅。

 

「仮にいま年齢的に不適切な内容であっても、数年もすればいずれどうせ読むのだから読んでよし。むしろその年齢でそれを読みたいと思った知的好奇心を褒めてやる」と、特に活字関係に関しては年齢制限を設定しない我が家で、10(とお)に満たないうちからそれらを読んで育ち、いまや大学3年生となった娘が言いました。「そういや『毎日かあさん』って、サイバラさんの人生観にペアレンタルコントロールが上手にかかった安全圏の状態で読めるから、いちばん世間にすっと浸透し得たんだよねぇ」。

 

「あなた、がんちゃん(西原さんの息子)とほぼ同い年だからね」

 

「えーそうかー、がんちゃんが大きいなら私も大きいわけだー」

 

ね、一方的ながら「エア親戚状態」でしょ。

 

 

■『毎日かあさん』が教えてくれたこと

 

いつの間にか13巻にまでなっていた『毎日かあさん』ですが、そこにサイバラさんの個性的な悪筆でみっちりと、あるいはふんわりと書き込まれる文章には、一度読んだ瞬間に心に刻みたいと思うような名言がたくさんありました。

 

私らぐらいになるとねえ。このぐらいの赤ん坊の泣き声は、鈴の音みたいに聞こえるよ(毎日かあさん3巻・背脂編)

 

私が、泣き止まない小さな息子を育てながらぼちぼちと仕事も再開したものの、しんどさでドロドロになり、世間を呪っていた頃に出会った言葉です。同時期に発売されていたサイバラさんの名著『あぁ息子』(毎日新聞社)での、デキの悪い息子を持つ母たちの愛溢れるエピソードたちと相まって、「そうだ、泣き声は生きてる証だよなぁ。子どもなんてどうにか生きてりゃいいんだ、子育ての志なんか低くていいんだ。生きてるだけで十分にありがたいもんなんだ」と思えたのでした。

 

そして、「年を取るっていいもんだな、赤ん坊の鳴き声が鈴の音みたいに聞こえるようなおばあちゃんになりたいものだな」と、女の”その後”の道にも、希望が持てたのでした。

 

現在、毎日新聞の『毎日かあさんち』サイトで見られる最新の公開漫画は、最終話より一つ前、6月12日掲載のもの。

 

 

これから結婚する人へ 仕事も育児もしんどいけど、現場はやっぱ楽しいよ。(作中より)

 

そう、やる前には不安もたくさんあるだろうし、実際、始めたらしんどくないわけはない。ていうか、結婚も育児も「生き物にガチで向き合う」作業なんだからさ、しんどくないわけはないんですよ。でも実際に手を動かし始めたら、現場は結局楽しい。「楽しいよ。よかったらおいでよ」と後進の女たちにふんわりと声をかけられるサイバラさん、本当に毎回「さすがだなぁ……」と笑わされ、じんわり泣かされることばかりでした。6月26日(月)の最終回は必ず毎日新聞朝刊を駅売りで購入し、長年のファンとして最敬礼を送りたいと思います。
 

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コラムニスト

河崎 環

河崎環(かわさきたまき)/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭学園中高から転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Web...

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